表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
白い求愛者
269/400

1.求婚

新章開始です

 フェンリルの言った言葉を最初は誰も信じることができなかった。フラムもハツミさんも、タケシさんもソウイチさんも、何よりチャチャさんが言葉の意味がわからないといった感じだった。ううん、チャチャさんはとても賢いので、わからないってことはないと思う、フェンリルがどうして自分を妃に迎えたいかがわからないみたい。


「妃? 馬鹿なの? どうしてチャチャがお前みたいな敗者の妃にならなきゃいけない?」


 ようやく我に返ったフラムが怒気を孕んだ声でフェンリルに言う。フラムの言う通り、フェンリルがチャチャさんに勝ったのならその資格は十分にあると思うけど、お世辞にもあの負けっぷりは惜敗なんて言葉じゃ言い表せない。そう、惨敗だ。なのに敗けた相手を妃に迎えようなんて、一体何を考えているの?


「それにカルアとバドまで巻き込んで、一体この落とし前をどうつけてくれる?」

『何故貴様にそこまで言われなければならんのだ!』

「ガゥッ!」

『ひぃっ! すいません! すいません!』


 チャチャさんはフェンリルに向かって吠えるけど、それはきっとフラムに向かって威圧しようとしたからだと思う。ソウイチさんたちに聞いた話では、チャチャさんはまだお婿さんをもらうとかそういったことはしてないらしいし、もしかしたら妃って言われても本当にわからないのかもしれない。


 いきなり妃にと言われても、誰もが対処に困る。何故ならチャチャさんはソウイチさんの家族、つまり私たちの家族で、大事な家族をいきなり嫁に出せって言われて、はいそうですかと差し出せるはずがない。何よりもチャチャさんはソウイチさんの大事な大事な家族で、心の支えでもあるんだから。


「おい、お前。今何て言った? 俺の聞き間違いじゃなきゃ茶々を妃にって聞こえたんだが、それはつまり茶々を嫁に寄越せってことなんだよな?」

『そ、そうだ、我の……』


 いつもと全く違うソウイチさんの低い声、そしてフェンリルが何かを口に出そうとして言葉を失った。何故なら部屋の入口から銃を構えてるソウイチさんの姿を見たから。ソウイチさんはイノシシやドラゴンと相対した時よりも強い威圧感を出しながら、いつでも銃を撃てる体勢だ。


 チャチャさんに負けたとはいえ、やはりフェンリルの強さなのかしら、ソウイチさんの持つ銃の恐ろしさを本能的に悟ったみたい。ドラゴンの強固な障壁と鱗を容易に貫通する恐るべき破壊力を持った武器、寒さとチャチャさんの威圧で動けない今のフェンリルでは避けることもできないと思う。


「茶々はうちの大事な家族だぞ? 得体の知れないチワワモドキなんぞの嫁にくれてやるつもりは無い」

「そうだ! チャチャにだって選ぶ権利はある! 自分より弱い奴の妃になんてならない!」

「ワンワンッ!」

『そ、そんなぁ……』


 フラムの言葉より、チャチャさんの言葉のほうがフェンリルにとってはショックが大きかったみたい。好きな女の子に告白していきなり嫌われてるんだからそれも当然だと思うけど、でもどうしてフェンリルはチャチャさんのことを好きになったの? あれだけ思いっきり負けたのに。


「フェンリルはあの負けで神獣チャチャのことが忘れられなくなったらしいんだよ。ま、俺もかなり望み薄だとは思ってたけど、フェンリルの頼みとあっちゃ無碍にできねえだろ。下手こいてキレられても困るしな」

「そういえばバド君だよね? 何で私たちにも声が聞こえるの? シェリーちゃんが魔法を使った訳じゃないでしょ?」

「それはきっとチャチャが繋げたゲートのおかげだと思う。チャチャが望んだことが反映されていてもおかしくない。チャチャはきっとみんなと話したいと思ってる」

「ワンッ!」


 これってきっと竜核の力よね? チャチャさんはもう竜核の力を使いこなし始めてるのかしら。だとすればフェンリルのお妃になんてならないわね、だってフェンリルがこんなことを出来るはずがないもの。ハツミさんに話しかけられたバドは少し怯えた様子もあるけど、そこは歴戦の傭兵だけあって出来る限り平静を保とうとしてる。


「お兄ちゃんも少し落ち着いて、家の中で銃を撃ったって知られたらまずいでしょ」

「これが落ち着いていられるか! 茶々を嫁にくれって言ってるんだぞ!」

「だから落ち着いてっての! 寒さと茶々の威圧のせいでお漏らししちゃってるじゃない!」

『うう……』


 ハツミさんの言葉に皆がフェンリルのほうを見れば、フェンリルの周りの雪に黄色い染みが出来てる。よく見れば……・泣いてるの? 寒さと怖さと嫌われたショックでまた粗相しちゃったの? かつて神獣と呼ばれたフェンリルが?


「漏らした! フェンリルが漏らした!」

『うう……見ないでくれ……』

「ほら、フラムちゃんもそんなに虐めないの。とりあえずこのままいたら死んじゃうわよ?」

「あいつは死んで当然のことをしてきた。それが自分に返ってきてるだけ」

「そう言わないの、それに無抵抗のチワワを殺したなんて寝覚めが悪くなるじゃない。この家のことは家族全員で決めるのが当然の流れでしょ」


 いきり立つフラムにハツミさんが話してるけど、正直なところ私もフラムに賛成。いくらチャチャさんに負けたとはいえ、フェンリルの力が弱くなったなんてことはないんだから。でもそれほどまでにハツミさんがフラムを止めるのには何か理由があるのかな?


「こういう時にはやることはたった一つ、家族会議よ!」


 ハツミさんがびしっとフェンリルを指さして言い放った。家族会議って何のことなのかしら、そしてフェンリルは……だんだん動かなくなってきてるけど、大丈夫なのかしら?

読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