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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
覚醒する守護者
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7.フラムの野望

「クマコ、バイバイ」

「ピィ!」


 夕焼け空を山に向かって飛んでいくクマコを、手を振って見送るフラム。結局クマコは一泊した後、一日中フラムと遊んでいたようだ。俺はハウスにかかりきりになっていたので、どういうことをしているのか直接見ていないのだが、シェリーの話によると、フラムが魔法で飛ばした小さな枝や布きれを空中で捕まえたり、トカゲなどの小動物を捕まえたりしているそうだ。


「今日は魔力の使い方も教えたのよね?」

「クマコはとても飲み込みが早い。あの巨体で独自の魔法を使いこなせれば、もはや空では敵はいない」

「いや、そもそもクマタカにはそうそう敵はいないはずだがな」

「いつかクマコには私を乗せて飛んでもらう。その時のために準備しておく必要がある」

「それは難しいんじゃないか?」

「以前テレビでハヤブサの背中にカメラを乗せてるのを見た。身体の大きさから考えれば、私一人くらいならいけるはず。もしダメならクマコに掴んで飛んでもらう」


 フラムが時々ドラゴン肉を与えていたのはそういう理由だったのか。背中はともかく、掴んで飛んでもらう姿はどう見ても捕食されているようにしか見えないぞ。


「空を飛ぶ方法はないのか?」

「小型の飛竜とかグリフォンを持ってる人もいるにはいますが、そういった騎獣自体が希少なので数が少ないんです。それに懐かせるには子供の頃から育てないといけないんですが、卵や子供を入手するのがとても危険で……」


 慣れさせるために子供の頃に親から引き離すということか、だが親がそれを簡単に許してくれるはずがない。本当に幸運がいくつも重なった結果、子供を入手できるのだろう。以前シェリーが言っていたが、フラムは騎獣にとても強い憧れを持っていた。クマコにもそれを望んでいるのだろうか。


「クマコは騎獣じゃない、大事な家族。だからお願いして乗せてもらう」

「茶々ならいつでも乗れるぞ」

「チャチャはシェリーが乗る」

「クーン……」

「フラムがそんなこと言うからチャチャさんが気落ちしちゃったじゃない」


 背中に乗せる気満々だった茶々が項垂れている。尻尾も垂れ下がり、余程ショックだったに違いない。茶々からすればクマコは新入り、もう少し自分を優先してくれてもいいんじゃないかって思ってるのかもしれない。しかしそれをはっきりと表に出さないのは茶々なりの配慮だろうが、それを溜めこんで拗らせても困る。


「フラム、茶々も大事な家族だろう? 茶々は今までと同じようにフラムとも遊びたいと思ってるんだ、もう少し配慮してやってくれよ」

「そうよフラム、チャチャさんには何度も危ないところを助けてもらってるじゃない」

「……ごめんチャチャ、私が悪かった。チャチャがいつも優しくしてくれるから甘えてた」


 少し考え込んだ後、フラムは茶々に頭を下げて謝った。それを見ていたシェリーが驚きの表情を浮かべるが、フラムが謝ったことのどこがおかしいんだろうか。


「ソウイチさん、フラムはパーティを組んでいた時から滅多に謝ることがなかったんです。なのにこんなに素直に謝ることが信じられなくて……」

「む……シェリーがひどいこと言った。私だって自分に非があると理解すればちゃんと謝る」

「……本音は?」

「チャチャを悲しませるとソウイチも悲しむ。チャチャはソウイチの妹のようなもの、となればいずれ私の妹になる。姉として妹の前で情けない姿は見せられない」

「ワンワン!」


 茶々はフラムが自分のことを構ってくれてると尻尾を振って喜んでいるが、あの様子だときちんと理解してないだろう。どう見てもフラムと茶々では茶々のほうが姉に見えるし、当然茶々は自分がフラムたちの親がわりと思っているだろう。まさか自分が妹として扱われてると知ったら怒る……いや、茶々のことだから怒らずに受け止めてくれるだろう。


「だから今度クマコが来たら一緒に遊ぼう」

「ワン!」

「結局遊ぶのね……」

「シェリー、遊びは大事。一緒に遊ぶのは良いコミュニケーションになる」

「最近遊んでばかりいるんだけど……」

「まあいいじゃないか、遊べる時に遊んでおくのも大事なことだ」

「さすがソウイチ、理解が深い。やはり私の夫になる男は違う」

「私たち、でしょ?」


 一緒になって遊ぶという行為は決して悪いことじゃない。どこまでいけば危険かの判断力を高めたり、少なくとも俺と初美は一緒に山遊びしていたから、今こうして田舎でも暮らしていけている。初美に限っては『G』という、未だに克服できていない存在があるが。


「ソウイチも一緒に遊ぼう」

「俺はそんなに暇じゃないんだが……まあいいか、もう少ししたら途轍もなく忙しくなるんだし」


 今のところハウスでの育苗とイチゴ栽培、畑くらいなので、遊ぶ時間を作ろうと思えば作れる。もう少しすればこの近辺でも田植えが始まるはずで、高齢化と過疎の進んだん農村では俺のような若い(といっても既に三十路だが)男の労働力は様々な面で重宝される。当然その時は朝から晩まで各所から応援要請が舞い込んでくる。


 その間は二人に寂しい思いをさせてしまうが、その分茶々とクマコに頑張ってもらいたい。二人にとっては強力な護衛であり、心の許せる家族でもある。周囲の目から隠さなければいけないシェリーとフラムが無事に過ごせるかどうかはお前たちにかかっていると言っても過言じゃないんだからな。





 


 

読んでいただいてありがとうございます。

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