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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
帰ってきた冒険者
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12.ヒマワリ

「この辺りでいいですか?」

「ああ、ここなら居間の様子が見えるからな。皆の様子が見えたほうが寂しくないだろ?」

「はい!」

「じゃあ穴を掘るか」

「ワンワン!」

「チャチャさんも手伝ってくれるんですね、ありがとうございます」


 茶々が張り切って穴を掘り始める。犬の掘り方なのでかなり雑ではあるが、それでも必要な深さの穴を掘ることができた。足が泥だらけだから家に上がる前に水洗いが必要だな。だがシェリーの服が土で汚れるのを防いだのは評価してやろう。後でササミジャーキー一枚進呈だ。


 今のシェリーの姿はいつもの冒険者姿ではなく、初美が急遽徹夜で作った白のワンピースだ。同じ白のリボンを付けた麦わら帽子をかぶり、足は素足に小さなサンダルを履いている。この前までは冒険者姿のほうが多かったのに、若干の心境の変化が出てきたようだった。


「そんな格好するなんて珍しいな」

「冒険者引退というわけじゃないんですけど、たまにはこうやって気分を変えるのもいいかなって。こんなきれいな服は着たことないんですけど……変じゃないですか?」

「いや……その……似合ってるよ」

「あ……ありがとうございます……」


 決してお世辞じゃなく似合っていた。ノースリーブのワンピースは大きく露出したシェリーの肩の肌の白さを邪魔していないし、麦わら帽子は金糸のような髪を際立たせるアクセントになっている。我が妹ながらそのセンスの良さには脱帽だ。褒められて若干顔を赤らめるシェリーというのも珍しい。


「茶々、もうそのくらいでいいぞ。シェリー、ここへ」

「はい」


 シェリーは横に置いていた布包みを開けると、黒光りする棒のようなものを取り出した。シェリーが戻ってきたときにしっかりと抱き抱えていたカブトさんの角だ。シェリーはカブトさんへの感謝の気持ちを込めて、きちんと弔ってやりたいと言い出し、俺たちもそれに同意した。シェリーを護ってくれた恩人を弔うことに何の異議があるというのか。


「カブトさん、あなたの世界に戻ってきましたよ。ここで私たちを見守ってくださいね」


 目に涙を溜めて別れの言葉を贈るシェリー。カブトさんとの暮らしは決して長いものではなかったが、短くとも濃密な時間は二人の間に確かな絆を結んでくれた。普通のカブトムシよりも明らかに大きな身体を持ち、知能があることを感じさせる行動を見せた不思議なカブトムシは、遠く離れた別の世界で命を落としたが、その魂は角に宿って帰ってきているだろう。


「少し土をかけたらこれも入れてくれ」

「これは種ですか?」

「ああ、カブトさんは夜に動いてたから、昼間のシェリーはあまり見たことがないだろ? この種にカブトさんの魂が宿れば、昼間のシェリーを見てもらえるぞ。芽が出ればの話だけどな」

「何の種ですか?」

「ああ、ヒマワリだよ。早咲きのな」


 ただ埋めるだけというのは寂しすぎる気がするので、早咲きのヒマワリの種を一緒に埋めてもらうことにした。早咲きだから今から蒔いても暑いうちに開花してくれるはず。そして見守ってくれる花といえばやはりヒマワリしかないと思う。


「ヒマワリですか! 素敵ですね!」


 ヒマワリはシェリーも好きな花だ。初美と一緒にネットで花の画像を見るのが好きな彼女が最も興味を持ったのがヒマワリで、畑いっぱいに咲く大輪のヒマワリを見ていたく感動していた。それを見ていたので、敢えてヒマワリにしたんだが、気に入ってもらえたようだ。


「大丈夫ですよ、きっとカブトさんが綺麗に咲かせてくれますから」

「ああ、そうだな」


 土をかけて灌水しながら、笑みを見せるシェリー。きっとこれは彼女にとっての通過儀礼であり、次に進むために必要なステップだったのだろう。大事な存在であるが故に、その存在に引きずられることを良しとせず、その思いを抱いて前に進むために必要な。


「カブトさん、ゆっくり休んでください」


 シェリーはしばし瞑目すると、カブトさんが眠る小さな塚に向けて優しく語り掛ける。自分のことを文字通り命をもって護ってくれた大事な存在に向かって。


「よし、今夜は特別にメロンにしよう。後で買ってきておくよ」

「カブトさんと初めて出会った時の果実ですね。もしかするとカブトさんが食べにくるかもしれませんね」


 メロンと聞いて顔を綻ばせるシェリー。こうして笑顔を見せられるくらいに復調してくれたのは俺たちにとっても嬉しい。悲しい出来事を完全に忘れることは出来ないが、心の奥底に押しやって風化させることは出来る。それはシェリー本人がすることだが、支えることで俺たちも協力できるはずだから。




**********



 その日の夜、あの時と同じように皆で縁側でメロンを食べていた。蒸し暑い空気の中飛び交う蛍を見ながら、熟しきった甘い香りを振り撒くメロンを食べていると、部屋の小さな灯りに向かって飛び込んでくるいくつかの黒い影。やや大きな衝突音を生んだそれらはガサガサと音を立ててこちらに向かってくる。


「……え?」

「……マジかよ」


 その影を見たシェリーの動きが止まる。まさか冗談半分で言ったことが本当になるなんて思ってもいなかったのだろう。そういう俺たちも正直驚いていた。まさか同じような個体がまだいたなんて……


「カブトさん! 生き返って……あれ、おかしいな? 見間違いでしょうか、数が多いし、違う形のもいるような……」











「ダメですよ、仲良くしてください! ほらそこ、ケンカしないでください! ちゃんとみんなの分ありますから!」


 シェリーの嬉しそうな、そしてやや戸惑いの混じる声が聞こえる。


「まさか本当に来るなんてね、しかも増えてるし」

「ああ、俺も目を疑ったよ」

「それにどうしてクワガタまで来るのよ。クワガタまで大きいってどういうこと?」


 俺たちの視線の先には、縁側で一生懸命指示を出しているシェリーの姿。そしてその前に大人しく並ぶのは三匹の巨大なカブトムシと一匹の巨大なクワガタムシ。あの姿はミヤマクワガタか?


 まだ巨大なカブトムシがいたことにも驚いたが、まさかクワガタムシまで巨大になってるとは思ってもいなかった。そしてカブトさんと同様に、シェリーの言葉に素直に従う虫たち。カブトムシとクワガタムシなんて出会えばすぐにケンカするし、事実ケンカを始めていたのにシェリーが注意すると途端に大人しくなった。


 初美の言いたいことはわかる。カブトさんがあんなに賢かった理由もわからないのに、数が増えてしかもクワガタムシまでなんてどう理解したらいいのか俺もわからない。だが確実に言えることが一つだけある。


「まぁシェリーが嬉しそうならいいんじゃないか?」

「……そうだね」


 嬉しそうに虫たちにメロンを振る舞うシェリーは夢中になっている虫たちの身体を撫でたりしている。クワガタムシには少々怖がっている節も見られるが、攻撃される素振りがないことは理解してるようだ。


「ソウイチさん、見てください! 美味しそうに食べてますよ!」


 満面の笑みを浮かべて手を振るシェリー。その様子を見ながら思うことは……とりあえず今年の夏は賑やかになりそうだ。

これで本章は終わりです。次は閑話かな?


読んでいただいてありがとうございます。

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