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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
過去からの略奪者
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12.現われし者たち

「シェリー、そっちの紋様の描き込みをお願い」

「任せて、この紋様と右の紋様を組み合わせればいいのね」


 シェリーちゃんたちが山から帰ってきて丸一日経って、フラムちゃんの魔法が完成したみたい。そして昼の間に必要なものを準備して、日没後に雨戸を閉めてから作業に取り掛かってる。必要なものというのはドラゴンの血。お兄ちゃんに飲ませた希釈したものじゃなく、原液をそのまま使ってる。


 居間の中央には、昼間タケちゃんに買いに行ってもらったベニヤ板を二枚並べてあり、そこにフラムちゃんとシェリーちゃんが魔法陣を描き込んでいく。アタシが漫画とかアニメで見たことのある幾何学模様のものじゃなく、複雑に絡み合った独特なもの。


「ねぇフラムちゃん、これって本当に魔法陣なの? 落書きにしか見えないんだけど。いつもフラムちゃんが使う魔法陣とも違うみたいだし」

「ハツミ、これは何千何万という微細な魔法陣の複合術式。だからいつもの魔法陣とは全く異なってる」

「それって……家の中で使っていいものなの?」

「魔法陣の外側の円は世界を分ける円でもある。ハツミは私が失敗する魔法を作ると思ってるの?」

「いや、そうは思ってないけどさ……」

「ハツミさん、フラムはきちんと安全なのを確認していますから大丈夫ですよ」

「それならいいんだけど……」


 聞けばフラムちゃんですら扱ったことのない大規模な魔法だっていうじゃない。フラムちゃんがすごい魔法使いだってことは理解してるんだけど、少しだけ不安が残るのはアタシが魔法ってものをまだよく理解出来ていないからなのかな。お兄ちゃんの苦しんでる姿を見ちゃったから、焦ってるのかもしれない。


 こんなんじゃダメだね、フラムちゃんたちに任せるつもりだったじゃない。もしお兄ちゃんが意識があったら、二人に任せるって言うと思う。そのくらいお兄ちゃんは二人を信頼してるから、彼女たちが出来るっと言ったのなら、すべてを任せるはず。


 これからこの場で行われるのは、たぶん世界で誰も経験したことのない神秘。それに頼るしか手立てがないのが悔しい。こんな状況にアタシたちを追いやったあの女が憎い。無意識にとはいえ、お兄ちゃんに呪いをかけたことが許せない。それはシェリーちゃんたちも同じだと思うけど……


「ハツミ、あの女を許せないのはわかるけど、今だけはその気持ちは置いといて。負の感情が強すぎると、よりそっちのほうに引っ張られることもあるから」

「この魔法陣は膨大な量の魔力を集めます。多すぎる魔力は強い感情をより強く増幅させやすいんです。だから……今だけは落ち着いていてください。私たちもあの女の人には……怒ってるんですから」

「そう、あの女には絶対に報いを受けさせる」


 めっちゃ怒ってた。特にシェリーちゃんが怒りを露わにするのはとても珍しい。だけどそれも当然か、自分の婚約者に呪いをかけられて、命の危機に瀕しているんだから。その二人が、お兄ちゃんを助けるために怒りを必死に抑えてる。あんな女に構うことは優先順位で言うとお兄ちゃんよりも絶対に上にはならないんだ。


「フラム、こっちは終わったわよ」

「私のほうも終わった。これから複合魔法陣を起動させる」

「クーン……」

「心配しないでチャチャ、これはソウイチを助ける第一歩、失敗なんてしない」

「チャチャさんも私たちのことを見守っていてくださいね」

「ワンッ!」


 心配そうな顔をする茶々を宥めながら、二人は衣服を脱いで一糸纏わぬ姿で魔法陣に入っていった。そして中央に立つと、目を閉じて何やら言葉を紡ぎ出した。アタシにはうまく聞き取ることのできない不思議な言葉、だけどその言葉と共に魔法陣が淡い光を放ちだした。


 さらに続く二人の呪文、それに伴い魔法陣の放つ光も強くなる。そして魔法陣の内側では、アタシの目でもはっきりとわかる変化が起こった。蛍のような小さな光が現れ、それは次第に数を増やしていく。でも明らかに蛍のような虫が放つ光じゃないとわかるのは、その光が様々な色に変化しながら二人のほうに集まり始めたから。


