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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
天空の狩猟者
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5.空からの襲撃

 冬なのにぽかぽかとお日様の暖かさを感じるある日、私とフラムは庭で訓練をしていた。相手はチャチャさんで、私は模造剣を、フラムは杖とショートスピアを使って攻撃すると、チャチャさんは爪で軽くあしらいながら、私たちに向かって攻撃する。攻撃って言っても私たちが傷つかないように肉球で押す程度だけど、チャチャさんの強さはそれだけでもはっきりと実感できた。


「チャチャさん、そろそろ終わりにしましょう」

「私たちもきっと強くなってる、こんなに強いチャチャを相手に訓練してるんだから」


 フラムはそう言うけど、チャチャさんは全然本気を出してない。あのイタチを一撃で倒したスピードも、フェンリルを寄せ付けなかった威圧も使ってない、なのに私たちじゃ全然歯が立たない。そんな強いチャチャさんに護られてる私たちはとても幸せだと思う、だってこんな強いチャチャさんならもっと自由に振舞うことも出来るのに、私たちのことをとても気にかけてくれているから。


「シェリー、チャチャと先に戻ってて、私はタケシの工房に寄って一緒に戻る」

「わかったわ」


 訓練でローブの裾についた土を払いながら言うフラム。最近はタケシさんの工房で武器や道具についてのアドバイスもしてるみたいで、魔力を使える人がいないこの国でどうやって使うんだろうって最初は不思議に思ってたんだけど……


『使える使えないは問題じゃない。たとえ飾り物でも実用に耐えうるものを作りたいというタケシのこだわりは素晴らしい』


 そう言って彼女は喜んで協力しはじめた。でもそのおかげで私もフラムも素晴らしい武器を手にすることができた。ううん、それだけじゃない、カルアだってタケシさんの作った剣のおかげで最終的にはうまくいった。私も何かお手伝いできればとも思ったけど、こういう研究的なことはやっぱりフラムのほうが得意。あまり熱中しすぎて食事するのも忘れるから、ハツミさんが二人を連れてくることもしばしばなんだけどね。


 暖かい陽射しの中、庭を歩いて工房へと向かうフラム。寒くなってきて辺りにあった草花はみんな枯れちゃった中、防寒着をローブの中に着こんでるから少し、というかかなり丸い体形のフラムが歩く姿はちょっと面白い。あんな姿で訓練するものだから、何度もチャチャさんに転がされてた。最後のほうはチャチャさんが心配そうな顔してたんだよ?


「シェリーちゃん、おやつにしようよ。タケちゃんとフラムちゃんには後で届けるから」

「はい」

「ワン!」


 ハツミさんがお茶とお菓子を手に縁側から声をかけてくれる。今日のお菓子は……プリンだったら嬉しいかも。毎日食べるものの心配しなくていいし、夜になればふかふかのベッドが待ってる。それだけじゃない、もう二度と会えないと覚悟してた親友と再会できて、そして……大好きな人が私たちを待っててくれる。それが当たり前になっている日々、とても充実した日々を過ごせる幸せ。フラムもそれは強く感じてると思う。だって冒険者してた頃はもっと表情が乏しかったから。そのせいで賢者なんて呼ばれてたけど、それが自分を護るための手段だったことを私は知ってる。


「ソウイチさんは?」

「今日は畑。もうすぐ種まきの畑の準備だってさ。でももうすぐ帰ってくるんじゃないかな」


 畑か……一緒に行ってお手伝いしたかったけど、今日は他の巨人も来るからダメだって言われちゃった。でもそれはしようがないよね、巨人全部がソウイチさんたちみたいな優しい人だとは限らないんだから。ソウイチさんだって堂々と私たちを紹介できないのは辛いはず、その辛さを私たちが理解してあげなくちゃ。だって婚約者なんだから。


「フラム、転ばないように気をつけてよ?」

「大丈夫、私を舐めないでほし……痛っ!」

「ほらいわんこっちゃない……」


 丸々と着ぶくれしたフラムはちょっと危なっかしい足取りで、注意したそばから転んで庭に転がった。着ぶくれしてるし、勢いも弱かったから怪我はしてないだろうけど、せっかくハツミさんが作ってくれたローブが土だらけになっちゃう。呆れながらもフラムの無事を確認してほっと一息ついた時、突然風が変わった。今まで優しく吹いていた暖かさを伴った風が止み、はっきりとした殺意を孕んだ風が吹き抜ける。


 一体何者が、そう思って振り向くけど館の中には敵意を持った存在を感じられない。念のためにゲートを見るけど、結界は生きたままで何の反応も示してない。でも殺意を孕んだ風は次第に明確にその強さを増していく。


「フラム! 何か来る!」

「えー? 何ー?」


 それははっきりとした油断だったと思う。フェンリルを圧倒したチャチャさんがここにいるという安心感が招いた油断、ハツミさんがここにいるという油断、一般的な獣はハツミさんたち巨人の存在を恐れて近づいてこないという油断、何度も危険な目に遭っても助かってきたという油断、そういった油断が積み重なり、私たちはここでは弱い存在だということを忘れていた。そして殺意を孕んだ風は……天空から舞い降りた。


「うわあっ!」

「フラム!」

「フラムちゃん!」

「ワンッ!」


 突如響くフラムの叫び声。殺意を孕んだ風はその姿を褐色と白の衣を纏った巨大な鳥へと姿を変えた。そして立ち上がろうとしていたフラムを両足で掴むと、そのまま悠然と羽ばたいて飛び去っていった……


読んでいただいてありがとうございます。

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