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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
白い求愛者
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2.初美の思惑

「そうと決まれば早く中に入んなさい、このままじゃ凍えちゃうわよ」

「お、おい初美、勝手に話を……」

「そりゃこのチワワはシェリーちゃんたちを食べようとしたし、私だって許せない。でも今ここには茶々もいるし、シェリーちゃんとフラムちゃん、それにカルアちゃんたちだっている。何よりお兄ちゃんの銃の怖さを本能的に理解してるみたいだし、ここで何かしでかすようなことはないでしょ。もしそうなれば今度こそ茶々が止め刺してくれるだろうし。ね、茶々?」

「ワンッ!」

「何よりここは日本なのよ? いくらチワワでも言葉が通じるならまずはきちんと話し合いをするべきだと思うわ」


 ハツミがそう言って平坦な胸を張る。確かにハツミの言うことには一理ある。ここは私たちのいた世界じゃない、もっと苛烈で、もっと平和な世界だ。そしてこの国にはどんな罪を犯した者でも正当な裁きを受ける権利がある。いくらフェンリルでも言葉が通じて、高い知能がある以上私たちが勝手に裁くことはできない。


 それに……ハツミには何やら考えがあるっぽい。それを今口に出さないのは、きっと今はそのタイミングじゃないって思ってるんだろう。ハツミのことだからとんでもない内容になるかもしれないけど、その根底には私たちへの配慮があるはずだ。


 いつもハツミの行動には驚かされるけど、決して私たちが嫌な気持ちになるようなことはしない。服や人形のモデルになった時だって、私たちが疲れればすぐに休ませてくれるし、ちょっと過激な服装で若干躊躇う時は着なくてもいいって言ってくれる。過激な服を躊躇うのは主にシェリーだけど。私は過激な服でソウイチが喜んでくれるのならとても嬉しいと思ってる。


 私たちを受け入れてくれたのは確かにソウイチだけど、私たちを陰から支えてくれているのはハツミだ。そんなハツミが考えていることなら、私は信じてみようと思う。フェンリルはとても危険で、一瞬の油断もならない相手だけど、ハツミならそれを踏まえた上でいい解決策を見つけてくれるはず。


「茶々、あんたがこのチワワを嫌うのはよく理解してるけど、ここで始末して終わりっていう簡単な話じゃないのよ。これはこれからの私たち全員に関わる大事なことなんだから、少し我慢しなさい。いいわね?」

「クーン……」

「それからお兄ちゃん、そのチワワをお風呂に入れてあげて。寒さで凍えそうだし汚いし、ノミでもばら撒かれたら大変だから。ちゃんとノミ取りシャンプー使ってね」

「お、おう……」


 かなり渋っていたチャチャとソウイチだったけど、ハツミの剣幕に押されてる。それどころかカルアまでハツミの勢いに呆気に取られてる。カルアにしてみれば、この館の家長であるソウイチと神獣であるチャチャにここまで強く当たれるなんて思考が追いつかないのかもしれないけど。


「……仕方ない、ほら来い、綺麗にしてやる」

『は、放せ、何をする』

「あんたは黙って言うこと聞いてなさい。悪いようにはしないから。それからカルアちゃん、わざわざありがとうね。いきなりだったから豪勢なおもてなしは出来ないけど、ゆっくりしていって」

「は、はい、ありがとうございます」


 ソウイチは渋々といった表情で庭に降りて、フェンリルの首根っこを掴むと風呂場のほうへと消えていった。チャチャはフェンリルが怪しい動きを見せないようにするためにソウイチの後についていった。そして突然物腰の柔らかくなったハツミに戸惑うカルア。でも何だろう、今までのカルアに比べてどこか落ち着いた雰囲気があるんだけど、やっぱり自分の領地を得たことに起因してるのかな。


 カルアはハツミに促されて、私たち用のステップを使ってコタツに向かった。彼女は一度ここに来ているから、戸惑いはかなり小さくなってるみたい。以前に比べて化粧っ気が無くなったというか、お嬢様っぽい雰囲気が無くなったというか、うまく言い表せないけど変わったのは間違いない。


 そういえばバドは何をしているんだろう。途中から声が聞こえなくなったし、私たちのそばにも来なかったけど、もしかして帰った? カルアを置いて一人だけで?


「なあアンタ、いい筋肉してんじゃねえか」

「そういう君もいい筋肉してるね、実戦で鍛え抜いたのがよくわかるよ」


 バドは部屋の隅のほうでタケシとお互いの筋肉を賞賛してた。この二人は一体何をしてるんだろう。確かにタケシは筋肉フェチっぽいところがあったし、バドも暇さえあれば鍛えてたけど、まさかこんなところで共感してるなんて誰が想像できる? 


 確かに冒険者時代にはバドほどの筋肉を持つ冒険者はいなかったし、自分に近いものをタケシに感じたとしてもおかしくはないけど、まさかこんな一面があるとは思わなかった。きっとこんな姿を見たらカルアだって幻滅するだろう。


「もう、バドったら嬉しそう……」


 ダメだった。カルアはバドという伴侶を見つけたせいで思考がうまく働いていない。あの姿を見てそんな感想しか出てこないあたりでかなり重症だ。きっと今のカルアにはバドの姿はとても凛々しい戦士に見えているんだろう。


 でも私から見ればソウイチに敵う相手はいないけど。ソウイチはバドやタケシみたいに筋骨隆々というワケじゃないけど、ソウイチの良さは表面的なものじゃない。それを理解できるのはきっと私とシェリーだけだと思う。

 

読んでいただいてありがとうございます。

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