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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
流れてきた厄介者
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4.侵入者

「クマコー」

「ピィ」


 相変わらずフラムはクマコと遊ぶのがとても嬉しいみたい。自分で調べた情報から考え出した訓練方法らしいけど、傍から見れば遊んでるようにしか見えないんだけど、きっとフラムなりの考えがあるんだと思う。小さな棒を投げてはクマコがそれを拾ってきてフラムに渡す、フラムはクマコを褒めるように頭を撫でれば、クマコも嬉しそうに鳴く。フラムはクマコをどうしたいのかしら。使い魔みたいにしたいのかしら、でもクマコには従属の契約を使ってないし、従魔というよりお友達に近い感じね。


「シェリーちゃんは一緒に遊ばないの?」

「さっきまで遊んでましたから。それに……フラムのあんな嬉しそうな姿を見るのは初めてなので……」

「確かにあんな表情見たことないわね。お昼ごはんの後もずっと遊んでるものね」


 お茶とお菓子の用意をしてくれたハツミさんと一緒に縁側で戯れるフラムとクマコを眺める。クマコはソウイチさんが用意してくれた止まり木と縁側の間を行ったり来たりしてて、それをフラムが嬉しそうに褒める。でもそれも仕方ないことなのかもしれない、だってあんな立派な鳥の従魔なんて憧れだったから。


 フラムはずっと自分の従魔を持ちたいって言ってた。でも従魔師に調教された魔物はとても高価だし、それに従魔特有の『自分の意思の籠ってない目』をとても嫌がってた。契約者の言うことには絶対服従で、時にはその命を使い捨てにされたとしても怒りの感情すら持たない存在、それはもう命ある存在じゃないのかもしれない。


 でもここにやってきて、とても強いチャチャさんの優しさとか、ミヤマさんのフラムを護ろうとしてくれた姿を見て従魔という考えは捨てたみたいだった。だってチャチャさんもミヤマさんも、従属の契約なんてしてない。それでもチャチャさんはその力で護ってくれてるし、ミヤマさんは絶対に敵わないとわかっててもドラゴンからフラムを護った。契約という単純な言葉じゃ説明できないものを見て、フラムの考え方は変わったのかしら。


 ううん、違う。きっと今のクマコとの関係こそ、フラムが目指してるもの。お互いにわかりあって、絆を深める『仲間』としての存在、そしてそのずっと先にある『家族』という存在に到達させるために、クマコと一緒の時間を大事にしてるんだ。だってあんなに嬉しそうな顔をしてる二人の過ごした時間が無駄になるはずがないものね。


「うわっ!」

「ピィッ!」

「……クマコ、ありがとう」

「ピィ」


 縁側から転げ落ちそうになったフラムの襟首をクマコが咥えて阻止すると、フラムはとても恥ずかしそうに、クマコはとても誇らし気にしてた。フラムはお姉さんになったつもりなのかもしれないけど、今のままじゃクマコのほうがお姉さんに見えるよ。


 ふと風の精霊が騒ぐのを感じて、その方向を見ると大きな獣が木々の間からこっちを見てた。私は初めて見る獣だけど、それが何なのかはすぐにわかった。頭部に生えた枝分かれした立派な角と、身軽な動きが得意そうな四肢。あれがソウイチさんが言ってたシカだって。私たちの世界にも同じような姿の獣はいたけど、そんなの比べ物にならないくらい大きい。草を食べるって言ってたけど、あんな巨体でぶつかられたら私たちなんてひとたまりもない。


「ハツミさん、あれを見てください」

「え、どうしたのいきなり……まずい、タケちゃん! 早く来て!」

「どうしたの、初美ちゃん?」

「タケちゃん、あいつをすぐに追い払って! 殺す気で!」

「う、うん、わかった……」


 私の指さす方向を見たハツミさんは急に顔を険しくしてタケシさんを呼んだ。いきなりのことでタケシさんは面食らってたけど、それは私も同じだった。だっていつも優しいハツミさんの口から『殺せ』って言葉が出たんだから。タケシさんはその言葉に動揺しながらも傍に落ちてた棒を拾い、シカに向かって歩いていくと大きく振りかざした。


「こらっ! あっちへ行け!」

「……」


 シカはしばらくそんなタケシさんを見つめていたけど、踵を返して木々の間へと消えていった。何事かと言葉も出せずに見ていたフラムとクマコはとりあえずシカがいなくなったことでほっとしてるようだった。戻ってくるタケシさんもほっとした様子だけど、ハツミさんだけは険しい顔のままだった。もういなくなったのに、どうしてそんな顔をしているの?


「ハツミさん、もういなくなりましたよ?」

「……最悪よ、せめて茶々だけでもいてくれてたら……」


 ハツミさんの顔は相変わらず険しいまま。一体何が最悪なのかしら? シカも大人しく逃げていったのに……


「タケちゃん、本当に殺すつもりだった?」

「そんなの無理だよ、あの鹿もよく見れば可愛かったし、追い払えればそれでいいでしょ?」

「……本当に最悪よ、お兄ちゃんにメールして早く帰ってきてもらおう」


 そう言うなりスマートフォンを取り出してソウイチさんにメールを送るハツミさん。いいなあ、私も早く使い方を覚えてソウイチさんにメールしたいなぁ。フラムはもうかなりメールのやりとりしてるみたいだけど。そんなことよりハツミさんの言う最悪ってどういうことなのかしら。タケシさんの言うように、追い払えればそれでいいと思うんだけど……

読んでいただいてありがとうございます。

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