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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第12話 揃う情報 進める計画

 三番街ストリートの商店街に中々洒落た店が出来た。

 そんな噂が噂を呼ぶくらいにはルガーが出店したレストラン「ハイドアウト」は開店から一週間で、早くも常連を獲得し、副業としてはそこそこの利益を生み出せるようになっていた。
 堂々と「隠れ家」を名乗るのはどうなんだと、アルセスもティエナも突っ込んだのだが、コンセプトがそもそも「こっそりと来たくなる店」だから問題ないと言い切ったルガーである。
 実際、商店街の中でも目を引くような看板があるわけでもなく、薄暗い訳ではないが窓から見えるロケーションも限られており店舗の立地としては間違いなく二流に属する。
 しかし、一度扉をくぐれば落ち着いた雰囲気と華やかなウェイトレスが出迎え、それでいて一人であろうと家族連れであろうと、分け隔てなく利用しやすい落ち着いた調度品で整った店内。加えて、出てくる料理のどれもが値段以上の味で量も満足となれば、積極的な宣伝を打たなくとも少なくとも近所ではすぐに話題になるほどではあったのだ。
 今日は生憎の雨模様という天気であったが、昼時を過ぎたにも関わらず店内にはまだまばらに客が料理や会話を楽しんでおり、ウェイトレス達は忙しなく働いているという様子であった。

 そんな上の様子とは裏腹に、地下の会議室では数人の実働メンバー達とルガーがテーブルの上に広げた地図を前に作戦会議を行っていた。
 ランプが照らし出す薄暗い空間、ではなく、潤沢に用意された照明による閉塞感とは無縁の室内で、だ。
 日陰者達の集いと呼ぶにはいささか不似合いと言われそうな雰囲気だが、集まっているのは厳つい男やむさ苦しい顔の男が大部分である。

「予想はしてたが下水道は迷路だな。ここを逃走経路のメインに使うのはちとキツいか」

 ルガーが参ったなと笑い飛ばしながら呟く。

「出口となるマンホールの位置がどこも街中で目立つ場所にありますからね。昼間は間違いなく蓋が開くだけでも誰かしらに目撃されるのは確実でしょう。ここを使って逃げるとか考えない方がいいんじゃないですかねー。夜中なら見つかる可能性は低くなりそうですけど……うーん、無理でしょうねー」

 ティエナが明るい顔で駄目出しするが、アルセスも同意見だった。

「夜中だとしても大通りとかのマンホールからは堂々と逃げるわけにはいかないだろ。あの辺は夜でも街灯でそこそこ明るかった。出るのも入るのも難儀するぜ、きっと」

 その発言に他の団員達も口を挟まない。
 入り組んだ通路。シャッターによる分断。把握しにくいマンホール。
 例え地図が頭に入っていたとしてもここを利用して逃げようとはあまり考えたくは無い。不衛生だからという理由だけではなく、街中の方がまだ追っ手を撒く事が可能だと判断したからだ。

「侵入経路としても微妙だな」
「そりゃ、どこの重要施設がこんなある意味で直通の通路を繋げるんだよ」

 ルガーが腕を組みながらしみじみと呟くがアルセスは当たり前だろうとあきれ返った。
 例え厳重にしていようともこんなセキュリティの甘い勝手口を施設の内部には繋がないだろう。

「実際の所、下水道の魔物討伐の時は役所がマンホール周辺の道路を一時的に封鎖したりとか、結構大掛かりな事をしてるっぽいッスよ、親方」
「酒場で仕事を請けたらしい冒険者がボヤいてやしたねえ。手続きの方に時間がかかるからあんまり稼ぎにゃならねえって」

 主に酒場やたまり場などでの情報収集を担当していたらしいネズミ顔の男とキツネ顔の男の情報もつけたした結果、下水道はあくまで地理情報として留めておくという方針で決定した。
 軍が動いた場合、向こうは存分に利用する可能性もあるからだ。それら追っ手を足止めする、という意味では下水道に誘い込み、分断用のシャッターなどを逆利用するといった使い道は十分にあるだろうと。

「それで親父? 軍部で使ってるチャンネルは大体把握できた。仮に奴らが動いたとしても無線を傍受するのを始めとした情報戦で遅れを取らない程度の準備は出来たと思うが、どれから手をつける?」
「把握できたのはわたしの力が大部分ですけどねぇ~」
「全くだ。どいつもこいつもクソ真面目に頭に周波数叩き込んで記憶してやがるもんだから、ティエナに頼らなかったら碌に情報が揃わなかったぞ」
「その通りです。アルセスは分かってますねー。わたしの偉大さを」

