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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第9話 最初の仕事

「さーて、アルセス、ティエル、来たばっかりで悪いが早速仕事だ。色々と準備を進めなきゃならんのでな」
「却下です。まずはわたしとアルセスの荷の整理が先ですから」
「お前は本当唯我独尊で即断即決だよな! 別に今日すぐさま飛び出せとは言わんからまずは人の話を聞きやがれ!」

 あまりの早さで返答したティエナにルガーは叱り付けるように言うが、何処吹く風という体で反論するティエナ。

「わたしはあくまでアルセスの所有物ですから。いくらルガーが頭目だろうと命令権は無いと、何度言えばわかるんです? このわたしが力を貸すのはアルセスを通してですからね?」
「あー、はいはい、オレが悪かった悪かった。おーい、アルセスー。そこの短剣と一緒に一仕事してきてくれや」
「ふーん、そんなぞんざいな頼み方でアルセスはともかくわたしが働くと思ってるんですかねー? ルガーとの付き合いもそれなりに長いのにまだまだ理解が足りてないようで。ほらほら、アルセス? ルガーがあんな言い方するから、わたしはちょっと機嫌を損ねちゃいましたよ? 仕事を一緒にして欲しかったら可愛い可愛いティエナ様、どうかお力を貸してくださいくらい言わないと、わたし不機嫌で不貞寝しちゃいそうですよー?」
「ティエナ、後で義母さんに怒られるのもキツいだろ? とりあえず話だけでも聞いておこうぜ。どうせまだ日が落ちるには早いんだし時間はあるだろ」
「う、確かにフィオネの耳に入ったらちょっとお小言もらいそうですね。それは避けたいです」
「だろ? だからここは大人しく仕事しようぜ」
「はーい」
「……お前ら……一応オレぁ頭目なんだけどよ?」
「「だったらもうちょっと威厳を持てば?」」
「この似た者夫婦共が!」

 しかし、この意見に同意したのかリーンはゲラゲラとレイリアはクスクスと笑っている。団員の中にも笑いを堪えているのが何人かいるくらいである。仕事時ならいざ知らず、平時ではルガーの威厳も地に落ちてしまうらしい。
 これ以上醜態を晒すのは耐え難いと判断したのか、苦虫を噛み潰したように顔を顰めつつも話を進めるルガーだった。

「ま、仕事つっても王都(ここ)での本格的な仕事をやる前の下準備なんだがな」
「アルセスのような組織の末端にこそ相応しい仕事って事ですね」
「下働きの宿命だな」
「口ではそう言いながらそんなもんさっさと片付けてやるよって態度で示すのがお前らだよな……話が早いのはいいんだが、片やちょっと寂れた村の子ども、片や一般常識の欠片もねえ古代文明の技術の結晶が随分とまあスレた奴らに育ちやがってよう……」

 色々と複雑な感情を抱えて零したルガーだったが、

「全部、オヤジのせいじゃん」
「大体お父さんのせいじゃないかな」

 リーンとレイリアから容赦のない言葉で責められる。
 娘の無慈悲な発言にルガーはあっという間に精神がボロボロになりそうだ。

「……最近、娘達が手厳しいなあオイ……」

 男親の哀愁を漂わせながら娘達の言葉に肩を振るわせたルガーが流石に気の毒になってアルセスは話の続きを促した。

「それで? その言い草だとどっかの見取り図の入手か? それとも合鍵の準備か?」
「いんや、軍部の無線のチャンネルと、王都の下水道の地図の入手だ」

 どちらも情報の重要度合いで言えば国家の機密に類するA級の情報であった。
 アルセスは当然としてティエナも思わず絶句する。

「ルガー、流石にボケるにはまだ早いでしょう。軍事機密を盗んで来いとか下準備を通り越してるじゃないですか。何? 今回の仕事ってまさか王族の暗殺とか請け負ってないでしょうね?」
「アホウ、ウチは()()殺しはご法度だっつってるだろうが」

 ふんぞり返って断言するルガーの言うように、ダンセイル一家は決して善良者の集まりではないが、それでも不要な殺しは好まない。血を流すことは厭わぬが、かといって流血前提の仕事を良しとするわけではないのだ。
 一般の人間から見れば彼らは確かに法に従わぬ悪ではあるが、悪なりに最低限の規律(ルール)矜持(プライド)というものがある。無論、それは今更アルセス達が確かめるまでもない方針なのであるが、であればこの仕事の意味するところは、とアルセスは一人頭を巡らせてから意見を口にした。

「……無線の傍受はどうしても必要になる。だからチャンネルの入手はリーンの仕事の補助ってところで……下水道の地図は逃走経路か? まさか重要施設や一般の家庭に直通のハシゴやらなんやらがあるわけじゃないだろう?」

