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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第17話 machine of Duel ~魔剣使いの少年~

 リオネスはその刀身を、構える少年の両方を血走った目で食い入るように見つめている。
 余裕綽々で観察していた先程までの余裕は見る影も無く、握り締めた手の内側は汗でびっしょりだ。
 嘘だ、ありえない、と脳が否定するもガラス越しにやや距離を置いてなお伝わる圧倒的な威圧感に本能が理解する。

 あの短剣は本物だ、と。

 輝かしい栄光は僅か。
 恐ろしい破滅は数多く。

 それ故に人知の理解を超えたオーファクトである、という説得力を持ちつつも手を伸ばすことを躊躇い、しかし苦悩の果てに手に取る事を選ぶ事すらある強力な魔性を備えた魔剣のオーファクト。
 自身の心血を注いだ研究はまだその道の途上だという自覚があるリオネスにとって、この遭遇は喜ばしい事態ではなくなった。
 たった一人のワンダラーすら圧倒できぬ能力では困る。故に力量差を始め、現場での動作、運用法などを実地検分できるまたとない機会だと思わず心躍った気持ちは今のリオネスには無かった。

(……場合によっては逃亡を考えねば……もしも、もしもあれが本当にウェバルテインなのだとしたら……!)

 元々彼の研究で生み出された実験体は量産し数で圧倒するという前提が主軸になっている。
 ただ斬るだけでは通じず、ただ銃弾を打ち込んでも足は止まらぬ巨体の兵隊の群れ。
 打撃にも十分強いため、飛行船を使って空中から投下するなどのようなゲリラ的な運用でも問題なく機能し、なおかつ撃退には時間を要する使い捨ての兵隊。
 考えるまでも無く様々な局面で使い道がある。
 それ故に、多種多様なオーファクトを扱うワンダラーへの対処は彼の中では重要課題となっていた。少数で多数の兵を圧倒できる巨人も、たった数人のワンダラーが相手ではあっさりと敗北する、では意味が無い。大半の国家の軍部は優れたワンダラーを抱えているのが殆どだ。その懸念を覆せない限り、彼の研究は重用されることは無い。
 それを自覚していたからこそ、この状況は彼にとっても色んな意味で手に汗握る戦闘となった。
 伝説級のオーファクト、それに少しでも抗えるのならばこの研究は歴史を変える一手に届きうる、と。

 普段は冷静なリオネスが珍しく息を荒げているのは焦りや緊張だけではなかった。
 理想に燃える彼にとってこの状況が僅かな希望にも繋がるかもしれないと考えれば、興奮するのも仕方ない。
 だが――それは浅慮に過ぎる思考だった。

 先程までと変わらず、アルセスは反応の鈍い実験体を翻弄するように左右にフェイントをかけながら接近、あっさりと自分の間合いへと実験体を捉えた。
 ここまでは難しい事ではない。そもそも実験体の動きは並以上程度の素早さであり、元々敏捷性には自身のあるアルセスが機敏さで遅れを取る事は無いのだ。
 だが、黒い刃を解放したとして斬るだけでは通じぬのは判明済み。

(さあ、さあ! そこから何をするのだ!? この私に見せてみろ!!)

 リオネスのそんな心の内など知る事無く、アルセスは素早く――ウェバルテインを振るった。
 大きく×の字を描くような交差斬撃。その間合いの内には先程の短剣の刃渡りでは切り裂けなかった腕や足全体を切り裂く長い剣閃を描いた。
 それはさながら黒い闇の一条がその内に全てを飲み込むが如き魔刃。
 刃に触れるもの全てを等しく壊し、斬る。
 ウェバルテインの常識外れの斬撃と速さが相成って――再生するよりも僅かに早く実験体の両手足は切り離された。
 されど、その程度はリオネスも想定済み。切れ味が高まり、速さが揃えば再生するよりも先に切り落とされる事もあるだろう事は彼とて予想していた。

(実験体の肉片同士は――結合しようと引かれ合う! 例え四肢を失い転がった状態であっても、いずれ切断された部位は本体へと戻る!)

