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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
押しかけてきた花嫁
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6.女子会?

「ねぇヒラタくん、そっちの雌は何なの?」

「いや、違うんだ、これは……」

「いつまで経っても会いに来ないからと思って探しにくれば、変な雌に引っ掛かって……」

「やめてくれ! フラムさんはそんなんじゃないんだ!」


 


「……って感じじゃないかしらね」

「ヒラタさん! もしかして浮気ですか? ダメですよ、浮気は」

「シェリー、初美のテキトーなアテレコを信じるんじゃない」

「えー? 見た感じかなり近いと思うんだけどな、アタシ」


 相変わらずフラムの前で睨み合いを続けるヒラタさんと雌。あまりにも膠着状態が続くので、暇を持て余した初美のふざけたアテレコを聞く羽目になった。とはいえあの空間に無理矢理割り込むわけにもいかず、ただ傍観してるしかないのも事実だが。


「ヒラタさん、もしかして知り合いなの?」

「……」

「……」


 ヒラタさんも雌も何も語らない。クワガタだから当然といえば当然だが、向かい合ったまま動かない。だがフラムが動くとそれに合わせて二匹も移動するのだから、あながち初美の言うことも的外れじゃないのではと思ってしまう。


「お義兄さん、初美ちゃんの言うことは間違ってないと思いますよ。そろそろ産卵の準備をする頃でしょうし」

「だがフラムとヒラタさんは……無理だろ」


 そもそも自分の婚約者を渡すつもりはないが、クワガタ相手に本気で相手をするというのもバカバカしい。もちろんフラムにはそんなつもりは毛頭ないだろうし、まさかヒラタさんに人間並みの恋愛感情が生まれてたりするのか?


「ヒラタさん、女の子にはもっと優しくしないとダメ」

「……」


 雌に対して敵意すら見せそうな様子にフラムが注意すると、ヒラタさんはしばらくフラムを見つめた後、自分の部屋に戻ってしまった。雌も後を追おうとしたが、威嚇されて立ち止まる。どうしていいかわからないといった様子だ。


「あの雌、ヒラタさんに会いに来たんですね。少し可哀そうな気もしますけど……」

「シェリー、私にはソウイチという夫(予定)がいる。いくらヒラタさんでもそれに応えることは出来ない」

「それはそうだけど……」

「ヒラタさんにはきちんと伴侶を見つけて子孫を残してほしい。あの雌なら体格的にもちょうどいいはず」

「でもヒラタさんはフラムのことしか見えてないみたいよ」


 魔王の一件以来、ヒラタさんは常にフラムの傍にいる。ボディガードのつもりかとばかり思っていたが、あれはもしかしてフラムの彼氏のつもりだったのか? 


「フラムちゃん、あなたはどうしたい?」

「ハツミ、私はヒラタさんに幸せになってほしい。でも私はソウイチの妻(予定)、ヒラタさんの想いに応えることはできない」

「ならあの雌のクワガタと一緒になるのは問題ないワケね」

「うん、ヒラタさんのサイズだと普通の雌だと相手にならないから」


 初美がフラムに確認する。フラムもヒラタさんがずっと自分のところにいるのは良いことではないと思っているようで、初美の言葉に同意する目は真剣そのもの。それだけヒラタさんはフラムにとっても大事な存在だということだ。


「ならここはアタシに任せて。それからアンタも、ヒラタさんと一緒になりたいなら協力しなさいよ?」

「……」


 突然初美に声をかけられて動きを止める雌。だが初美の言葉の意味を理解したのか、差し出された初美の手に自ら乗った。


「というわけでこれから秘密の女子会をします。男どもは誰も入らないように」

「ワンワン!」

「もちろん茶々はいいわよ、女の子なんだから」

「ワンッ!」


 そう言い残して自室に消えていく初美と女子一同。そして居間には男性陣のみが残るという状況になった。既にバドは酒の飲みすぎで酔いつぶれ、フェンリルは茶々に置いて行かれたショックでぷるぷる震えていて使い物にならない。


