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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
白い来訪者
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7.解説

「あれがカルアちゃんでしょ? そしてあのマッチョな男の子がバド君でいいのよね? バド君の頭にあるのは角かしら?」

「うん、バドは鬼人族だからその角が特徴」

「他にも獣人がいるみたいだけど、やっぱりカルアちゃんが一番可愛いわね。あ、でもシェリーちゃんたちは別格よ?」


 炬燵の天板に乗せられたノートパソコンを皆で覗き込みながら、映し出される画像について好き放題に言う初美とそれについて解説していくフラム。あの時はシェリーの救出が最優先だったので他の事はほとんど考えている余裕がなかったが、改めて見ると明らかに俺たちとは異質のものだということがわかる。


 今映し出されている男の子?も頭に角があるし、赤銅色というよりもっと赤寄りの肌の色なんて珍しいにも程がある。まず何よりその男の子?の等身がおかしい。おかしいものだらけが映っているこの画像だが、間違いなく茶々のハーネスに取り付けられたカメラに撮影されたものだ。決して武君と初美が合成した作り物の動画ではない。


「あ、チワワ来たよ、チワワ」

「ハツミさん、あれはフェンリルですよ」

「だってどう見てもチワワじゃないの」

「フェンリルの祖先がチワワだという可能性は否定できない」

「フラムも悪ノリしないの!」


 画面に映し出されているのは、真っ白な毛並みのチワワそっくりの獣。あれがフェンリルだという話だが、あれから俺もネットでフェンリルを検索してみたんだが、出てきた結果は皆精悍な狼のような姿をしていた。俺が見た限りではチワワのような姿をしたものは無かった。

 

 画面の中のフェンリルはこちらを若干見上げるような姿勢だが、これは茶々が大きいからだろう。ポメラニアンにしてはかなり大型の茶々に相対したのなら、自然と目線が上のほうに行くはずだからな。


「うわ、何アレ? あれって魔法?」

「そう、フェンリルのような存在は私たちとは違う独自の体系の魔法を使うことができる」

「へー、すごいのね。でも茶々はそんな奴相手に勝ったんだから、もっとすごいわね」

「はい、チャチャさんはとってもすごいです」

「ワンッ!」


 自分が褒められて嬉しい茶々は尻尾をちぎれんばかりに振りながら一声吠える。


「茶々、あいつは強かったか?」

「ワフッ」

「次郎より強かったか?」

「ワフッ」


 どうやらフェンリルは今の茶々にとっては次郎以下の存在らしい。次郎も猪にしては大きな個体だし、茶々とやりあった頃に比べていくつもの経験を経て強くなっているはずだ。俺でも睨みつけられれば身体が竦む獣の本性、それはフェンリルにも負けないとでも言いたいのだろう。お互いの強さを理解しているモノどうしの信頼のようなものかもしれない。


「次郎は魔法使わないでしょ、それでも勝てるの?」

「次郎って?」

「フラムちゃんは次郎を見たことなかったっけ、この辺りを纏めてる獣のボス、大きなオスの猪よ。以前茶々と闘って負けて以来、この近辺を荒らさなくなったんだけどね」

「チャチャが! やはりチャチャはこの山の王、ううん、女王だ!」

「ワンッ!」


 誇らしげに吠える茶々。次郎に勝ったことは俺にとってとても良い方向に転がった。ボスである次郎に勝って力の差を見せつけたことで、他の獣も畑を荒らすことがなくなった。先日の鹿のような、流れてきた奴は別だが、茶々の護る畑ということで、それまで多かった食害がぱったりと収まったのだから。


 確かに女王という肩書は今の茶々にはとても相応しいと思う。竜核を食べてから、一層艶やかになった毛並みは一流のトリマーの手にかかったかのようだ。そしてポメラニアンをはじめとした小型犬の宿命でもある関節部分の脆さもなくなった。胸を張る姿に漂う威圧感、風格すら感じさせる姿はとても誇らしい。


「私たちが一番最初に出会ったのがチャチャさんで良かったです」

「チャチャは私たちのことを最初から優しく護ってくれた。チャチャの優しさは女神の慈愛にも匹敵する」

「ワンッ!」


 そういえば二人とも、最初に出会ったのは茶々だったな。いきなり出くわして失神してしまったが、もしそれが元の世界だったとすれば、そのまま死につながる恐ろしいことだ。いや、もし失神していたところをイタチや野犬にでも狙われれば同じこと、茶々は二人のことを護ってくれていたことになる。


 茶々からしてみれば、可愛い妹のように思っているのかもしれない。最近のフラムはクマコと遊ぶことが多くて若干寂しそうな顔を見せることもあったが、やはり一緒にいると心強いのだろう、シェリーもフラムも茶々が一緒にいると安心できるようだ。


 画面の中ではフェンリルが茶々の放った怒りの威圧に腰を抜かして震えているところだった。尻を擦りつけるような姿勢で粗相をし、さらにはその上に寝転んで腹を見せるフェンリル。こうなってしまってはもうどうにもならない。これから先、フェンリルが再戦を挑んできたところで茶々に敵うことはないだろう。


 今までを大きく上回る力を身に着けたのなら話は変わるだろうが、あの時にもう茶々とフェンリルの間での格付けが済んでしまった以上、それを覆すことは非常に難しい。実力伯仲な戦いならともかく、こうも圧倒的だともはやフェンリルの心の奥底にまで茶々の強さが染み入ったはず、そしてそれは無意識のうちに茶々に対しての畏怖へと変わっていく。


「もしフェンリルが来たらどうしようか? うちで飼う?」

「ワンワン! ワンワン!」

「ごめんごめん、茶々。もううちには茶々がいるから番犬は不要よね」

「ワンッ!」


 初美が迂闊なことを言って茶々を怒らせた。茶々にとってフェンリルはシェリーを食べようとした不届き者であり、もはや敵としてすら見ていない。そんな奴を自分の縄張りに住まわせるなんて茶々のプライドが許さないのかもしれない。そのくらい茶々の怒りは激しかった。


 心配するな初美、あそこまで恥をかかされた相手のところにのこのこと現れるようなフェンリルじゃないだろう。茶々の強さは二度と忘れることなどできないだろうからな。




 

読んでいただいてありがとうございます。

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