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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第11話 偵察という名のデート

「都会はやっぱり街並みが違いますね。まず、足元の舗装からして材質も技術も格段に違います」
「村ですら五メートルは超える外壁に囲まれてるような時代とはいえ、中身まで華のない実用主義に走るのは……海の向こうのレッセルダム帝国くらいだろうさ」
「ああ、あの面白みの無い男も女も強面しかいない国」
「いや、まあ……娯楽の類はないわ、街の作りは対照的な上に区画割で統一、家の形から階層の基準に内装までガッチリ雁字搦めっつー住みたくない国ランキングのトップだが住んでる人の顔は関係ないだろ……」

 腕にくっつくティエナにアルセスはそう返したものの、修行中の頃に訪れた時に見かけた人々は確かに男女問わず屈強というか歴戦の強者という雰囲気が前面に出ていたのを思い返す。
 ティエナの暴論を完全には否定しきれないかもしれないな、とかの国での事を頭の片隅に追いやり周囲に目を向ける。

 時刻は昼を過ぎた頃。

 早速入手した情報を地図に書き起こしたティエナは次の仕事の下調べ――と称してアルセスを街に連れ出した。下調べなどは無論建前、本音はゼルダンタの街でのデートである。
 アルセスとて見目麗しい美少女との逢瀬に心が踊らないわけが無い。しかし、仕事は仕事。とくに一人の団員として単独での仕事を任せられるようになってからまだまだ日が浅い。
 情には厚いが仕事には厳しいのがルガーの方針。
 やることさえやれば文句は言わないが、遊んでいて仕事も中途半端でした、などという体たらくであれば容赦なく叱責し厳しく注意するだろう。隣に立つティエナも例外ではなく。
 日陰の稼業に手を染めながら、どこか真面目な職人気質の男なのだ。
 だからといってティエナの相手を適当に済ませるような事もせず、アルセスは街を歩きながらも行き交う人々、道路を走る自動車、街中の雰囲気など目で、耳で得られる情報を頭にインプットし整理する。
 その過程でぽつりと疑問が口から零れた。

「冒険者の類が多いな。さっきから魔物の素材を乗せた幌つきのトラックを見かける」
「アルデステンは国が専用の窓口を開いて厄介事を片付けさせてるからじゃないですか?」
「いや、それはなんつーか……フリーの傭兵や冒険者のスカウトも含めてどこの国も今はやってるだろ。それを含めてもちょっと多いというか……こんだけでかい街で適当に歩いてるだけなのにその手の連中らしき車を何台も見かけるのはどうなんだと思ってさ」

 国土の開発や軍の配備に対して、魔物の生息分布図というのは実に広大で多岐に渡る。
 そのため、民間で専門の魔物退治の会社があったり、腕に自信があるならば多少強い魔物を狩る事で生計を立てることが出来るなど、文明の発達した時代の中で少々時代に逆行した手段で金銭を得る者達は少なくは無い。
 それだけ人手が必要なほど魔物という存在は世界を席巻している。生態の研究は進めど、絶滅への手段はまるで確立されておらず、空路というもっとも安全に近い移動手段が身近になるまで旅というのは常に危険と隣り合わせであった。
 一方で魔物とは生体素材の塊でもあり、重要な資源となる魔物も多い。
 食料としては当然として、骨、毛皮、牙などといった部位は加工するだけでも下手な金属を凌駕する魔物がいたり、或いは合金として混ぜ合わせるだけでも性質が変わるなど有効利用の分野での研究も日進月歩の勢いで進められている。常に牙を向けられ、互いに食い合う関係でありながら、利用する方法を忘れないのは人間の逞しさか。

 しかし、金になる、それが食い扶持である、と断言しても危険は危険。それを分かっていてなお挑む、それを冒険(チャレンジ)と皮肉る事から、魔物狩りや遺跡発掘を生業とする者達をいつしか冒険者と呼ぶようになり、彼らの有用性から国はいち早く専門の機関と窓口を設けた。
 魔物の素材の売買については民間でも行われており、その選択の自由は冒険者側に委ねられているが、国が指定する危険地域での魔物の討伐と認められた場合には、国から報奨金が出るケースもある。
 品性、知識、実力など有用と認められればそこから高給取りの軍部への道が開ける事もあり、一攫千金を求めるか、安定した収入を求めるかで差はあるが、定職に就かずに腕を磨いて冒険者を目指す若者は、このような時代にあっても存在した。
 無論、同じ数だけ若い命を散らすケースも少なくないが。
 魔物相手に戦うのは命懸けである。その事実を理解していない者から死んでいくのだ。