「大丈夫ですよ、初美ちゃんこういう時はまともですから。少し過激になる時がありますけど」

「あいつのまともが一番信用ならないんだけどな……」


 武君のフォローも俺の不安を完全に払拭することが出来なかった。せめて厄介な事態に陥らないようにと願うくらいしか、ここに残された俺に遺された手立ては無かった。きっと俺の願いが天に届くことはないだろうが……




**********



「というワケで、これより緊急女子会を始めます」


 ハツミさんの部屋に集まったのは私とフラム、チャチャさん、そして……


「テーマはヒーちゃんの恋愛成就について!」


 ヒーちゃんっていうのはあのヒラタクワガタの雌のこと。「ヒラタちゃんだとヒラタさんと間違えそうだからヒーちゃんって呼ぶから」というハツミさんの一言で彼女の名前はヒーちゃんになった。ヒーちゃんは特に嫌がる様子もなくハツミさんの言葉をじっと聞いている。


「まず確認するわね、フラムちゃんはヒラタさんに対しては仲間としてしか意識してないのよね?」

「うん、私はソウイチ一筋」

「ならヒーちゃんがヒラタさんにアタックしても何の問題もないってことね。なら当面の問題はどうやってヒラタさんにフラムちゃんを諦めさせるか、ってことね」


 腕を組んで考え込むハツミさん。ヒラタさんのフラムに対する気持ちは強く、諦めさせるのはかなり難しいと思うけど、何かいい方法はあるのかしら。私もフラムも冒険者の頃は恋愛とか全く考えてなかったから、こういうことはとても不得手だ。でもハツミさんならきっといい方法を思いついてくれるはず。


「うーん……クワガタの恋愛がどういうものかなんてわからないから……ここはやっぱり正攻法と搦め手の合わせ技で行くしかないか……」

「ハツミ、何かいい方法があるの?」

「あるにはあるけど……たぶんフラムちゃんにもヒラタさんにも辛い思いをさせちゃうんだ……」


 ハツミさんの表情は暗い。二人に辛い思いをさせるということがとても心苦しいんだ、と同時に私たちのことを胸を痛めるくらい大事に考えてくれていると思うととても嬉しくなってくる。


「ハツミ、このままずるずるいけばもっと苦しくなる。でも今のうちなら苦しみは最小限に抑えられる。未来のためならきっと耐えられる。だからハツミの考えを話してほしい」

「フラムちゃん……わかったわ、これにはフラムちゃんはもちろんだけど、ヒーちゃんにも重要な役割があるからね」

「うん、わかった」

「……」

「じゃあ説明するわ、今回の作戦はね……」


 ハツミさんは私たちに顔を近づけて、自分の考えを話し始めた。うん、確かにその方法はいいかもしれないけど、ハツミさんが懸念していたようにフラムとヒラタさんは辛い思いをすると思う。だけどこのままの状態が皆に良くないことは誰もがわかってる。


 いつかは通らなきゃいけない、いつか誰かがやらなきゃいけない。なら傷が小さいだろう今のうちに決着をつけるべき、という考えはいかにもフラムらしい。きっとそこにはヒラタさんへの配慮も多分にあると思う。ヒラタさんはドラゴンの血の影響を受けてるけど、だからといって永遠に生きるとは思えない。


 もしかしたら来年の夏に再会することは出来ないかもしれない。ならヒラタさんには自分の種族としての生きる道を選んでほしいんだと思う。だってフラムと一緒にいたとしても、ヒラタさんの恋が実ることはないんだから。そう、これはヒーちゃんの恋愛成就のためでもあり、ヒラタさんのためでもあるんだから……


 だからってフラム、辛い気持ちを一人で抱え込むことはしなくていいんだからね…… 

読んでいただいてありがとうございます。

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