 光はシェリーちゃんとフラムちゃんの周りを踊るように飛び交い、その数をさらに増やしていく。すると二人の小さな身体がゆっくりと浮き上がった。まるで重力という鎖から解き放たれたように。


 光はさらに集まり、光に包まれて二人の姿が見えなくなる。二人を包み込んだ光はなおも集まり続け、魔法陣の内側が色とりどりの光で眩しいくらいになった。とても幻想的な光景は、お兄ちゃんが危険な状況にあるっていうのに、アタシの目を奪っていた。ううん、色鮮やかな光の刺激だけじゃない。その光が放つ波長のようなものもアタシの心を奪っていた。


 不協和音のような嫌な波長じゃない。どこか懐かしさすら覚える、とても優しい波長に、おぼろげながらも子供の頃お兄ちゃんと山で遊んだ頃の記憶が甦った。


 ああ、そうか。今集まってきているのは魔力、それもこの山に由来するもの。アタシが懐かしく感じるのは当然だ。そしてこの山はアタシたちのことを見守ってくれていた、そして今も。だからお兄ちゃんのピンチに、シェリーちゃんたちの呼びかけに応じて力を貸してくれているんだ。


 光は今にも弾け飛びそうなくらいに集まり、膨張していく。もう魔法陣の内側は光で何も見えない状態で、不思議なことに二人の心臓の鼓動だけが耳に残った。こんなに光が満ち溢れている異様な状況なのに、聞こえてくるのは二人の心音のみなんてことあるの?


 そんな状態がどれくらい続いただろう、時間にすれば数十分のことなのかもしれないけど、アタシにはもう何日もこうしているように思えた。そのくらいアタシはこの光景に魅入られていた。時間の感覚なんて全く忘れてしまうくらいに。


 そして変化は突然訪れた。光で満たされた魔法陣の中で、何かが動いたような気がした。目を凝らしてよく見ると、確かに中で何かが動いてる。それが何かはわからないけど、きっとこれが二人が見つけ出した方法の完成形なのはわかる。問題はこれが……本当にお兄ちゃんを救えるのかということ。そして……二人は無事でいられるのかということ。


 一瞬、光で満たされた魔法陣の中がさらに強烈な光を放った。ほんの僅かすら直視できない、大型ストロボライトよりも強烈な光に思わず目を閉じる。瞼の上からでも突き刺さる光にしばらくまともに目を開けることすら出来なかった。


 眩んだ目が少しずつ復帰しはじめると、次第に薄れてゆく光の中、誰かがそこにいた。アタシたちと同じくらいの大きさだけど、ここには部外者はいないはず。何より知らない人が入ってきたら茶々が吠えるはずなのに、茶々は嬉しそうな声すらあげてる。


 その正体をつきとめようと、思い切って両目を見開いて絶句した。何故ならそこには高校生くらいのとてもスタイルのいい女の子と、中学生くらいのスレンダーな女の子が裸で立っていたから。アタシにこんな知り合いはいない。タケちゃんにもいない。というかタケちゃんは恋人のアタシの前で他所の女呼び込むような男じゃない。じゃあもしかしてお兄ちゃんの知り合い?


 思考が混乱して全く纏まらない。そんなアタシを見て、綺麗な長い金髪を持つ胸の大きな女の子と、小ぶりだけどそれなりに膨らみを主張している青い髪の女の子は、アタシに向けてにっこりと微笑んだ。そして……


「ハツミさん、うまくいきました」

「ハツミ、これならソウイチを助けられる」

「え……もしかして……シェリーちゃんとフラムちゃんなの?」

「はい……えっと……どこかおかしいところはありますか?」

「私が見る限りおかしいところはないと思う。きちんとイメージできた結果」


 目の前で嬉しそうに笑顔を見せるのは、女のアタシから見ても見惚れるような極上の美少女二人。まさか……この二人がシェリーちゃんとフラムちゃんだなんて……とりあえず隣にいるタケちゃんの目だけは塞いでおかなきゃ。


 

これでこの章は終わりです。次章はいよいよ大きくなったシェリーとフラムが活躍?

その前に閑話が入るかもしれません。


読んでいただいてありがとうございます。

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