6.偽り
「どうしたの? 食欲がないみたいだけど?」
「え? そ、そうですか? そんなことありませんよ! うん、美味しい!」
おかしい。絶対におかしい。
朝食の時のシェリーちゃんの様子を見てそう思った。いつもなら目を輝かせるはずのフルーツを前にしてもぼーっとしていて、明らかに普通じゃない。何故なら今朝のフルーツはサクランボ、イチゴやメロンと同じように、その甘さと瑞々しさにシェリーちゃんが虜になった果物の一つ。そんな大好物を目の前にぼーっとしてるなんて普段のシェリーちゃんじゃない。普段通りの反応なら『うわぁ! サクランボですよモモサクランボ! 食べていいんですよね? ね?』といった激しい反応のはずなのに、こんなおざなりな対応をするなんて、何かがおかしい。
「何か悩み事があるんじゃないの?」
「そ、そんなことないですよ……本当に……」
問いかけてもはぐらかして視線を外される。あの様子だと何か隠してるのは間違いない。シェリーちゃんは嘘をつくのが苦手、というか下手だから、すぐに態度に現れる。あんなにあからさまに目を逸らされたら、誰だって何かあるって思っちゃうよ。
お互いに嘘は無しって約束したのに嘘をつかれるのは悲しい気持ちになるけど、かといって無理矢理聞き出すつもりもない。それはきっとお互いの心に傷を残すだけで、いい方向になんていくはずがない。シェリーちゃんにはそれを隠し通さなきゃいけない理由があって、そしてその理由はアタシたちにも関わりがある。でも……もし本当にそうだとしたら、彼女一人に抱え込ませるなんて馬鹿げてる。
「ご、ゴチソウサマでした。部屋に戻ってますね」
「あ、シェリーちゃん……」
アタシの視線に気づいたのか、シェリーちゃんはそそくさと部屋に戻っていった。うーん、これはかなり深刻かもしれないけど、強引に聞き出したところで何の解決にもならないし、どうしたものかな。茶々もいつもと違ってずっと穴のあたりの匂いを嗅いでるし……
「ねぇ茶々、そこに何かあるの?」
「ワン!」
茶々が何かを訴えるように吠えるけど、アタシはお兄ちゃんほど茶々と一緒にいないから何を言いたいのかまではわからない。でもあの様子だと、あの穴に何かがあるのは間違いないよね? 茶々は賢い子だから、きっとアタシたちに何かを伝えたいんだと思う。でも、あの穴について伝えたいことって……もしかして……
もしアタシの想像通りのことだとしたら、シェリーちゃんの行動にも合点がいく。もしいきなりそんな決断を迫られたとしたら、アタシならどう考えるだろう。たぶん今のシェリーちゃんと同じようなことをするかもしれない。
でもこれはあくまでもアタシの予想でしかない。できればその真相をシェリーちゃんの口から聞かせてもらいたい。それがどんなにアタシたちにとって辛い選択だとしても、それはシェリーちゃんが自分の意思で決めたこと、横から口出ししていいことじゃないのはわかってる。わかってるんだけど、きちんと伝えてもらわないと心がもやもやする。
「確か去年のアレがあったよね……」
こんな手段は使いたくないけど、お互いの本音を知るには一番いい方法がある。こうでもしないと心の澱を吐き出すことなんてできやしない。だから遠慮なく使わせてもらおう。
「確かこの奥に……うん、あった」
台所の床下収納を開けて中を見れば、奥のほうに新聞紙に包んである透明な瓶がある。一升瓶などとは明らかに形の異なるそれは、毎年お母さんが作っていたもの。お母さんが死んでからは、お兄ちゃんが後を継いで毎年作ってるもの。手前味噌かもしれないけど、市販のものよりずっと美味しいと思う。
「後は……夕食時だね」
蓋を開けて中身を確かめるべく、指を入れて付着物を舐める。しっかり一年熟成された甘味についつい手が伸びそうになるのをぐっと堪えて蓋を閉める。たぶんこの味ならシェリーちゃんも気に入ってもらえるはず。お兄ちゃんも料理の味付けに使ってるみたいだし、拒否反応は起こらないと思う。
もしシェリーちゃんが隠してることがアタシの予想通りだとすれば、その悩みはアタシたち皆で共有しなきゃいけないこと。誰か一人に押し付けていいことじゃないんだ。アタシもお兄ちゃんも、そして茶々も、皆で共有しなきゃいけないこと。皆が平等に笑って、皆が平等に泣いて、皆が平等に苦しみ悩む。それがアタシたちが目指したことだということを、改めてシェリーちゃんにわかってもらいたい。
「だって……それが家族でしょ」
仮初とはいえ、家族であろうと決意した時から、いつかは別離の時が来ることはわかっていた。それでも家族でいたいと願ったのはアタシたち皆の総意だったはず。だからこそ、たった一人で苦しむシェリーちゃんの姿なんて見たくない。全部を肩代わりなんて出来ないけど、少しでも負担を軽くすることは出来ると思うんだ。
もしその負担が嫌で本音を隠しているのなら、それこそアタシがシェリーちゃんを怒ってでも止めさせる。家族の負担が嫌なんて思う者はこの家にはいないんだから。他の家がどうかなんて関係ない、家族が苦しんでいたら全力で助ける。それがこの家のルールだってことをしっかりと教えてあげるからね。
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