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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
流れてきた厄介者
245/400

1.荒らされた畑

昨日は更新できなくてすみません。


新章スタートです。

「クマコ、クマコ」

「ピィ」

「えへへへ……」


 クマコが我が家に通うようになってから数日、フラムちゃんはクマコにべったりだった。クマコも全く嫌がる素振りを見せず、フラムの為すがままにされている。だけどフラムちゃんも羽根に逆らって撫でたりするようなことはなく、クマコも気持ちよさそうにしている。


「クマタカまで懐くなんて、どれだけ力を秘めてるのよ、ドラゴン肉」

「まだまだ研究の余地はある、とても期待できる素材」

「ところでソウイチさんの姿が見えませんけど……」

「ああ、ちょっと近所にね」


 茶々にもたれかかりながら、クマコと戯れるフラムちゃんを眺めるシェリーちゃん。シェリーちゃんもクマコと遊ぶこともあるけど、やっぱり茶々と一緒にいることが多い。あまり放っておくと茶々が悲しそうな顔をするからってこともあるけど。そして今は姿が見えないお兄ちゃんのことを探してる。


 お兄ちゃんは朝一番で渡邊さんから電話の呼び出しがあったから、そっちに出かけてる。まさかクマコのことがバレたのかと一瞬焦ったけど、どうも違うことみたい。何やら相談があるって話だからってことで出かけたんだけど、面倒事じゃなきゃいいんだけど。渡邊さんはアタシが小さい頃からお世話になってるし、お兄ちゃんからすれば農家の師匠みたいなものだから、頼み事となれば断りづらいんだよね。


 でも渡邊さんが世話を焼いてくれるおかげで我が家の家計は何とか成り立ってる。出来た野菜はその伝手で直売所に卸させてもらってるし、段々その量も増えてる。あの人が後見人がわりになってくれてるから周りの農家も文句を言わない。そんな人に隠し事をしてるってのは心苦しくもあるんだけど、シェリーちゃんたちのことは絶対に教えられない。信用してない訳じゃない、信用してるんだけど、いつどんな形で情報が洩れるかわからない以上、知ってる人間は少ないほうがいいに決まってる。


「大丈夫よ、すぐに帰ってくるから」

「わ、私は平気ですよ?」


 そう言って胸を張るシェリーちゃんだけど、寂しいって気持ちが顔に出てるよ? フラムちゃんがクマコに夢中だから、疎外感を感じてるのかもしれない。きっとお兄ちゃんに甘えたいって思ってるんだろうね。深刻そうな声だったっていうから、面倒なことに巻き込まれなければいいんだけどさ……




**********



「宗ちゃん、こいつを見てくれよ」

「うわ……何だこりゃ?」


 渡邊さんの緊急の呼び出しに応じてみれば、家に着くなり渡邊さんの乗る軽トラックの後をついていくことになった。走ることおよそ二十分、俺の家とは正反対の場所にある、集落に近い畑の農道横に駐車した渡邊さんは、俺にその様子を見せてくれた。確かこの畑は渡邊さんが直売所に卸すための野菜、主に葉物野菜を育てているはずで、今の時期は霜に当てるための白菜が並んでいるはずだった。いや、確かに並んではいるが、この姿が丹精込めて育て上げたものだと言われたら何の冗談だと笑うところだ。


 白菜というのは霜に当てると寒さに抵抗するために葉に糖分を溜めこむ。その結果とても甘くて美味しい白菜になるが、それには寒さが中心部分まで届かないように頭の部分を縛って置いておく必要がある。当然渡邊さんも麻縄を使って頭部分を縛っていたはずなんだが……


「……何で縛ってないのがんだ? それに……」

「……全部縛ったさ、でもこの有様だ。うちはまだ半分程度だけど、八割がたやられたところもあるってよ」

「八割も……」


 畑に並んでいるのは確かに白菜。しかしその姿は一般的に販売されているものとは大きく形が変わっていた。よく見れば縛っていた麻縄は無残にちぎられ、白菜は大きく食い荒らされていた。しかもご丁寧に甘味の少ない外側の部分はほとんど残し、一番美味い中心部だけを食い尽くしている。もちろんこんなのは人間のやることじゃない。


「……何にやられた?」

「猪にしちゃ喰い方が綺麗すぎるし、あいつらはこんなに器用に上から喰わねえよ。こりゃ真上からのぞき込むように喰えるやつの仕業だ」


 渡邊さんは言うが、その言葉の端々に目星がついているということを匂わせる。俺も何となく犯人に思い当たる部分はあるが、実物を見た経験はそう多くないので断定できない。山間の畑ということで、野生動物なのは間違いないが、それが何なのかによって対処法が違ってくる。この惨状を俺に見せたということから渡邊さんが何を望んでいるのかもわかる。


「あの木を見てみろ宗ちゃん」

「……なるほど、そういうことか」

「どうやら他の山から流れてきてるらしい。宗ちゃんとこの山とは反対方向だから、そっちにはまだ行ってねえはずだ」


 渡邊さんが指示した木には、俺の腰から上、胸のあたりまでの高さの場所が皮が剥がれていた。山林を管理する者ならこんなことは絶対にしない。樹木は樹皮の下に導管と呼ばれる水や養分を吸い上げる管がある。だがこうして樹皮を剥かれると、その導管が痛めつけられてしまい、最悪枯れてしまう。こういう跡を残す動物、俺は知っている。


「……鹿の群れかよ」

「ああ、姿は見えねえけど、間違いねえ。そこで宗ちゃんに頼みがあるんだよ」


 渡邊さんの言いたいことはわかる。この辺りで渡邊さんの望む対処法を実行できるのは俺しかいない。おそらく生ぬるい方法では被害が増え続けると考えてのことだろう。だがそれも仕方のないこと、そもそもこの辺りに鹿はほとんどおらず、おそらく食べ物を求めて移動してきた群れだろう。群れを遠ざけるには、明確な恐怖心というものを植え付ける必要がある。流れてきた群れを受け入れてしまっては、この近辺の山々の生態系も大きく崩れてしまう。それは山の環境どころかこうして農業を営む人たちの生活も壊してしまう。


「……宗ちゃん、鹿撃ちやってくんねえか?」


 やはり渡邊さんは俺に鹿を退治させるためにここに連れてきたんだ。


  



これからしばらくの間は不定期になるかもしれません。出来るだけ毎日更新できるようにするつもりですが……


読んでいただいてありがとうございます。

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