表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
帰ってきた冒険者
71/400

1.衝撃の事実

新章スタートです!


 街の目抜き通りをカブトさんに乗って悠然と歩けば、街行く人たちが茫然とした顔で眺めている。馬車馬たちはカブトさんが放つ王者の風格に道を譲り、怯えるように身をすくませている。


「良かったですねぇ、知り合いがいてくれて。このまま進めば冒険者ギルドですから、もう少し頑張ってください」


 カブトさんに話しかければ、了承の意を表すかのように歩く速度を上げてくれる。カブトさんがいてくれるおかげでとても心強い。

 門番に止められた私たちだったけど、偶然にも私のことを知っている冒険者が通りかかり、ギルドに連絡を入れてくれたおかげで何とか街に入ることができた。カブトさんについては、私の指示をきちんと守ってるということで許可されたので、こうして一緒にギルドに向かってる。まずは支部長に帰還の報告をしなきゃいけない。


「そこを右に曲がってください」

「……」


 私の指示に従いカブトさんが四つ角を右に曲がれば、そこには二階建て石造りの見慣れた建物。冒険者ギルドのアキレア支部だ。そして建物の前には痩せぎすの男性が複雑そうな表情で腕を組んで立っていた。私はちょっと、というかかなり苦手な人物。昇級審査でいつも厳しく駄目出ししてくる人物。


「……お久しぶりです、支部長」

「……生きていたのか。色々と報告を聞かなきゃならんし、こちらも伝えなければならないこともある。中に入れ」

「カブトさんはどうしますか」

「裏の訓練場で待機させておけ。あそこなら多少暴れても問題ないだろう」

「カブトさんはそんなことしませんけど……わかりました。カブトさん、そこを左に行ってください」


 支部長がカブトさんを見る目が気になるけど、見たことの無い魔獣を連れて帰ってきたんだからそれも仕方ないと思う。訓練場にはカブトさんが休めるような日陰もあるし、ここまでずっと歩き通しで疲れているはずだから食事をあげて休んでもらおう。



「本当に無事だったんだな……」

「はい、ご心配おかけしました」


 カブトさんを休ませた後で向かったのは建物の二階にある支部長室。特級や金級の冒険者ならともかく、銀級の私が入ることはそう多くない部屋で、事実私も今までに二度しか入ったことがない。それも他の仲間と一緒だから入れただけなんだけど。室内は様々な装飾品や高価そうな剣や杖が飾ってあるけど、正直なところ私の趣味じゃない派手なものばかり。ちょっと悪趣味のようにすら思える。


「他の仲間は元気にしていましたか? もしかして依頼を遂行中ですか?」

「……そのことなんだが」


 ギルドに来ているかと思ってたんだけど、仲間たちの姿がない。職員に聞いてもはぐらかされてしまうし、何が起こっているのか全くわからないので支部長に聞いてみた。この支部のトップであり、所属する冒険者の動向は常に把握しているはずだから。


「お前の仲間たちは皆引退した」

「え? 何を言ってるんですか?」


 支部長の答えは私の全く想定していなかったものだった。引退? どうして彼らが?


「皆お前が死んだと思っているんだよ。バドは故郷に帰って鍛冶屋を継ぐそうだ。カルアは自分の国へ戻り、フラムは森に引き籠った。お前がいなきゃチームを組む意味がないそうだ」

「嘘……」


 私のことをそこまで重視してくれていたことを素直に嬉しいと感じられないくらいに衝撃的な内容だった。せっかく戻ってきたのに、どうしてこんなことになっているんだろう。私がいなくなった事が原因なのはわかってるけど、こうして生きて帰ってきたのにこの仕打ちは酷すぎる。色々と話すこともあったのに、頭の中が真っ白になってくる……


「お前の気持ちはわかるが、ダンジョンの中でお前が行方不明になってからもう三月以上経っている。冒険者の常識から考えれば生存は絶望的と考えても不思議じゃない。あいつらの出した答えは間違いじゃない」

「はい……」

「戻ってきたお前にこんなことを言いたくはないが、特級一人に金級二人が抜けた穴は大きい。こちらとしては原因を作ったお前に一言言ってやりたい気持ちだが……とりあえず今日のところは休め」

「……・わかり……ました」


 そこから先はあまり覚えていない。確かカブトさんと一緒にいつも使っていた宿に行って、皆がカブトさんに驚いて、カブトさんを宿の裏で休ませて……それから何したんだっけ?


 そうだ、宿で泣いたんだ。戻ってきて、ようやく再会できると思っていた仲間たちはいなくて、私が死んだと思われていて……あの場所で見た悪夢がそのまま再現されたかのようで、とても辛くて、悲しくて、やりきれなくて……宿の部屋に入って、毛布をかぶってずっと泣いていて……そのまま眠りに落ちた……



**********



「全く……生きているならさっさと戻ってくればいいものを……おかげでこっちは大損害だ」


 ギルドの支部長室で執務机に座る男は露骨に表情を歪めた。支部長はシェリーの出て行った扉を見て小さく呟く。


 彼の言葉は間違いではない。特級、金級の冒険者の早すぎる引退を引き留められなかったのはギルドとしては手痛すぎる戦力の喪失であり、ひいては引き留められなかった支部長にも責が及ぶ可能性もある。


「だが……それを挽回する手立てはありそうだ」


 支部長は途端に嫌らしい笑みを浮かべる。それは戻ってきたシェリーの様子を思い浮かべたからだ。遭難していたとは思えないほどの美しい肌と髪の艶、そして王者の風格を持つ魔獣、そしてシェリーの腰に提げられていた剣、身に着けている衣服や防具、そのいずれも彼の見たことのない素晴らしい仕上がりのものばかり。そしてシェリーは銀級、そのような装備を整えられるほどの蓄えは持っていない。


「一体あれほどのものをどうやって……いや、考えられることは一つしかないな」


 支部長は冒険者としての実力は高くはなかったが、立ち回りの上手さと物の価値を見る目は確かだった。その彼が見た今のシェリーはあまりにも異質であった。


「特にあの剣、もしかするとアーティファクトかもしれん。どこで入手したのか……問い質す必要があるな」


 ダンジョンの中でお宝を見つける冒険者の話はよく知られているが、果たしてあそこまで異質なものだらけという前例はない。どこで入手したのか、それは言うまでもなくシェリーが行方をくらませた先にある。シェリーの持ち物をもっと詳しく調べれば、より多くのものが出てくる可能性すらあり得る。


「あれを献上できれば……私の出世も確実だ」


 あの魔獣一頭だけでも計り知れない価値がある。彼は自身の価値を見抜く目を信じており、それは正しかった。そして彼は行動を起こす。その行動が一人の冒険者にどれだけの影響を与えるかなど全く考えることなく……

読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