4.進化
「そういえば、カルアちゃんは獣人なんでしょ? 獣人って皆あんな感じなの?」
「カルアはどちらかと言えば人間に近い系統の種族。もっと獣に近い風貌の獣人族も多い。以前ハツミが見ていた映画に出ていたようなのもいる」
「ああ、あの宇宙の戦争をモチーフにしたやつね」
ハツミさんが今度はカルアのことに興味を持ち始めた。この国には獣人という種族そのものがいないので、ハツミさんの興味は当然といえば当然なのかもしれないけど。私は獣人族については深く知らないけど、確かフロックスの王都にいる獣王はもっと獣寄りの風貌だったと聞いたことがある、
「獣人族は獣に近いほど基礎的な身体能力が高い。人間に近いほど魔法への親和性が高くなる」
「じゃあ獣に近いほど弱いってこと?」
「そうとは限らない。魔法を使う前に接近されたら魔法使いはほぼ無力。接近しての肉弾戦なら獣人族は鬼人族をも上回る。膂力だけなら鬼人族のほうが上だけど、スピードとスタミナでは獣人族が上」
フラムの説明は正しいと思う。カルアも持久力が高く、魔力が切れても平気で動ける。冒険者の頃は、私とフラムが魔力が切れて休息している時、自分も魔力が切れてるはずなのに平気な顔で見張りをしてくれたわね。カルアも魔法を使うけど、元々の魔力の量がそれほど多くないから、ここぞという時に使うだけだった。
「本当に不思議よね、獣人って。どうやったらあんな姿になるの?」
「別に不思議なことじゃない。ハツミだってサルから進化した結果だし、私たちの世界では獣が長い時を経て進化していっただけ。だからこの国でももっともっと未来では、チャチャのような賢い獣が人間と同じになってる可能性もある」
チャチャさんが獣人に……いまいち想像できないけど、きっととても強い獣人になると思う。それこそ獣王にもなれるかもしれない。でもやっぱり私は今のままのチャチャさんのほうがいいかな。だって獣人になっちゃったら、あのふわふわの毛に埋もれて遊べなくなっちゃうから。
それにしても、フラムとハツミさんはとても難しそうな会話をしてる。サルって獣はテレビで見たことがあるけど、あの獣がハツミさんみたいな巨人になると言われても、何がどうなれば変わるのか全然理解できない。フラムはこの国の知識を得て、今までわからなかったことも理解できるようになってる。フラム曰く、この国の知識は私たちの世界の知識のはるか先を行ってるらしい。確かにテレビやスマートフォンなんかも、私たちの世界じゃ絶対に実現できないと思う。
農業についてもそう、ソウイチさんは大したことじゃないって思ってるけど、私たちから見れば驚くことばかり。私たちの世界では、魔力さえあれば何とかなるって思ってる人たちが大多数で、事実何とかなってるから進歩が無かった。でもここでは収穫量を増やしたり、味を向上させようと努力してる。一種類のフルーツにあんなに沢山のバリエーションがあるなんて考えたこともなかったわ。しかも全部味が違ってとても美味しかった。
ここの食べ物がとても美味しいのは、私もフラムも認めてる。特にフラムなんか、以前はとても食が細くて痩せすぎと思えるような体だった。冒険者として活動していた時は、依頼を完遂した後はスタミナ切れでバドに背負われて戻ることもしょっちゅうだった。だけど今のフラムは肉付きも良くなって、あの頃の姿が嘘みたい。目の下に大きな隈を作ってたけど、今はお肌も艶々でとても可愛らしい。
「何よりここの素晴らしいところは便利さを追求した技術力だけじゃないところ。特に植物の品種改良は別格。味と収量を向上させる方法があるなんて信じられない」
「品種改良は時間がかかるってお兄ちゃん言ってたよ?」
「それでも長期的な展望を見据えてるのは素晴らしい。私たちの世界では即座に答えが求められることが多い。それにそもそも出来の良い物だけを掛け合わせるという考え方がない。品種改良は植物の進化の力を利用していると思う」
ソウイチさんに教えてもらったことだけど、一つの種類でも味や収量にばらつきがあって、その中でどちらも良いものをいくつか選び、その種を播くことから始まるんだって。そして人の手で『ジュフン』っていう作業をしてあげて、きちんと実をつけるようにするんだって。フルーツや麦って勝手に実をつけるものだと思ってたけど、種類によっては違うみたい。
そのための努力とかけた時間があるからこそ、美味しい作物が出来るんだと思う。私たちの世界ではまだそこまでのことは難しいけど、実現できれば凄いことだと思う。美味しくていっぱいとれて、いつもカルアが熱心にソウイチさんの話を聞いて帰るのも当然よね。より美味しく、たくさん獲れるように進化させるって凄いことよね。
「失敗した原因だけじゃなく、成功した原因も考えるというのは良いことだと思う。成功したからと言ってそこで終わりにしたら先はない」
「うん、お兄ちゃんもハウスで色々試して記録残してるし」
「ソウイチの残した記録は素晴らしい財産になる。そのほんの一部でも教えてもらってるカルアはとても幸せだと思う。本来ならそういう情報は絶対に出てこない」
カルアはフェンリルと一緒に時々ここに来ると、ソウイチさんに農業のことを教えてもらってる。カルア自身農業についてほとんど考えたことが無かったことと、領地を出来るだけ早く住民を集められるようにしなきゃいけないから。住民を集めようにも、食べ物が育たない場所になんて誰も来ない。特にあのダンジョンの周辺は森と荒れ地しかなかったから。
水についてはフェンリルが魔法で手伝ってくれたみたいで、近くの川から水路を引いたって言ってた。フェンリルがどんな手伝いをしたのかしら。もしかしてブレスで大地を削ったとか? あまり派手なことをして目をつけられなきゃいいんだけど……
それから、最近カルアと話をしているソウイチさんがとても楽しそうなんだけど……まさかカルアに気があるってことないよね? きっとソウイチさんの得意分野の話だから嬉しいのよね? ね?
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