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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
帰ってきた冒険者
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4.酒場にて

「おい、この剣どこで手に入れたんだよ。魔力の親和性が抜群じゃねぇか」

「この防具も軽いな、しかも動きを阻害しない」

「この服の生地、すごく高級なんじゃないの?」


 私の周りに集まってきた冒険者たちが口々にそう言う。私だって最初はびっくりしたんだから、彼らがそう思うのも当然だと思う。でもまだまだこれからだよ?


「親父さん、こういうのもあるんだけど……」

「ん? なんだこりゃ……この香り、コショウか! しかもこんなにデカいなんて!」


 マジックポーチから取り出した袋の中から、貰ったコショウを一粒出す。私の掌くらいの大きさの黒い粒を手に取って調べていた親父さんが突然目を見開いた。そりゃそうだよね、コショウって本当はもっと小粒なものなんだから。こんなに大きなものなんて誰も見たことが無いと思う。そもそもコショウはとても貴重品だし。


「これだけデカいと分量は多いが大味になりそうなんだが、香りは小粒のものより強いかもしれん。かなりの上物だぞ? それがその袋いっぱいだと?」

「うん、親父さんにも少しあげるから、料理に使ってよ」

「本当か!」


 親父さんが驚いた顔をしてるけど、これだけあるんだから少しくらい分けても問題ない。それに私は冒険者なんだから、やっぱり自分の力で生活費を稼ぎたいしね。


「それからハーブも色々あるよ。あとは塩と……なんと砂糖です!」

「塩はともかく砂糖だって? お前一体どこに行ってたんだよ?」


 ハーブを吟味していた親父さんが砂糖と聞いて声を荒げる。砂糖なんて冒険者が手にすることなんて滅多にないから、それを聞きつけた人たちが群がってくる。


「何だよこの白いのは。どこが砂糖なんだよ」

「食べてみればわかるよ」

「どれ……うわ、甘いな」


 小さな結晶を摘まんで食べて驚く親父さん。それを見て便乗しようと冒険者たちが手を伸ばしてくるけど、それはお断りした。何故なら私も彼らも冒険者、決して他人の得たお宝にたかるようなことをしてはいけない。汚れ仕事も請け負うことがある冒険者だけど、自分の糧は自分で得ることに誇りを持つ人たちだ。それを理解しているからこそ、彼等も大人しく引き下がった。


「私は料理なんてしないし、宝の持ち腐れになっちゃうから調味料は使ってよ。それに色々と親父さんの伝手を頼りたいこともあるし」

「わかったよ、ここまでのものを貰ったら金輪際お前さんから金はとれねえな。いつでも好きに飲み食いしていいぞ。で、頼りたい伝手ってのは?」

「鍛冶屋と素材屋にいい知り合いはいないかなと思って。出来るだけ口の堅い人がいいな」

「……お宝か?」

「うん、かなりの値打ちものなんだけど、ギルドに持ち込むのはどうかなって思って」


 街に戻ってきてから聞きかじった程度だけど、冒険者ギルドのいい噂を聞かない。最近じゃ買い取りの手数料も上がってるらしいし、そのせいで他の国に拠点を移す冒険者も増えているとのこと。


「それにベーカーとかいう貴族が絡んできたし、どうして私の居場所がわかったのかしら」

「そうか、お前さんは知らなかったんだな。お前さんがいなくなった後あたりから、王国西部のベーカー伯爵がここに来てるんだよ。ギルドの支部長を抱き込んで、王族に色々と賄賂を贈ってるらしい」

「そうか、それでカブトさんを……」


 今日帰ってきたばかりの私の居場所をどうして知ったのかがわからなかったけど、これで合点がいった。私が使ってる宿はいつも同じで、ギルド職員なら把握してる。そしてカブトさんがいることもギルド職員なら知ってる。でも待って、ギルドは政治とは無関係な組織のはずでしょ?


「ギルドは中立の立場じゃないの? 国家権力には負けないんじゃなかったの?」

「ギルドも一枚岩じゃないってことだ。特にあの支部長は冒険者として名を残せなかったから躍起になってるんだろうよ。これだけのお宝をギルドで出さなかったのは正解だな、あの野郎のことだ、難癖つけて没収なんてこともしかねん。安心しろ、俺の知り合いの中でもとびきり口の堅い奴を紹介してやる」


 元冒険者の親父さんは伸ばした顎鬚を触りながら、私に向かって笑いかける。ギルドが信用できない状態なのは辛いけど、親父さんのような頼れる人がいてくれてよかった。もしうっかりギルドで見せていたら、親父さんの言う通り取り上げられたかもしれないと思うと背筋が寒くなる。あれは私の大事な人たちがくれた大切なもの、訳の分からない理由で取り上げられてたまるか。


「それから、宿も変えたほうがいいかもしれんな。今からあの魔獣を連れていくことも出来んだろ、今夜はうちの空き部屋を使うといい」

「ありがとう、そうさせてもらおうかな」

「フラムには使い魔を飛ばして連絡しておく。俺の使い魔だと片道五日くらいかかるだろうが、あいつのことだから手紙を受け取れば三日で来るぞ」

「フラムならあり得るわね」


 思い返せば、フラムと二人でこの国に来た時、最初に世話になったのがこの親父さんだった。登録したての頃は安い報酬を握りしめて一番安いお酒と料理で毎日祝杯あげてたっけ。そしてここでフロックスから旅してきたカルアと、東部の紛争地帯から流れ着いてきた傭兵のバドと意気投合して、パーティを組むようになったんだ。


 懐かしい場所、懐かしい人に再会したことで、昔のことが思い出されて目頭が熱くなる。でも死に別れた訳じゃない。いつかは私の無事を知らせるための旅をしよう。そのためにもまずは生活基盤を安定させないとね。

読んでいただいてありがとうございます。

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