 アルセスの問いにルガーは首肯して答えた。

「おう、ご名答だ。ここの軍部も最近の例に漏れず幾つもの無線用のチャンネルを使い分けることで指揮系統を統率しているらしくてな。ただの盗聴じゃ、出方を把握しきれない可能性がある。どれだけの数のチャンネルがあるのか、各部署ごとの連携はどうなってんのか、そこら辺をある程度把握してないとリーンのバックアップがあっても現場の連中をフォローしきれん可能性があってな」
「言うのは簡単ですけど、それ全部把握するのに王都の各地にある兵舎と詰め所を全部回らないといけないんじゃないですか? 王城の中にある司令室や参謀室に入り込むわけには行かないでしょうし」
「だから面倒なんでお前らに頼むんじゃねえか。ついでに下水道の地図も手に入れれば一石二鳥だろ?」

 一般人は基本的に王都の各地にあるマンホールの類から地下下水道へと降りることは禁じられている。というよりも、そもそもマンホールの蓋自体が国の機関が管理する鍵でしっかりと施錠されているし、心気を用いた闘法で物理的に破壊でもしようものなら器物破損と不法侵入の両方で投獄は確実だ。罰金刑で済むレベルをあっという間に超えてしまう。

 ティエナの言うとおりどれだけ隠密行動に撤しようがアルデステン軍部の中枢に忍び込むなど無謀もいいところである。少なくともリスクに見合うだけのリターンは無い。面倒ではあるが、各部署を周るのがベターなのは事実だった。

「そもそも、その辺の重要な情報が都合よく手に入るかどうかは――って、ああ、だから俺とティエナなのか」
「お前らなら、普通じゃない方法も使えるだろ? 紙にしっかり残してある情報とは限らんからな。ああ、地図の方は間違いなく各地の詰め所に断片的にあるはずだ。それぞれ東西南北の四つに分かれて詰め所から近隣を把握できるように資料として提供されているらしい。それに関してはリサーチは済んでいる」

 地図は写しを入手し、無線のチャンネルは一つ一つ書き起こす必要がある。
 前者はともかく後者は数も量も不明と来た。そんなものを一からかき集めて来い、とは無茶もいいところなのだが。

「ルガー、アルセスじゃなくてわたし、ですからね、わたし。普通の人間には使えない手を使うのは」
「だから、分かってるっつーの。今回は同業者も多数現地入りしてやがるからな。情報面ではなるべく先手を打っときてーのさ」
「大体同じ事を考えるだろうからな……それで出遅れた奴からどんどん仕事の難易度が上がって行くっていう流れか」

 アルセスもティエナも出来うる限り相手に気づかせないように侵入する予定であるが、何が原因で異常を察知されるかは知れたものではない。軍も当然侵入者ありと判断すればその目的を探るだろうし、警戒も増すだろう。
 地の利を手にする為の作戦には迅速が尊ばれる訳だ。

 他に類を見ないオーファクトの所持者であるワンダラー。
 その規格外のオーファクトから顕現した類稀なる力を所有する少女。

 ダンセイル一家の中でも極めてイレギュラーな二人だからこそ遂行可能な任務と言えるだろう。

「ま、普通の人間には無理な事も? このキュートで知的なわたしがいればこそアルセスは可能な訳ですからね。感謝してくださいね?」
「勿論してるとも。なんなら今日の夜にでもサービスという形で証明しても良いぜ」

 普通ならセクハラで訴えられそうな台詞を躊躇いなく吐くアルセス。

「キャー! アルセスったらだいたーん!」

 しかし、むしろ何を考えたのか黄色い声で歓喜するリーン。

「仕事に差し支えない程度にするのよ?」

 どこかズレた心配をするレイリアと、姉妹の反応はどこか器の大きさを感じさせる反応であった。

「だ、だだ、誰がそんな感謝を要求しましたか!」

 そしてこの手のからかいに一向に免疫のつかぬ純情乙女のティエナという有様だ。

「お前ら……」

 ルガーが額を抑えて俯くがこのノリは毎度のことだ、と自分に言い聞かせて何とか立ち直る。
 一家をまとめるもの、多少アクの強い団員であろうともしっかり働かせてこその頭目である、と。

「だけど、ほんと下水の地図だけは頼むね、二人とも。ちょろっと調べたけどガチで迷路みたいな作りよ、これ。業者の人が修理に入る時は当然として、定期的に湧き出す魔物退治の時でも案内が必要なくらい入り組んでるらしいから」
「おいおい、自分達の住んでる街の足元に魔物が沸くのかよ」

 リーンの説明にアルセスは呆れたように呟いたが、レイリアが苦笑い交じりに補足する。

「下水処理施設に到達するまでの下水は工業用排水も流れ込んでるから、魔物が生まれる要素である『魔素』が豊富なのよ。それを完全に分解するまでが処理施設のお仕事なんだけど、最近は濃度が濃すぎるからか処理場に届くまでの間に、スライム系の魔物に変質しちゃうケースが度々起こってるみたいね」
「うげ、なんでそんなことまで人類は繰り返してるんですか、全く救いようの無い」
「あれれ? んじゃ、この現象って珍しいもんじゃないの、ティエルー?」

