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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
約束された訪問者
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7.役割

「ソウイチ、私はカルアの手伝いに行く」

「いいのか? わざわざ危険な場所に行く必要はないんだぞ?」

「大丈夫、盗賊程度ならどうにでもなる」


 フラムにカルアの頼み事を確認したところ、予想外にもフラムは了承していた。以前なら無碍に断っていたところだが、どういう心境の変化だろうか。


「この依頼はカルアが正式に持ってきたもの、そして私は婚約者とはいえ既にサクラ家の者、となればこの依頼は分家だけどミルーカ家からサクラ家へと依頼されたものになる。私はサクラ家の一員として働きたい」

「そんなことしなくても……」

「ソウイチが良くても私が納得しない」

「クマコやヒラタさんの面倒はどうする?」

「それはシェリーに頼む。私はこの家の役に立ちたい」


 といったやり取りがあり、フラムに押し切られるような形で認めてしまった。フラムは何やら準備があるとかで部屋に籠っており、今はシェリーがクマコとヒラタさんにエサをあげている。


「そんなことしなくても家族なんだけどな……」

「私はフラムの気持ちわかります。フラムは賢者としての自分より、フラム=サクラという存在になりたいんです。サクラ家の一員として働きたいんです。確かにもう家族なのかもしれませんけど、心の整理をつけたいんです。今、私たちのことをサクラ家の者だと認めてくれる部外者はいません。ですが、ミルーカ家から正式に助力を乞われ、サクラ家がそれに応じたということは、そこでフラムは初めてサクラ家の者だと外部に認められるんです」


 だからフラムのことを叱らないでください、とシェリーに念を押されてしまった。いくら家族だと言い聞かせたところで、それは身内の言葉に過ぎない。客観的に見て、シェリーとフラムが我が家の一員であると認められる何かが欲しいんだと思い知らされた。


 確かに彼女たちが俺の婚約者だということは、うちの家族以外は知らない。カルアやバド君も知ってはいるが、あのゲートのことを秘匿するために表に出すようなことはしていない。フラムは自分の心の中に生まれた漠然とした不安を払拭するために、何とか自分のことを認めさせようとしているのかもしれない。


「私は……正直なところソウイチさんが家族だと言ってくれれば、それでいいんです。元々周りのこともあまり気にしませんでしたし、それで何度もフラムに叱られましたけど……でもフラムがソウイチさんのことを信頼してないんじゃありません。それだけはわかってあげてください」


 はっきりとした、お互いの関係を明確にする何か。それをフラムは求めている。俺がしてやれないのであれば、自分からそれを求めて行動している。なのに俺は何もしてやれていない。彼女たちが求めているのは俺の庇護ではなく、俺と共にいられる居場所であり、フラムは自分なりの考えを持って行動している。


 それに比べて俺はどうだ。仕事が忙しいということを理由にして何もしてやれてないじゃないか。シェリーもフラムも、働くということの重要性を理解しているから、世間でよく言われているであろう『私と仕事どっちが大事?』なんてことは聞いてこない。それに甘えているだけじゃないか。


 普段から一緒にいるから、二人がどこにもいかないと安心しているから、大事なことを先延ばしにしてしまっている。いずれは形にすると言葉で言っても、それがいつになるのかを伝えていない。ハードルが高いからと言って、いつまでも待たせてしまっては苦しめているんも同然だろう。


「……もっとはっきりと意思表示しないとダメってことだな。フラムが戻ってくるまでに、何ができるか考えておくよ」

「はい、それがいいと思います。私も……待ってますから」


 そう言うと顔を赤らめるシェリー。シェリーも最近はこうして自分の気持ちを表に出すようになってきた。二人が変わりつつある中、俺だけが変わっていない。変わろうとしていない。過去のことを未だに引き摺り、動き出すこともできていない。


 フラムもシェリーも、我が家での自分の役割を見つけることで、自分の居場所を見つけようとしている。そこに至るまでにどれだけ悩んだだろうか。不安に押しつぶされそうにしながら、どれだけ苦しんだだろうか。彼女たちはそんな様子をほとんど見せないが、それもまた俺が不甲斐ないからだろう。不安な胸の内をさらけ出して、俺に嫌われるんじゃないかとさらに不安になる。そんな気持ちを持たせてしまった。


『もっと気楽に、気持ちを出せばいいじゃん』


 いつぞや初美にそんなことを言われたのを思い出す。二人が大事な存在だということは否定できない事実だが、対外的なことを恐れて表に出せていない。しかしそれはこちらの都合であり、二人には何の非もない。せめて彼女たちを知る者に対して、俺の明確な意思を見せる必要がある。


 とはいえ、それをどうやって明確にするか、それが一番の問題だ。まさか婚姻届のようなものがあるとは思えないし、俺があちらに行くなどどうやっても不可能だ。かといってこちらに不特定多数を招き入れることもできない。俺は二人にどんなことをしてやれば良いのだろうか……

読んでいただいてありがとうございます。

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