「ま、アルセスの懸念通りだと思いますよ。少なくとも世界各地で魔物の増加って言うのは事実だってことじゃないですか?」
「冒険者連中は稼げていいんだろうし、俺達も小銭稼ぎにはなるが本当原因はなんなんだろうな……」
「かつての時代から生き残るわたしが断言しましょう。それに関しては――考えても無駄、です。今よりも優れた技術があり、大量殺戮兵器すら存在した時代ですら魔物の殲滅は叶わなかった。一時は姿を消しますよ? しかし、人知れず、どこからともなくヤツらは現れるのです。そのメカニズムを解明することは今も昔も出来なかったんですから。だから人は――魔物を利用する術を見出したのでしょう?」

 絶滅させられないのなら、利用し、技術に取り込み、安全を生み出すための糧とする。
 それらは時に同族にすら向けられるような知識を生み出しながら、それでもかろうじて人類は魔物に絶滅させられる事無く共に崩壊した世界から生き延びた。種を繋いできたのだ。
 それは人間の強さの証明であり、魔物のしぶとさの証明でもあるだろう。
 或いは生き物すべてに存在する本能の成せる業なのか。

「それもいいですけど、アルセス? そろそろわたし北区の方の商店街も見てみたいんですが」
「あっちは有名なブランドが店を構えている一見さんお断りの店だぞ?」

 ドレスコードもさることながら、然るべき顧客からの紹介状でもないと入店すら断られる世界各地に支店を構える各分野でのトップクラスの企業の店舗が並ぶ高給ショッピングストリート。
 客も店員も上流階級専門で、入り口のアーチを潜ったが最後、厳重な警戒網も敷かれていると言う王都最大の商業区だ、というルガーの説明をアルセスは思い返していた。色んな意味で敷居の高い商業区なのである。
 そんな場所なので仕事の関係上では現状さして下調べをする意味は無い。
 逃走経路として使うには常に企業が独自に雇ったガードマンや、軍からも兵が派遣されているような地域の上に、昼夜問わず厳戒態勢の区など踏み込む方が無謀という物だ。
 ティエナからすれば単に興味本位で見てみたいというだけなのだが、

「ねーえ、アルセスー。わたし、ちょっとそういう場所も見てみたいですよー?」

 ぐいぐいとそんじょそこらの女性には負けないという自負のある豊満な胸をアルセスの腕に押し付けながら猫なで声でねだっていた。
 ティエナとしてはアルセスがどう判断しても構わないのだ。
 こうして困らせることが楽しいのであり、無理難題にかこつけて甘えるのを堪能する。まさしくいいところ取りのこの状況。
 その慣れた仕草は小悪魔的な魅力に満ちているだろう。男の方に強靱な精神がなければあっさり陥落してもおかしくはない、声と身体による直接的な誘惑――なのだが。

「……別にもっとくっつきたいならとってつけたような理由作らなくていいんだぞ、ティエナ。せめて、仕事はもうちょっと後回しにして遊ぼう、くらいなら俺もくらっと来たかもな」
「むむっ、なんかアルセスが珍しくうろたえもせずに流してくるとは……」
「そりゃ、ティエナの顔、少し赤いしな。そういうのは照れが入った時点で負けだって言ったろう?」

 ニヤリ、と勝ち誇るアルセスにティエナはぐうの音も出せずに黙り込む。
 物言いは尊大、態度は高慢、例外を除いて大半の人間はしょうもない生き物だと断じるティエナの内心は恋する乙女なのである。
 誘惑するそぶりも、やや上から目線の発言もこうしてスベる事の方が多いのだが、不器用さも手伝ってティエナは中々修正する事が出来ず、こうして微笑ましくたしなめられる事の方が多いのだ。
 本人的には恥ずかしいのを我慢して誘惑してるのに! という忸怩たる思いがあるそうだが、アルセスから言わせれば素直に飛び込んでくればいいのに、と常々考える始末である。
 そして、言い負かされてもアルセスの腕を離さない事から、彼女の本心など明白である。

