4.雪遊び
何とか少しずつ書き溜めました。
天気予報が微妙に外れて、午後には止むはずの雪は弱まりながらも一晩中降り続いた。そして翌朝、雲一つない晴天のもとまさに白銀に輝く一面の雪と青い空、輝く太陽という非常に美しい光景が作り出されていた。大自然の神秘と言っては大げさかもしれないが、それは見慣れた俺たちだからであって、初めて見る者にはとても衝撃的な光景だっただろう。
「とても綺麗です……」
「キラキラしてる、おとぎ話みたい……」
時折吹く風が雪の粒を舞い上がらせ、陽光を反射して煌く様に見惚れているシェリーとフラム。昨日は降雪で白くぼやけた風景しか見えなかったせいか、まさに白銀一色となった庭を見てしまえばこの反応も頷けるものだ。庭一面が雪に埋まり、鶏小屋や物置はもちろん木々まで雪に覆われた光景は大人になっても心躍るものがある。
「ソウイチ! 早く遊びたい!」
「まぁ待ってろ、その前に早く着替えてこい」
「うん!」
珍しくフラムが元気だ。いつも研究ばかりで引き籠るイメージが強いが、こんなに活発だったことがあったか?
「フラムはああ見えて身体を動かすのは好きですよ? 研究に没頭しがちなので勘違いされやすいですけど」
自分の部屋に走っていくフラムの背中を見ながらシェリーが教えてくれた。確かに茶々を相手に短槍の訓練をしていることはあったが、あれは必要に応じてということではなかったらしい。
「森に住んでいた頃は二人で連携しながら狩りもしてましたし、本当は活発なんですよ。ただ魔法の研究をするにつれてあまりよくない目で見られることも多くなったので、外に出なくなったんです」
「そうか……ところでシェリーはいいのか?」
「私は……実はちょっとだけ一緒に遊びたかったりします」
「なら早く着替えてこい」
「はい!」
何やら昨夜は初美が「また降りてきた! これは絶対にいける!」などと言いながら自室に籠り、武君も初美に促されるように部屋での作業に没頭していたらしい。何が降りてきたのかを俺が知る由もないが、どうやらフラムとシェリーの嬉しそうな姿はそれに由来するもののようだ。たった一晩で作り上げる初美と武君の情熱には脱帽するしかない。
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「ソウイチさーん!」
「ソウイチ! 楽しい!」
積み上げられただけの雪山を天辺から滑り降りてくるシェリーとフラム。シェリーはストックがわりの竹串を器用に使いこなしながら、斜面を滑降してくる。その身にはスキーウェアを纏い、ゴーグルまでつけている。履いているスキー板をはじめ、すべてが初美と武君の合作だ。
そしてフラムはややだぼついた防寒着にシェリーと同じゴーグル、そして大きく違うのはフラムが履いているのはスノーボードだということだ。小さなコブを見つけてはジャンプ台がわりに跳んでいる。二人とも一体どこでウィンタースポーツを知ったんだ?
「雪が降ったからスキーとかスノボの動画を見せたのよ。そしたらすごく興味持ってくれてね」
「手持ちの材料で何とか出来てよかったよ」
ウサギの目かと思うほどに充血した目と大きな隈を露骨に表に出しながらも、満足げな表情の初美と武君。初美に至ってはいつもの一眼レフ、武君はビデオを撮影している。そのビデオカメラ、最新型の高価なやつじゃないのか?
「二人の姿を撮るんですから、安物じゃ済まされませんよ」
「そうそう、最高級グレードの撮影機材じゃないとね。本当なら専属カメラマンつけたいところよ」
相変わらず自分の趣味のためなら躊躇なく金をつぎ込む二人だ。だがシェリーとフラムをモデルにしたフィギュアが売れ行き好調だったらしく、二人に言わせるとこれは大いなる先行投資ということらしい。初美の奴、もしかしたらウィンタースポーツバージョンも作りかねない勢いだな。雪山をスキーで滑降するエルフの女の子に、雪山をスノーボードで跳ぶ魔族の女の子、そんなものがどこに需要があるのかと思ってしまう。
「こういうのはギャップが大事なこともあるの」
「予想外の組み合わせがマニア心をくすぐるんですよ」
俺には到底わからない世界の話ではあるが、確かにスキーウェアやスノボウェアの二人はとても可愛いと思う。ゲレンデではいつもより可愛く見えるなんて言われたりもするが、元々可愛い女の子ならその効果もさらに上乗せされるのは間違いない。
遊んでいいと聞いた途端にフラムの後を追うように走り出すシェリーの後ろ姿は、やはり雪で遊ぶのが楽しみだったとすぐにわかるくらい嬉しそうだった。フラムが自由奔放が過ぎる分、シェリーは自分のことを抑えがちな傾向があるように思える。それが奥ゆかしさだと言い換えることも出来るだろうが、俺としてはフラムに負けないくらいに自分を出してくれてもいい。
白銀の簡易ゲレンデで弾けるような笑顔を見せるシェリーとフラム。多少の我儘を言われたくらいでどうにかなるような器の小さい男になるつもりはない。いや、あんな輝かしい笑顔を見せてくれるのならもっと我儘を言ってくれても一向にかまわない。
リフト代わりをしている茶々に雪山の天辺まで運んでもらう二人の姿を見ながら、こんな日々がずっと続けばいいと願う。いつかは終わりが来るのかもしれないが、それはまだずっと先のこと、今は二人と過ごす楽しい時間を大事にしていこう。
数日は連続更新できそうです。
読んでいただいてありがとうございます。