 なおこの会話、アルセスは別段ティエナをおだてる意図は無かった。素直に感謝していればこそ自然について出た言葉である。ともすればやや高慢で生意気な少女に見えるティエナであるが、それが本心でありまた裏打ちされた実力と実績の為せる発言である事から、これもまた一つの側面として受け入れられているのは、二人のこの関係性があまりにもしっくりきている事からの微笑ましさもあるのだった。

「キナ臭いのは色々いるが……まずはコイツだな。南区にそこそこの規模の病院を構えている医者だ」
「医者?」

 アルセスは首を傾げる。ここ最近王都をにわかに騒がせている話題の中で、医者が関わっているような内容に覚えが無かったからだ。
 ルガーは腕を組んだままどっかと雑に椅子に座り、下水道の地図の上にさらに二枚の紙を広げた。

「リオネス・マーレン。王立学園の医学部を上位成績で卒業後、数年間の実務経験を王都の大病院で積んだ後、開業医として昨年個人病院を設立。国の免許も持っているし、病院の評判も悪くない」
「絵に書いたような医者の鑑だな。だが、親父が目をつけたんだ。表向きの顔とは違う何か裏があるって事か?」

 表情を引き締めたアルセスにルガーは無言で頷いた。
 そして、見てみろとばかりにテーブルの上の紙に視線をやったので、アルセスは釣られるようにそちらに目を向ける。
 一枚の紙にはリオネスの経歴が簡単にまとめられているが、二枚目には目を疑うような内容が記されていた。

「……非合法の人体実験……随分とまあ穏やかじゃない単語が出てきたな。名医の裏の顔はマッドドクターってか?」
「そいつの巧妙なところはな。実験つってもグレーゾーンを上手い具合に使ってるって所だな。治療のついでに少しだけ患者の血を抜く、手足に重傷を追い義手や義足の手術を受けた患者から不要となった肉体の一部を非正規に入手する、といった類だな」

 何とも胸が悪くなる話にアルセスは大きくため息をつく。
 こっそり人を攫ったり、入院中の患者を使ったりと言った非道に比べればマシだと思えなくもないが、人の命を救う医者のやる事ではないだろう、と。
 或いは、それすらもより多くの人を救うための小さな犠牲かもしれないが、アルセスにとっては容認出来ざる案件であった。潰すのに何の躊躇いも感じない相手である。
 その医者がどうなるかで救われたはずの人間が救われなくなる一方で、救われないはずの人間が救われるかもしれないが、アルセスにとってはそれはどちらでもよかった。

 彼はティエナの解放に繋げる為に、一つでも多くのオーファクトを()る必要がある。

 その過程で、どんな人間を救おうが逆に救えなかったとしても、それは二の次だ。
 最善は求めるが最高は求めない。元より自分は常に「見知らぬ誰か」ではなく自分が「助けたい」と思った衝動に従い、その結果だけを求める者だと。
 人ならざる力を己の為に振るう者、ワンダラー。その名にそぐわぬ自身は、やはり同じようにワンダラーと出会えば潰しあうのが必定だと、腰の短剣が告げていた。

「まだ未確認だが、そもそもこいつの病院から患者が絶えないのは、こいつが自身で病気をばら撒いているから、という情報もある。ま、こっちは未確認の上に、客を取られた医者連中の噂だから、あまり信憑性が無いがな」
「あー、医者でワンダラーだとしたらそういうのは得意かも知れませんよ。ここ最近では人間もすっかり目に見えないウィルス、という存在に着目してますけど、オーファクトの中にはそうした微生物を扱うこと、生み出すことなんかも可能としたのがありましたから」

 ティエナの説明にアルセスも軽く頷いた。
 アルセスも専門的な医学には明るくないが、その分野でそうした研究が進んでいることくらいは耳にしている。
 怪我の治療に何故消毒が必要なのか、それは傷口から細菌類が入り二次的な被害を引き起こすこともあるから、という身近な例を皮切りに衛生面での注意が一般に広まったのも、そうした知識が当たり前に浸透したからであった。

「目に見えない、ね。なるほど、医者として名声と地位を得て資金を稼ぎ、研究の為の材料は向こうからやってくる、か。ワンダラーとしては優秀かもしれないな。人としての倫理に目を瞑れば実に効果的だ」

