3.聞こえますか②
???視点です。
私は死んだのかな……
炎を纏った巨大な魔獣に食べられてしまったのかな……
ダンジョンの最深部で遭遇したドラゴンから逃げきれたと思ったのに、ドラゴンより恐ろしい魔獣に遭遇するなんて、きっと私はここで死ぬ運命だったんだ。そうでなければこんなに不運に見舞われることなんてないはず。
遠くの方で誰かの話声が聞こえる。そして楽しそうな笑い声も。さらには鳥の鳴き声のようなものも聞こえる。私は死んで天の国に来てしまったのかな……まさか魔獣に喰われて死ぬなんて……
うん? ちょっと待って?
あの魔獣、どう見ても獲物を丸呑みするようなタイプじゃなかったような……であれば噛みちぎられる痛みがあってもいいものだけど……
そっと身体を動かして確認したけど傷らしいものは無いみたい。なら早くここを脱出して体力の回復を優先しなきゃ。もう食料もないし、食料調達もしなきゃ……
「……」
「……」
そっと目を開ければ、大きな双眸と視線が合った。それはもう大きな双眸で、さっきの魔獣とは比べ物にならないくらい大きかった。いったい何がどうなればこんなに大きくなるのか教えてもらいたい。そんなどうでもいいことを考えてしまうくらい、その双眸の持ち主は巨大だった。
「きょ、巨人族!」
巨人族、それはドラゴンと並んで世界の最強の一角を担う種族。性格は残虐で、時折現れては住民を喰らっていくと言われてる。でも目の前の巨人はドラゴンよりもっと大きい、もしかすると巨人族でも上位種なのかもしれない。そうなったら私がここから逃げ延びられる可能性は低い。……やるしかない!
「さあ来なさい! ただで喰われてやるもんか!」
「うわ! ごめん!」
腰の細剣を抜いて構える。おそらく私じゃこの巨人に勝つことは無理、だって魔力もほぼ尽きて空腹でほとんど力が入らない。でもその太い指の一本くらいは斬りおとしてやる。それで怯んだ隙に逃げよう……え? ごめんって言った?
「わん!」
「きゃあっ! 来ないで」
一瞬考え込んだ隙に魔獣が私に向かって吠えた。身体の芯まで響く強者の咆哮はなけなしの勇気を振り絞って立ち上がった私の戦意をあっさりと奪っていった。ああ……もう駄目だ……向けた剣先が恐怖で震える……
「こら茶々! 怖がらせちゃ駄目だろ!」
「クーン……」
巨人が魔獣を抱き上げて叱ってる。私に向かって吠えたことを怒ってるようで、しょんぼりと項垂れる魔獣がちょっとだけ可愛く見えた。この巨人は私のことを食べるつもりはないようで、見れば巨人の姿は言い伝えとは違っていた。伝承では衣服は腰布くらいしか身に着けておらず、会話は一切成り立たないとされているけど、聞く限りでは私の知らない言葉じゃないみたい。服だってちょっと変わった形だけど仕立てはいいみたいだし。
少しだけ安心したせいか、剣先が次第に下がっていく。まぁそれだけが原因じゃないんだけどね。どうしてこんな場所に出てしまったのかわからないけど、今戻れば間違いなくドラゴンと鉢合わせするはずだし、もしかしたら少しの間匿ってもらえるかもしれない。
「あ、あの……」
勇気を振り絞って声をかけてみたけど全然通じてない。
「あの……えっと……」
駄目、やっぱり通じてないのかな? でもさっき魔獣を叱った言葉は理解できたんだし……もしかしたら私の声が小さすぎるのかもしれない。こうなったらありったけの魔力をつぎこんで……
『風よ、我が声を彼の者へと届けよ』
風の魔法で私の声を届ける。本来は離れた場所まで声を届ける魔法だけど、耳元まで届けるように指定して……
「聞こえますか?」
魔力がもつかどうかが不安だったけど、巨人は周囲を見回してるから声は届いたみたい。でもそんなに不審がることないと思うんだけど……風の魔法でも初歩の部類だし。もしかして魔法に慣れてない?
「あ、あの、聞こえますか?」
「……もしかして……君が?」
もう一度話しかければ、やっと巨人がこっちに気付いてくれた。じっと見つめられて少し怖いけど、話が出来るとわかっただけでもうれしい。私に対して敵意はないみたいだしね。巨人の問いかけに小さく首肯すると、巨人は信じられないというような顔をした。
信じられないのはこっちよ、ほんと……ドラゴンの次は魔獣、それに巨人なんておとぎ話の世界じゃないの。もう色々とぎりぎりだからこれ以上厄介なことにならなければいいんだけど……お腹もすいてるし喉もカラカラだし、誰か助けてよ……
今日は18:00、24:00にも更新します。