 彼が施した対策に従い、まるで別種の生き物であるかのように実験体の切断面に向かって斬りおとされた腕や足が浮遊を始めて移動する。
 本当に単純な物理攻撃では損傷にならず、ダメージを与えるには肉体もろとも消滅させるかしなければならないのか、とアルセスは感心にも似たため息をついた。下手な魔物以上のサバイバリティである、と。

(焼夷弾とか特殊な銃火器を揃えてようやく相手できるって感じだな……だが、その手の大火力の銃火器は周辺への被害が自然と大きくなる……都市部でこんなのがあちこちで展開されたらかなり手を焼くだろうな……)

 リオネスの掲げる歴史に名を残す、という点はあながち誇大妄想では済まないかもしれないと、アルセスは彼を単なる狂人と侮りそうになった評価を改めた。
 この実験体一つで軍部の戦力階級の塗り替えは流石に大袈裟だが、主力の兵力の一つとして取り込む国が現れてもおかしくなかった。使い捨て前提という点で踏まえるなら生物爆弾と言ったところだろうか。制御や運用の難を解決するのはまだまだ難しそうではあるが、それを解決する策が恐らくヤツの所有するオーファクトなのだろう。

「ま、それもこれもたった今、夢物語に終わるけどな」

 ウェバルテインの切っ先を再生が始まろうとしている実験体の腹部に向けてアルセスは集中する。
 生命力と心気、その両方を要求するウェバルテインは規格外のオーファクトだ。それ故に所持者への負担は甚大で、いずれ必ず所有者を食い尽くす――すなわち破滅をもたらすと伝えられてきたわけだが、アルセスにはその恐れが一切無い。
 当然の様に頭に流れ込む心機述構(グリモワルアート)を操る言霊を口にする。
 ワンダラーにのみ許された超常現象。数々のオーファクトの中でもその最古と謳われたウェバルテインの副武装とでも呼ぶべきその業を。

第二階層(セカンダリ)情報領域(データベース)展開(オープン)戦闘述構(バトルデバイス)第三位(サード)――不傷の力場(デノクフォース)!!」

 アルセスが力強く紡いだ言葉が発されると同時、ウェバルテインと実験体の間の空間が歪みまるで弾ける様に衝撃が生み出された。
 三メートルの高さに届く巨体、なおかつ重厚な肉の塊とも呼べる実験体を軽々と、そして勢いよく後方の壁まで吹き飛ばしたのは制約に基づいてウェバルテインに刻まれた心機述構(グリモワルアート)が一つ、念動衝撃波のアートである。
 如何なる巨体であろうと、物理干渉の通じぬような軟体動物や液体生物であろうと、指定した対象を凄まじい速度で弾き飛ばす念動の力は、しかしその名が示すとおり相手に一切ダメージを与えることは無いという制約を課されている。
 アートが生み出した衝撃そのものは「相手をその場から後方に動かすこと」のみに集約され、このアート自体には殺傷力はゼロだ。無論殴られたような痛みすら相手は感じないだろう。
 代わりに――如何なる防御をも貫く特性を備えている。心気による対アートに特化した防御術などを展開するなどの抵抗によってアルセスが設定した距離よりも短くなるという減衰こそ生じるが、相手を退かせるという特性は決して揺らがぬ超常の力場。
 まるでボールの様に転がっていく実験体の本体を、千切れた腕と足がゆっくりと追いかけて行く様はシュールを通り越してややホラーである。だが、これでアルセスが欲しかった時間は稼げた。

 実験体の体のどこかに、あの肉体を維持するための核は存在する。
 それを探してやたらめったらに切りつけるのはスマートではない。
 凄まじい斬撃を生み出す刀身。
 常識外れの心機述構(グリモワルアート)
 ウェバルテインを伝説たらしめる要素は――後一つ。

遠隔端末(アンテナビット)射出!」

 アルセスが掲げた刀身が若干短くなり、代わりに黒い光で形成された細い針のようなものが四つ生み出された。
 それはアートの発生源となる受信機となり、時にはアルセスに追従し敵を切り裂く刃であったり、今の様にウェバルテインの刀身そのものを補佐する力であったりと様々である。
 黒い光の正体とは、可視化したウェバルテインの力そのものだ。故にその姿も用途も所有者の意図一つで千差万別。攻撃、防御、補助、あらゆる用途に扱える汎用性を備えたウェバルテイン独自の特性だ。
 だが、この力ではない。この力はあくまでウェバルテインの強大さを支える要素を生み出す因子の一つでしかない。
 アルセスの意思に従い、放たれた黒い針は実験体の腹部に突き刺さる。
 その点を結ぶは――十字。
 そしてその針が担う役割は――受信と発動。