 アルセスとて人が作り国が定めし法に逆らって力を振るう身だ。
 その医者の所業も行為も責めはすまい。同じ穴のムジナが互いを悪し様に罵るなど無様にも程がある、という自覚はある。
 しかし、だからこそ――叩き潰すのに遠慮は要らない。
 人の世が、国の網が、それを逃していても、度が過ぎれば目をつけられる。

「つーワケだ。他の案件は手をつけるにはまだ情報が足りねえ。アルセス、ティエル、まずはその医者から当たってみてくれ」
「了解。んで、ターゲットの処遇は?」
「本人は生かそうが死のうが勝手にやってくれ。だが、オーファクトに関しては出来れば回収、危険性が高い、もしくは奪うのが無理と判断した場合には、情報だけかき集めて破棄で構わん」
「要するにいつも通りなんじゃないですか。まったく、回りくどいことで」
「うっせーぞ、ティエル。いいかぁ? 組織としての運用ってのはな、例え身内でもなあなあで済ませちゃいかん段取りっつーのが大事でなぁ」
「あーあー、聞こえません聞こえませーん。年寄りの美学とかわたしにはぜーぜん聞こえませーん」

 いいから聞け! とティエナに向かって叫ぶルガーをティエナは耳を塞いだまま室内をドタバタと走り回って逃げ回る。これでは親子喧嘩に等しい。威厳も何もあったものではないが、団員達はいつも通りの風景だと笑うだけである。
 アルセスもいつものじゃれあいだと流し、ルガーの用意した二枚の資料を一度じっくり確認するように眺めてみた。

「……経歴だけ見ると本当に評判の若い街医者って感じだな。親父が調べた限りじゃ患者の評判もいい」
「そっスね。病院も王都の開業医と比べると結構規模がでかいっすけどね」
「そうだな、ちょっとした館くらいの規模はあるな。入院施設も含めて二階建ての病院、か……」

 団員の一人が調査してくれた経歴を見ても、まだまだ医者としての経験はそこまで長くは無い。それにしては個人で切り盛りする病院としてはいささか大きすぎはしないだろうか? という疑問がアルセスの頭に過ぎる。
 自身の住居区も含めての建造物とはいえ、個人の病院としては持て余すような気がする。
 アルセスの疑問に気がついたのか、キツネ顔の男性がさらに自身が調べた情報を追加してくれた。

「その病院なんすけど、親から相続した館を改良したらしいんで全部は使ってないそうですよ。医者の補助をする為の助手も何人か勤めてるらしいんですけど、全員が住み込みだそうです。余ってる部屋の有効活用だと医者は患者に話してたらしいんですが」
「相続した館に、余った部屋の有効活用、ね」

 経験上、アルセスはその一言で俄然医者の怪しさが増した。
 かつてルガーに修行と称して忍び込まされた古い館には、色々と館の主の趣味が反映された独特な仕掛けや隠し部屋の類があったりしたのだ。
 その事を考えれば、状況証拠は揃いすぎている。ルガーの目に引っかかったのなら、勘違いという事はまず無いだろうと、アルセスは判断し館の位置や周辺の様子も合わせて忍び込む段取りを頭の中で組み立てていくのだが――

「いたたたた! ちょっと、ルガー! 乙女の耳を引っ張るとか何考えてるんですか! 団員に暴力を働く頭目とか最低ですよー!」
「やかましいわ! お前がチョロチョロ逃げ回んなきゃこんなことやらんで済むんだろうが!」
「でーすーかーらー、何度も言うようにわたしへの命令権はアルセスだけにあるんですぅー! いくら上司だろうとそこら辺のルールを曲げられると思わないことですー!」
「これは団員としての注意じゃねえ、身内へのしつけだ! このはねっかえりが!」

 強引に説教させられて文句たらたらのティエナであったが、その様子を見てアルセスはあれも親子喧嘩の一つなんだよなあ、と脱力したような笑顔を浮かべた。
 ルガーへの感謝としては口にすることは無いが、ティエナが昔よりも他の人間に対する当たりが柔らかくなっているのは、間違いなくダンセイル一家の暖かさに触れたからだろうと。

  
 
実娘は最近冷たく、義理の娘のような存在は
反抗期真っ盛り。

どこまでも大変な一家の長、ルガー。
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