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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
白い来訪者
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9.チワワ再び

『ここがあの方の……ぎゃんっ!』


 フェンリルが何か言い終えるより先に、目にも留まらない速度のチャチャさんがフェンリルの首を咥えた。そして窓際まで走ると、雪の降りしきる夜の庭へと思い切り放り投げた。外は新しく積もった雪のせいでさらに白さを増していて、フェンリルの白さと相まってどこに投げられたのか全然わからない。


 でもチャチャさんは匂いでわかるので、一点を見据えて低い唸り声を上げてる。もしかしてこの館に入ってきたことを怒ってるの?


『よ……ようやく見つけた……焔の君』

「グルルル……」

『そ、そんなことを言わないでくれ、それから……寒い!』


 フェンリルもこんなに冷たい雪の中に放り込まれるなんて思ってもいなかったんだろうけど、ここはチャチャさんの護る館なんだから当然よね。それにフェンリルとは勝敗は決したけど、かといって味方になったわけじゃない。一体何をしにきたのかがわからない以上、気を許すつもりもない。少し気になることを言ってたような気もするけど……


「……来た、チワワ来た。自称フェンリルのチワワ来た!」

「ハ、ハツミさん?」

「何アレやっぱりチワワじゃん! 寒さで震えてるところもチワワじゃん! お願いだからそんな潤んだ目で見ないで!」


 ハツミさんはフェンリルを見るなりお腹を押さえて笑い転げてる。ハツミさんが窓を開けていたおかげでフェンリルを外に出せたんだけど、そこまで笑われたらちょっとだけフェンリルに同情しちゃうかも。


『き、貴様、我を愚弄するか!』

「やーん、涙目で怒らないで、笑いが止まらない!」

『おのれ! 目にもの見せて……』

「ガゥッ!」

『ひっ、すいません、そういうつもりじゃなかったんです』


 笑い転げるハツミさんに怒りのままに攻撃しようとしたけど、チャチャさんの一喝で竦み上がるフェンリル。獣としての格付けでチャチャさんの上位が決定的になったせいか、全然頭が上がらないみたい。ぺこぺこ頭を下げてる姿には威厳のかけらも見当たらないんだけど……


「どうした、シェリー?」

「あ、チワワだ」

「へー、あれがフェンリル? 画像で見るより小さいね」

『き、貴様……ら……』


 窓際で騒がしくしたせいか、ソウイチさんたちもやってきた。ハツミさんだけならどうにかできると考えていただろうフェンリルは、ソウイチさんやタケシさんまで揃ったせいで言葉が出なくなってる。

 だってそうよね、自分の身体より何十倍も大きな巨人が何人もいるんだもの、フェンリルだってどうしたらいいのかわからなくなって当然。


「……チワワ、何しに来た?」

『我はチワワなどという名ではない! フェンリルだ!』

「ガゥッ!」

『ひぃっ! すいません!』


 フラムの質問に、答えになっていない答えを返そうとして、またチャチャさんに一喝されるフェンリル。チャチャさんの剣幕にフェンリルはもう泣きそうなんだけど、ちょっとだけ可哀そうになってきちゃった。あの時とは違って、私に危害が加わる可能性がほとんどないからそう思えるのかもしれないけど。


「おい、まさか茶々に復讐しようと思ってるんじゃないだろうな?」

『そ、そんなことあるはずないだろう!』

「ガゥッ!」

『ひぃぃっ!』


 フェンリルが何か話そうとする度にチャチャさんが怒るので、フェンリルが委縮して全然話が進まない。でもチャチャさんいとってフェンリルは私たちを食べようとした許しがたい相手だし、フェンリルだってそのくらいわかってると思うんだけど……


「ソウイチ、あいつは生かしておいても害悪でしかない。この館のことを知られた以上、消すしかない。早く銃を」

「ああ、わかった。少しだけ抑えててくれるか?」

「まかせて、試したい新作の魔法がたくさんあるから」

「初美と武君は離れててくれ、それからシェリーもな」

「私も一緒に戦います! あの時とは違うんです!」


 フラムが魔力を高め、ソウイチさんが銃を取りに部屋に戻ろうとする。その選択は正しいと思う、だってこの場所のことは誰にも知られちゃいけない、カルアも私が一緒にいた時にはこの場所のことを一言も口外しなかった。でもフェンリルがここのことを秘密にしてくれるとは限らないし、もしかしたら魔物の大軍勢を率いて襲撃しようとするかもしれない。だとすれば危険の芽は早いうちに摘んでおかなくちゃ。


『ま、待て、我は……』

「うるさい、黙って死ね」


 いきなり戦意の高まったフラムを見て狼狽えるフェンリル。でもフラムは全く意に介さずに魔法を組み上げようとする。フラムにとってこの場所は誰にも侵害されたくない場所、そこに入ってきた邪魔者にかける慈悲なんてない。そしてフラムが魔法を完成させようとしたその時……


「ま、待ってください!」


 若干動揺は感じられるけど、凛とした通る声が聞こえた。声のほうを見れば、綺麗な赤い巻き毛の女騎士が立っていた。タケシさんに改良してもらった鎧に身を包み、同じく改良してもらった剣を腰に提げて、少し申し訳なさそうに、それでも再会の喜びを隠せない様子の彼女は私たちに向けて言った。


「此度のことは深い事情がありますの、それを説明させてください」


 自分の領地を護っているはずのミルーカ家の息女、カルアがゲートの前に立っていた。後ろにおどおどした様子のバドを引き連れて……

読んでいただいてありがとうございます。

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