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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
攫われた婚約者
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9.連携

 魔王の軍勢が動き出した。けどチャチャさんは魔王をじっと睨みつけたまま動かない。ううん、動かないんじゃない、動けないんだ。姿形はフラムだけど、中身は別物、それに戸惑ってるのかもしれない。一番頼りになるチャチャさんがこの状態なのはとても不安だけど、今はやるしかない。チャチャさんの睨みが効いているのか、魔王は動かないけど、他の魔物はもう動き出してる。


『焔の君! ベヒーモスは我に任せよ! エルフの娘、他の魔物たちを任せる!』

「俺もフェンリルのサポートに向かう! 他の奴等は頼む!」

「わかったわ! クマコ! ヒラタさん! あいつらをやっつけましょう! クマコは空から、ヒラタさんは村を死守して!」

「ピィ!」

「……」


 フェンリルとバドがベヒーモスに向かうのを見送りながら、クマコとヒラタさんに指示を出す。あの軍勢の中で一番厄介なのはもちろんベヒーモス、こっちの戦力で二番目に強いフェンリルが向かうのは当然、そしてベヒーモス以外にも雑魚はいる、それらを薙ぎ払うのがバドの役割。


 それでも魔物はたくさんいる。幸いこっちには空を飛べるクマコがいる。広範囲に戦いの場を広げられるクマコなら……そしてヒラタさんは頑丈な身体と強い力がある、あとは私とチャチャさんで魔王からフラムを取り戻す算段を考えなくちゃいけない。


「ピィ!」


 クマコが空中から風を起こして魔物たちを薙ぎ払う。フラムに召喚されたと思われる魔物たちはクマコが起こした竜巻に巻きあげられ、そのまま塵になって消えていく。竜巻の中では私が使うのとよく似た風の刃が舞い踊る。クマコは魔物たちが密集しているところを狙って移動しながら、竜巻を起こしてる。


「……」

『グオオォ!』


 ヒラタさんは村を背にして陣取り、竜巻を逃れた魔物たちを迎え討ってる。頑丈な身体に物を言わせて、大きなハサミで魔物を遠くに放り投げてクマコの起こす竜巻に巻き込んでる。小型の魔物はヒラタさんに踏みつぶされて消えていく。ヒラタさんの平べったい身体に魔物たちも攻めあぐねているみたい。


 戦いが激化していく中、魔王はまだ動かない。自分の手勢が次々に倒されているのに、それでも動かないのはどうして?

こっちは圧倒的少数だから、戦力を増強してもいいはずなのに……


 もしかして、魔王の中にいるフラムが何かしてくれてる? そんな状態でベヒーモスを召喚したから、魔王はもうこれ以上戦力を増強できない? だとしたら……私たちにも勝機はある。


「シェリー! 村に魔物が集まってる! 護りに徹してくれ!」

「わかったわ! クマコ! ヒラタさんと連携して!」

「ピィ!」


 バドの指摘を聞いてクマコに指示を出せば、クマコはすぐに村の上空へと向かう。クマコが魔物たちの上を低く飛べば、それだけで魔物たちは恐慌状態になった。そこをヒラタさんが次々に屠っていく。いつもは仲が悪いクマコとヒラタさんだけど、今この時だけはフラムを助けるために協力してくれてる。


 ヒラタさんは自分よりも小さな魔物を蹂躙して、大きな魔物はクマコが倒してる。強靭な爪で掴み上げて、魔物たちの群れめがけて上空から落とす、それだけでも魔物たちにとっては脅威になってる。さらにクマコの空からの攻勢で動きが鈍った魔物たちは開拓村の有志たちの手で次々と討伐されていく。


 ヒラタさんの働きも大きいけど、何よりクマコの働きが飛びぬけてる。空を飛ぶ魔物もいるけど、クマコに比べたら小鳥みたいなもの。あんな大きな鳥が風を操るんだから、魔物たちが恐れるのも当然。それにあの速度で飛び回るから、戦場を隅々までカバーできてる。


「ピィ! ピィ!」

「……」


 クマコの声を聞いたヒラタさんが突如向きを変えた。いつの間にか村に入り込もうとした魔物が背後をつこうとしたけど、ヒラタさんのハサミの餌食になった。上空から敵の位置を報せるクマコ、ヒラタさんとは確かに仲が良くないけど、かといってヒラタさんが傷ついたらフラムが悲しむことを知ってる。だから今はお互い助け合って戦ってる。


 魔物たちの群れは最初の集団は見られず、中には逃げ出していくのもいる。これならいける……逃げ出す魔物を見てそう思った途端、突如その逃げ道が塞がれた。


『グオォォ!』

『ギィッ⁉』


 突如現れた巨獣。ベヒーモスは逃げ出した魔物を次々と喰らい、飲み込んでいく。魔物の魔力を吸収したせいか、身体の傷が瞬く間に修復される。


『こやつ! 先ほどからちまちま回復しおって!』

「くそ! 回復するたびに強くなってねぇか、こいつ!」


 ベヒーモスを追ってきたフェンリルとバドは荒い息をしてる。もしかして傷を負うたびに他の魔物を喰らって回復してるの? しかもさらに強くなるって……でもベヒーモスが魔力を核に召喚されたのなら、より多くの魔力を取り込めば強くなるのは道理だと思う。


 そうか、魔王が召喚した魔物の大群は捨て石でしかなかったんだ。本命はベヒーモスで、魔物たちはエサとして召喚されていただけなんだ。魔王がじっと動かないのは魔力が無いからかもしれないけど、それ以上にベヒーモスがいれば何とかなるっていう自信からだったんだ。


 クマコとヒラタさんの連携でかなりの魔物を倒せたけど、それでもまだ魔物は残ってる。これから先ベヒーモスはダメージを受けても魔物を食べて回復できる。魔物はいずれ尽きるけれど、それまで私たちが無事でいられるかなんてわからない。


「グルルル……」

「チャチャさん……」


 チャチャさんは相変わらず魔王を睨みつけたまま動かない。でもそのおかげで魔王も動けない。チャチャさんが魔王を抑えつけてる間にベヒーモスを倒さないと……でもすぐに回復してしまう敵、どうしたらいいの? こんな時はいつもフラムが良い方法を思いついてくれた。だけど今彼女は敵に捕らわれたままだ。


 考えれば考えるほど、どうすればいいのかわからなくなってくる。どうすれば私はフラムのことを助けられるの? お願い、誰か教えて……助けて、ソウイチさん……


 


 

 

読んでいただいてありがとうございます。

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