 リーンが小首を傾げて尋ねると、ティエナは頷いて肯定した。

「ええ、まだ工場施設に対して汚水処理が不完全だった時代の話ですけどね。そういった事象があった記録はウェバルテイン《わたし》の記憶領域の中にも残ってますよ。大体その手のはサイズが巨大化するので一般家庭の下水管からスライムがこんにちはーって出てくることは無かったみたいですけど、排水路を塞ぐことはままあったらしいですねえ」

 特に元が下水である為、液体生物とはいえ流動性が乏しくよく排水管や排水路などを塞ぐことは多かったらしいとティエナは付け加えた。

「だけど、逃走路としては逆に理想的だしねえ。きちんと構造を把握していれば、だけど」
「漏水を防ぐための非常用シャッターなんかもあるみたいだから、詳細な地図は絶対に必要よ。適当に逃げてたら、逆に逃げる人が追い詰められるから」

 姉妹の発言にアルセスも心底同意する。
 少なくとも袋小路に追い詰められないためには、経路の把握は必須だろう。王都の表通りも比較的人通りは多かったが、それだけに派手に逃走しては目立つ。
 人知れず姿を隠すにはやはりこの王都中に広がる広大な地下下水道は是非とも把握しておきたいものだと。

「でしょうねえ……わたしとしては汚物に塗れて逃亡とか遠慮したいですけど」
「汚れ仕事だから構わないだろ」
「物理的に汚れるとは限らないじゃないですかっ! それにスライム! スライムというのは女の天敵ですよ!」
「ああ、前にリーンが素っ裸にひん剥かれた事件もあったな」
「あれはわたしも短剣から見てましたがあの慌てぶりは傑作でしたね」
「あの日のことは記憶からいい加減消そうよ!? アタシだって好きで捕まったんじゃないんだからね!?」

 数年前、まだティエナが人の身体を得る前のちょっとしたエピソードを思い出されてリーンは顔を真っ赤にしてティエナに掴みかかる。
 忘れて欲しいことほど、他人は覚えているものなのだ。

「というわけでだ。一家の今後を左右する重要な仕事だが、きっちり仕上げてくれよ、アルセス?」
「ちょっと時間はかかるかもしれないぞ? 東西南北の詰め所を回るだけでも日数が要りそうだ」

 何せ王都は広い。
 端から端までを一日で回るのは現実的ではあるまい。例え自動車の類があったとしてもだ。
 心気を用いればそれ以上の速さで一時的に動くことは出来るが、それで疲労を溜めていては肝心の仕事がこなせない。一時的に超人的な能力を得る闘法の技はあくまで非力な人間が魔物と戦えるだけの力を自らの身のみで得るための技術であり、日常の利便さを得るためのものではないのだ。

「のんびりしていいとは言わんが、今日明日中にどうにかしろとか無茶は言わんさ。こっちもあちこちに人を放って下調べの段階だからな。なんだったらカップル装ってデートのついででも構わんぞー」
「し、仕事しろと言っておいてデートのついでとか……」
「ああ、そりゃいいな親父。警備の目を誤魔化すのにも使えるし」
「あーるーせーすーっ! そこの中年親父のタワゴトに何を乗っかっちゃってるんですかぁぁぁぁ!」
「ん? ティエナはしたくないのか? デート」
「したいに決まってるじゃないですか! わたしが言いたいのは、それを仕事のついでにするなって言うんですよ! 乙女のドキドキをなんだと思ってるんですっ! 例え何回やったとしてもデートってのは何かのついでで済ませていいほど軽いモノじゃないんですよぉ!」

 ティエナは轟々と声を荒げて男二人に文句を言う。

「ティエルちゃんは本当、乙女よねえ、アルセス君。私にも良い人が現れてくれないかしら」
「義姉さんなら引く手数多だと思うんだけど」
「ダメよ、最低限お父さんに張り合えるくらいの根性が必要だもの」

 そうだった、とアルセスはソファに寄りかかって天井を見上げた。
 リーンにしろレイリアにしろ、男を選ぶにも色々とハードルが高いのだ。身内の団員ならばともかく、簡単に外から巻き込めるはずもない。そして団員の中に果たしてあの親バカであるルガーを乗り越えてでも二人のどちらかと添い遂げたい、と命を張るほどの男は残念ながら一人もいないのだ。

「……状況を弁えずイチャついて申し訳ない」
「ふふ、それはそれで別に構わないわよ。ティエナちゃんが昔からアルセス君にベタ惚れなのは――それこそ短剣だった頃から分かってたし、ね」

 そう言って意味ありげにレイリアは微笑むのだった。

 
絶賛反抗期気味の三女リーン。
唯我独尊お姫様の次女ティエナ。
にっこり笑顔で毒舌三昧長女レイリア。

ルガーの明日はどっちだ(哀
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