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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
攫われた婚約者
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17.消滅

 これでいい、これでいいんだ。こうなったのは私の落ち度、自分の失敗は自分で責任を取らなくちゃいけない。もうソウイチに会えないのは悲しいけど、最後にソウイチが私のことを嫁って言ってくれた。その思い出を抱いて、このまま魔王と共に消えるのなら、それでいい。


『ああああああ! やめろ! やめろおおおお!』


 まるで縁側でチャチャにもたれかかって日向ぼっこしているような暖かい感覚、きっとこれはソウイチの言葉がくれた暖かさなのかもしれない。でも魔王はこんな穏やかな空間にもかかわらず、もがき苦しんでる。もしかしたら他者の苦しみや悲しみ、憎しみを糧にしてきたから、この空間は魔王にとって猛毒にも等しいのかもしれない。


 でもそれを確かめる方法はない。だって私はこのまま消えてしまうんだから。チャチャにはとても辛いことをさせたけど、私がいなくてもシェリーがいるから……


 ありがとう、チャチャ。チャチャの優しさはいつも私を助けてくれた。だから……最後にこんな辛いことをさせた私を許して……



 何だろう、とてもとても暖かい。まるでチャチャの優しさに包まれているみたい……それにすごく眠くなってきた……消えるってこんな感じなのかな……





**********



『ああああああ! やめろ! やめろおおおお!』


 陽光色に輝くチャチャさんのブレスは、立ち尽くすフラムの小さな身体を容易く飲み込んだ。朧げに人影が動くのが見えるけど、聞こえてくるのは魔王のもがき苦しむ声だけ。きっとこの声が途絶えればフラムも……


『……エルフの娘よ、よく見てみろ』

「よく見ろって……一体何を……え?」


 フェンリルの言葉に、ブレスに焼かれる魔王を見る。そこでふと感じる違和感がある。あれだけの濃密な魔力を注ぎ込んだブレスの直撃を受けたのに、魔王はまだ原型を保ってる。私の想定だと、最初の一波で跡形もなく消し飛ぶと思っていたけど、これも魔王の持つ力なの?


 だんだん目が慣れてきて、その様子がよくわかるようになってきた。そしてその光景は、私の想定を遥かに超えた信じられないものだった。だってあのブレスを受けていながら、魔王の身体は綺麗なままだったから。


 ううん、綺麗になっていってる。衣服こそ消し飛んだけど、その身体はいつものフラムの白い肌を取り戻しはじめてる。これってもしかして……


『魔王の因子だけを焼いている……流石は焔の君……』

「魔王の……因子……」


 よく目を凝らしてみれば、フラムの綺麗な肌を汚していた禍々しい紋様が、ブレスによって少しずつ消えていく。魔王の悶絶がより激しくなるにつれて、紋様の消える速度も速くなる。だけどフラムの身体はどこも欠けてない。チャチャさんはこれを狙っていたの?


『焔の君がドラゴンの竜核の力を十全に引き出したのだ。何とも恐るべき御方よ』

「チャチャさん……」


 やがてブレスの中でのたうち回っていた魔王が倒れ伏した。うつ伏せだからはっきりとはわからないけど、腕や背中、足にはもうあの禍々しい紋様は見えない。チャチャさんのブレスもようやく止まった。


「これで……終わった……の?」

『うむ、もう魔王の気配は感じぬ。因子は全て焼き尽くされただろうよ』


 倒れているフラムの傍に歩み寄ったチャチャさんが優しくその身体を舐めてる。まるで汚れた我が子を綺麗にするように、丁寧に丁寧に。そして私たちもまた、フラムのもとへと駆けだしていた。




**********



 音声が切れたので、何が起こっているのかよく理解できなかった。眩い光がフラムを包み、それが収まったと思ったらフラムが倒れていた。きっと茶々が何か思うが、倒れているフラムからはあの嫌な気配が感じられなくなっていた。茶々がフラムに近づいたのか、フラムの姿が一瞬大写しになったが、その身体からはあの薄汚い悪戯書きのような紋様は綺麗に消えていた。


「これで……終わったのかな?」

「ええ、もうあの気配は消えてなくなりましたわ。きっと……フラムも大丈夫ですわ」

「茶々……よくやってくれた……」


 立ち上がろうにも、情けないことに腰が抜けて動きがとれない。それは初美も武君も同様で、お互いに顔を見合わせて安堵の笑みを浮かべることくらいしかできなかった。


 良かった、本当に良かった。どちらかが残っていてくれればいい、なんて受け入れられるはずがないじゃないか。二人揃って幸せになるって決めたんだろう? ならどちらかが欠けた時点でもう幸せになれないんだぞ。いや、三人揃ってだ。シェリーとフラムと、そして俺。誰かが欠けても成り立たない。


「ねぇカルアちゃん、まさか魔王が生き延びてるってことは無いよね?」

「それは……あり得ませんわ。言い伝えによれば魔王はドラゴンの怒りに触れて焼かれて死んだとあります。再び怒りに触れた魔王が逃げ延びられるとは到底思えません。それに今回はチャチャ様の怒りも加わっていますわ、チャチャ様が大事なフラムを奪おうとした相手を許すとは思えませんし、きっとフラムも魔王が逃げられないようにしていたはずですわ」

「そうか……とにかく無事でよかった……」


 茶々が覗き込んでいるせいか、フラムの姿が大きく映る。うつ伏せで顔は分からないが、背中はゆっくりと大きく動いているので、気を失っているだけだと思う。傍で容態を見ているシェリーも焦った様子を見せていないので、大きな問題もなさそうだ。色々と後始末が残りそうな予感はあるが、申し訳ないがその辺はカルアに任せて、早く帰ってきてほしい。この目で直に二人の無事を確認させてほしい。


 



読んでいただいてありがとうございます。

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