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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
約束された訪問者
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6.意思表示

 カルアを含めていつもより若干賑やかになった夕食後、カルアは俺に向かって真剣な様子で話をしてきた。内容は自分の領地、少なくとも移住してきた人たちの住まいを囲めるくらいの防壁が必要なこと、それが無ければ盗賊の被害は減らないこと、防壁を作るのには優れた魔法使いの力が必要なこと。


「私が知る限り、フラムほどの魔法の使い手を存じ上げませんの。ソウイチ殿、是非ともフラムの力をお貸しいただけますか?」

「どうしてそれを俺に聞くんだ? フラムに直接交渉すればいいだろ」

「もう話はしました、ですがフラムから、ソウイチ殿にお伺いを立てろと……」


 フラムがそう言ったのなら聞くしかないが、どうしてそこで俺の名前が出てくるのか。確かに俺はシェリーとフラムの婚約者だが、かといって俺が二人を束縛していいことにはならない。婚約者とはいえ、自由に自分のことを決めることは出来るはずだ。


「……なるほど、この国はとても暮らしやすく、とても厳しいようですわね」

「どういうことだ?」


 カルア曰く、あちらでは家長や自分の家の上位に位置する貴族の言葉は絶対らしい。日本でもずっと昔はそんな風習があったし、もしかしたら現在でも残っているかもしれない。


「あの二人にとって、婚約者となったソウイチ殿の存在は家長も同様なのです。この館の中だけのことであれば多少は許されるでしょうが、勝手に出ていくなど離縁される理由には十分すぎますわ」


 フラムは自分が勝手に行動することで、俺に見捨てられるかもしれないと思っている。それをカルアの口から聞かされて、自分が情けなくなった。受け入れるなんて偉そうなことを言っておきながら、何一つ彼女のことを受け入れていないじゃないか。


「フラムは普段は物静かで取りつき難い雰囲気を出していますが、あれは自分の不安を隠すための仮面ですわ。正直言いますと、私はソウイチ殿に嫉妬すら覚えましたわ。だって私たちとパーティを組んでいた頃はあんなに屈託なく笑う彼女を見たことがないのですから。彼女が変わったのは、ソウイチ殿の存在があってのことですわ」


 そう言われて、昔の自分のことが頭をよぎった。分不相応な相手と釣り合いが取れるようにと、無理に無理を重ねて、結果身体を壊してしまったこと。その相手とはそれがきっかけで見捨てられたこと。あの時もっと自分を出せていれば、違う未来があったのかもしれない。ただはっきり言えることは、とても苦しい時間をひたすら過ごしていたということ。


 そんな苦痛を与えていたことに気付いてやれなかった。もしかするとフラムだけじゃなく、シェリーにも同様の苦痛を味あわせていたのか。


「ソウイチ殿と彼女たちの間には大きな障害があるのは私も存じ上げております。それでもなお、ソウイチ殿にははっきりとした意思表示をしていただかなければなりません。今すぐにとは言いませんが、いずれ二人が潰れてしまう前に、これは領主としてではなく、二人の友人としてお願いいたします」

「あ、ああ。とりあえずフラムに協力してもらうことは問題ない」

「お心遣い、感謝いたしますわ」


 恭しく頭を下げるカルア。先日会ったバドという青年と、今は仲睦まじく暮らしているという。俺たちも同じように、というのはハードルが高いが、少なくともシェリーとフラムを安心させたい。どうすればそれが叶うのか、誰に相談できるというのか。


 あんなにも小さくて、とても儚げで、それでいて俺たちと同じように泣き、笑い、人生を謳歌している彼女たちが喜ぶことなんて、どんなデータベースにも過去事例はないだろう。一時テレビドラマで、ネットの住人にアドバイスを貰って交際を成功させるというものがあったが、彼らとて俺の問題を解決できる術を持たないだろう。


 果たして彼女たちを安心させる選択肢を俺が選べるだろうか。それ以前に、その選択肢そのものを準備できるだろうか。流石にそこまでは初美に相談することはできない。もし相談すれば、与えられたことに甘えてそのまま行動してしまうだろう。だがそれは俺自身が考えたことじゃない、そんな付け焼刃はすぐに剥がれてしまう。


 俺に求められているのは、俺が悩み、苦しみ、その末に自分で選択肢を考え出すこと。そして最良のものを選び取ることだ。きっと彼女たちなら俺のどんな選択をも支持してくれるだろうが、それではいけない。俺とシェリーとフラム、三人が心の底から納得できる選択を選ぶこと、それが俺の責務だ。


 もしその結果、うまくいかないことがあったとしても、その時は三人で悩めばいい。三人で泣けばいい。そして……三人で喜び合えばいい。家族になるということは、そういうことだと思う。


「……甘えさせてるつもりが、甘えているのは俺だったか」

「そういう理解をしてくれる殿方だからこそ、二人はソウイチ殿を選んだのですわ。どんなに居心地の良い場所よりも、豪華な食事よりも、その理解こそ最も得難いものなのですから」


 誰かの庇護を受けるのであれば、自由に生きることを犠牲にしなければならず、自由に生きようとするのであれば、自らの命を危険に晒すことになる。俺には想像もできない不自由な環境で生きてきた彼女たちのことを理解するカルアだからこその言葉。


 彼女自身も貴族の子女としての責務、政略結婚のような自分の未来を犠牲にするようなことも有りうると覚悟できている。幸いにも今はバド君と一緒になれたようだが、その分シェリーとフラムにも自由に生きることを望んでいるようだ。


 盗賊なんてものがそこいらじゅうにいるような危険な場所にフラムを送り出すことは正直気が引ける。自由と引き換えにそんな連中のターゲットになるなんて馬鹿げてる。俺としてはフラムが望むのであれば、カルアの頼みを断ることもできるが……後できちんとフラムに確認しておこう。

読んでいただいてありがとうございます。

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