 いつの間にかアルセスの隣に控えた少女は左手をやや離れた実験体へ向け、そして見下すような笑みを浮かべながら、鈴を転がすような可憐な声で、

(テン・)(パニシュメント)展開(オープン)一の断罪(ワン・ジャッジ)――絶望の十字刑(ディスペアクロス)!!」

 残酷な死刑の宣言を行った。
 遠く離れた相手にさえ干渉する心機述構(グリモワルアート)の行使。その発動の鍵となったのは、アルセスが放った針の形をしたウェバルテインの力より生み出されし端末である。
 実験体の表面に突き刺さった四つの点より十字架が刻まれる。
 黒い十字は文字通り相手の身体を包み込むように巨大化し、まるで痣のように徐々に全身に浸透し、そしてその内に潜む相手の「急所」を握り潰す。
 物理的ではなく、概念による圧迫。
 生物として生まれた以上、人間であれば心臓に匹敵する何かが必ず存在する。
 それを的確に狙い、闇の内に飲み込み仕留める大規模心機述構(グリモワルアート)
 アルセス単独では決して使いこなせぬ人外の技も、ウェバルテインの内より生まれしティエナにとっては容易いこと。
 締め上げるように実験体の身体を黒く染め上げた心機述構(グリモワルアート)はやがて音も無く静かにその光を消し、最後には――機能を停止した実験体だけが残された。
 このアートは本当に――急所だけを塗り潰し消滅させる、という点に集約されている。
 ある意味ではもっとも効率的に相手を倒す手段と言えるだろう。特に大型の魔物相手にあっては、貴重な素材を一切傷つけずに手に入れられるという効果も大きい。
 闇より出でし黒十字は、相手の心臓に匹敵する何かを抱いて再び闇へと還る。

「斬っても撃っても効かないなら――直接核を潰すだけだわな」
「ええ、あまり大きすぎる相手だと色々心配な点はありますが、あの程度なら何の支障も無いですからね」

 そう、今の様に相手の核となる箇所が何処にあるかが分からない場合、そこに届くまで十字を巨大化させねばならない。
 必然、それに伴って――アルセスの生命力と心気もまた際限なく吸い上げられる。その量は彼が普通に使う心機述構(グリモワルアート)の比ではない。ティエナははっきりと口にしなかったが、彼女が一番懸念としていたのはその点だけだ。
 敵を倒せぬことではなく、アルセスを食い尽くしてしまわないか。
 そのリスクが常に付きまとう彼女が使うアートの中でも最上位のカテゴリに位置する十の心機述構(グリモワルアート)(テン・)(パニシュメント)とは、彼女が生まれるより以前、ウェバルテインが作り出された際に刻み込まれた古い記術式によるヒトの手には扱えぬアートなのであった。

「……アルセス、疲労は?」
「……問題ない。コレにも大分慣れたからな。まだ戦う分には余力はある」
「……いいですか、アルセス。前にも約束したとおり、無理だけはダメですよ。まずいと思ったら撤退しますからね、何があっても」
「ま、あそこで呆けてる様子を見る限り、これ以上はもう打つ手なしって感じだけど……油断は禁物だな」

 押し殺した声で状況を再確認しあうと、アルセスは実験体に刺さったままの針を手元に戻して回収し、ウェバルテインの刀身へと再び組み込んだ。
 その様子を見て我に返ったのだろう。リオネスは慌てふためいたように左右を見渡すと、壁に向かって走り出した。そのまま激突するかのように見えたが、まるで当然の様に壁がスライドして道が現れた。

「あっ、ちゃっかり逃走用の道を用意してましたよアイツ!」
「あそこに閉じ篭ったら出られないじゃん、って思ったけどやっぱりそんな事はなかったか……追うぞ、ティエナ!」
「ええ、ここまで来てトンズラとか認められるものですか! アルセス! あの扉をさっさと斬っちゃって下さい! まだロックかかったままですよ!」
「あいよ!」

 すかさず駆け出したアルセスは目にも止まらぬ早業で鉄ごしらえの扉を切り裂いて先程の部屋へと転がり込む。
 すると、そこでは何故か気絶してカエルのように伸びているリオネスの姿と、

「いよう、お二人さん、お疲れだったな」

 そんなリオネスを見下ろしながら気さくに声をかけてきた男の姿があった。
そろそろティエナさんが、ヒドイン、ゲロインなどに
続く称号、メンドインを名乗ってもいいのではないかと
思う今日この頃。

厨二? ハッハッハ、何の事やら(目逸らし
+注意+
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