「どうせ、次はまたバスに乗って西区の方に移動だ。その前にちょっとそこのカフェで休憩しようぜ。大して疲れてはいないけど、歩いてばっかりで飽きただけだろ?」
「ふ、ふん。わたしはそんなナマケモノではありませんが、ご主人様(マスター)の気遣いをないがしろにするほど、物事の機微が分からないわけではありませんので、ここはアルセスの言うとおりにしましょう」

 なお、この台詞。不機嫌そうな表情ではなく、緩んだ笑顔で言っていた。
 幸い遅いランチという時刻でもなかったのでアルセスは少々心配していたのだが、幸い席は空いていた。入り口に取り付けられたカウベルを鳴らしながら入った店内は木目調で統一された小さなカフェで、中年のマスターが一人で切り盛りしているようだった。
 ラジオから静かなBGMが流れており、休憩しつつ話をするのにも丁度いい雰囲気だ。
 注文を取りにきたマスターに、アルセスはアイスコーヒー、ティエナはオレンジジュースをそれぞれ頼み、丁度通りが見える窓からの景色を眺めながら待つことにした。

「しかし……これだけ世間を事件が騒がせている割にはあまり普通の人には危機感みたいなのが見えませんねー。まあ、人間らしいといえばらしいですが」
「まだ、他人事、だろうさ。王都は広い、そのどっかほんの一部で事件が起ころうが、それが自分に降りかかると想像して不安がるには事件の規模は小さいからな」

 窃盗事件。
 通り魔事件。
 魔物の事件。

 そのどれもが、言っては悪いが当たり前のように日常の隣に潜むものだ。
 それの頻度が多少高くなったところで、そこに何かがあるのではと嗅ぎつけるのは非日常の方が当たり前になっている者達特有の考えであり、普通に日の当たる場所で普通の生活を送る人間にはそれを異常だとは思わない。
 そして、それを異常と思わせないのが行政の仕事であり国の仕事だ。
 そういう意味ではまだアルデステンは国家としては評価できた。実際、アルセスもやや厳重ではないか、と思うほどには兵士とすれ違っているし、路地裏の方などもこまめに調べているらしい警戒網を敷くような各兵士たちの巡回ルートには脅威だと思うと同時に感心もした。
 小さな事件が発生したところで、瞬く間に兵士がかけつけ取り押さえるような姿を見かければ街の十人に不安が広がることは少ないだろう。言葉で適当に誤魔化して仕事をしないような執政者ではない事が、少なくとも街の雰囲気からは伝わった。

「意外と隠れられそうな場所も少ないですしね……ふっふーん、これはアルセスの技術だけでは手を焼くかもしれませんよ?」
「そうだな、ティエナの力に頼ることになりそうだ」
「そうでしょう、そうでしょう。ああ、アルセスがわたしに懇願する姿が今から楽しみです……何をしてもらいましょうかねえ? わたしを酷使するんですから、相応の対応をしていただかないとねー」
「そうだな、夜のサービスフルセットでどうだ?」

 途端にティエナが言葉に詰まり目を見開いた。

「な、はぁ? い、いや、待ってください、アルセス。それはその……わたしとしても嬉しくないわけではないのですが、いえ、あの、それはちょっと身体とか心とか色々保てないかも――」
「ん? マッサージ、髪の手入れ、ウェバルテインのフルメンテを一晩でやるだけなのに何が大変なのかな? ティエナは」
「う、あ、そ、そっち!? そっちの事ですかっ!?」
「うーん、思いつかないなあ。ティエナは何のサービスだと思ったのかなあ。うーん、ご主人様(マスター)権限でしゃべらせちゃおうかなあー、分からないなあ?」
「ぜ、ぜぜぜぜぜ絶対に言いませんっ! 絶対に言いませんからねっ!」

 話の内容は聞こえないが、遠目に二人の様子を見ていたマスターは、

「若いというのはいいねえ……」

 と、孫を見守るような目で飲み物の支度をしていた。

こいつら仕事してるのか?
仕事とは一体……うごご。
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