2.必殺技?
「すごいわ! シェリーちゃん!」
「はい! やりました!」
鼻息も荒くシェリーに話しかける初美、顔を上気させながらも満面の笑みで返すシェリー。微笑ましい光景に思わずこちらもほっこりしてしまうが、大事なことを忘れそうになった。これだけは聞いておかなければ。
「待て待て! ちょっと待て! 何だよ今のは! 斬るっていうより消し飛んでるじゃねーか!」
「でもこれならイタチ相手でも勝てるでしょ」
「イタチ消し飛ぶわ! ていうか誰が後始末すると思ってんだよ!」
「あーもう、それじゃシェリーちゃん、例のアレやってみない?」
「え? でもあれはまだ形になっていませんし……」
「そりゃ楊枝じゃ無理でしょ。でもこの剣ならいけるんじゃない?」
「……わかりました、やってみます」
初美に押し切られるような形だが、シェリーはゆっくりと剣を構えると再び何かを呟き始めた。だが今度は風が吹くことはない。
「……何が起こるんだ?」
「それは見てのお楽しみ」
一体何をするつもりなのか聞こうとしたが、初美にはぐらかされてしまった。シェリーが強くなるのは俺も望んでいることだが、さっきのアレは危険すぎる。瓶が消し飛ぶなんてどんな攻撃だよ。確かにアレがあればイタチにも勝てるかもしれないが、問題はすばしっこいイタチにどうやって当てるかが問題だ。攻撃するまでちょっと時間がかかるのが難点だな。
シェリーは剣を構えたままゆっくりと一歩踏み出して……消えた。そしてガラスを鳴らしたような澄んだ音とともにシェリーは瓶の背後にいた。そして一拍置いて斜めにずり落ちる瓶。見事なまでに乱れのない断面で斜めに二つに分割された瓶の上半分が座卓の上に転がる音が響く。
「きゃー! すごいわシェリーちゃん! 達人みたい!」
「いえ、まだ制御が甘いです。少々体にかかる負担が大きくなってしまいました」
「だ、大丈夫?」
シェリーが片足を引きずるようにしながら初美のところへやってくる。初美はというと、先ほどの一撃の連続写真を確かめていたが、シェリーの様子を見て心配そうな表情を見せる。
「この程度なら問題ありません『わが傷を癒せ』」
「おお! 治癒魔法か!」
シェリーが何かを呟くと、その体がうっすらと光を帯びる。光はほんの数秒で収まると、シェリーは足を引きずることなく歩けるようになった。だが先ほどの攻撃に手応えを掴んだのか、笑顔を見せている。
「今の攻撃は?」
「ハツミさんに身体の構造というものを教えてもらいまして、その理論をもとに体内に魔力を巡らせるようにしてみたんです。まだ改良の余地はありますけど、これならイタチにも負けません」
「全身の筋肉を魔力で強化するイメージで考えてみたの。さっきのシェリーちゃんの様子を見るに、関節部分と腱にかかる負担をどう逃がすかが問題ね。後で色々考えてみるわ」
「はい! お願いします!」
関節とか腱とか、どうして初美がそんなことに詳しいのかと疑問に思ったが、よく考えれば初美はフィギュア製作のために高校生のころから人体についての資料を集めていたことを思い出した。なんでも可動式のフィギュアとやらを作るには関節や筋肉のつきかたが大事だと言っていたな。
「武器はどう? 強度は問題ない?」
「全く刃毀れが無いです。とても名のある鍛冶職人の作なんでしょうね」
「まぁその筋じゃ有名人なのは確かよ。それよりも他の武器も試してみて」
「はい!」
その後は槍や刀など様々な武器を試していたが、どうやら剣と刀が使いやすそうだった。他の武器も一応使えるようだが、使った時の表情が芳しいものじゃなかった。
「他の武器は魔力が通りにくいです。たぶん私がこれらの武器があまり得意じゃないからだと思います」
とのことだった。俺たちにはその違いが何なのか全く分からないが、使い慣れた武器のほうが手に馴染みやすいとかそういった類のものなんじゃないかと思う。そもそもシェリーが使っていたのは細身の剣だったので、斧とか槍が使いにくいというのも頷ける。
「じゃあ他の武器はいつか使う時のためにとっておきましょ。それよりシェリーちゃん、その武器にこの服を合わせてみない? 新作の衣装『ザ・大正浪漫』よ。袴に剣、一部マニアには堪らない組み合わせよね」
「……シェリー、そんなのに付き合わなくていいぞ」
「えっと……その……私も綺麗な服を着ることが出来て……ちょっとだけ嬉しいかな、って」
「そうよね! 女の子なんだから綺麗な服好きよね? じゃあもっと頑張っちゃう! ……というわけでお兄ちゃんは外に出てね、それともシェリーちゃんの着替えが見たいの?」
「馬鹿言うな」
初美がニヤニヤしながら言ってくるので、短く捨て台詞を残して部屋を出て行く。どうもシェリーが初美に毒されてきてるような気がするんだが、俺の考えすぎだろうか? もし今まで遠慮していたというのなら、そこまで打ち解けてくれたのは素直に嬉しい。一つ屋根の下で暮らすのだから、お互いに肚の探り合いなんてしたくないからな。
ちなみにシェリーの着替えが見たいかどうかは……ちょっとだけ見てみたいと思ったのは内緒だ。
読んでいただいてありがとうございます。




