3.試作
ダメだ、こんなんじゃダメだ。全然思い通りにいかない。
作業机の横には積み重なった失敗作の数々、全部シェリーちゃんとフラムちゃんのために試作した防寒着の成れの果てだ。羽毛、ダウン、新素材、アタシの手持ちの素材で作ってみたけど、思いどおりのものは出来上がらない。
考えてみればそうだな、って思う。だってシェリーちゃんもフラムちゃんも手のひらに乗るくらい小さいんだから、寒さで体温が奪われるのも早いよね。アタシたちが寒いって感じる温度は、二人にとっては極寒の世界にいるようなものだと思う。
もっと薄くて、もっとしなやかで、もっと軽くて、もっと保温性の高い素材じゃなきゃダメだ。試作品は全部身体のサイズに合わせることを重視してたんで、出来上がったものを試着してもらって初めて欠陥に気付いた。着たはいいけど、身動きが取れなかったんだ。かろうじて歩くのが精一杯で、アタシとしてはその姿も可愛かったんだけど、やっぱり自由に動けないのは辛いよね。
二人が寒さに弱いんじゃないかなって思ったのは、最近寝起きが悪いことが多くなってきたから。フラムちゃんは夜更かししてるから朝が遅いのは良くわかるんだけど、いつも早起きのシェリーちゃんが布団に包まって起きてこないのは珍しかったからね。
それで聞いてみたら、こんなに寒いのは何度かしか経験したことがないって言ってた。冒険者の頃に冬の雪山に行ったことがあるらしいんだけど、その時は何枚も重ね着して、懐炉みたいな魔道具を持ってたんだって。でもその魔道具はとても高価で、使い捨て同然だったから割が合わなかったって。幸い二人の部屋はアタシの部屋にあって、常にパソコン機器が稼働してるから排熱で若干他の部屋より気温が高いから、何とか耐えられたって。
久々に怒っちゃったよ、アタシ。どうしてそれを言わないのって。こうして家族として一緒に暮らしてるのに、そういうところで遠慮なんかしてほしくない。アタシたちが気付かないところで二人が寒い思いをしてたなんて、気付かないアタシたちもいけないんだけどさ。道理で最近二人が茶々にべったりだと思ったよ、茶々の毛に包まれてたら暖かいもの。
当然これは家族会議で言わせてもらったよ? シェリーちゃんは畏まってたけど、もっと胸を張って言っていいんだから。で、お兄ちゃんとタケちゃんは暖房対策を考えてる。お兄ちゃんは炬燵みたいなのを、タケちゃんは二人の部屋に床暖房みたいなのを考えることになったんで、ならアタシはってことで防寒着や保温性の高い肌着を作ることにしたんだけど、まあこれが難しい。
そういうのに適した素材は持ってるんだけど、一様に生地が厚くて動きにくいものばかり。それを重ねたところで何の意味もない、だって動けないんだから。で、タケちゃんの伝手で特殊な素材を手にれてもらった。なんでも有名な繊維メーカーの最新の試作品らしいけど、相変わらずタケちゃんの顔の広さはよくわからない。本来こんなの絶対に手に入らないものなんだけど……
で、それが届くまでの間に二人の身体に合うように型紙を製作中。ボディスーツみたいなのだと二人は嫌がるかな? セパレートの下着みたいにしたほうがいいかな? 極薄の生地らしいから、かなり身体への負担は小さくなると思うけどさ。でもこれが出来上がれば、フィギュア用として新しいものが売り出せる。でもまぁそれはあくまでも二の次であって、最優先なのは二人が喜んでくれる服作り。どんなデザインにしたらいいのか、たくさん作りたいものがあって迷っちゃうのが問題なんだけどさ……
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「どうですかソウイチさん、似合ってますか?」
渋めのライトグリーンのコートに身を包み、ダンスを踊るように一回転してみせるシェリーちゃん。コートの下は薄茶のロングパンツに長袖のシャツ、頭には大きめの白のニット帽。ぱっと見は表参道あたりの女子大生っぽくしたつもりなんだけど、モデルが良すぎるから比較にならないね。
「ソウイチ、私も見て」
シェリーちゃんに負けじとふらむちゃんがくるっと一回転する。フラムちゃんはベージュのコートに膝丈くらいのチェックのスカートと紺色のセーターを合わせてる。原宿あたりの学校帰りの女子高生をイメージしたんだけど、フラムちゃんもモデルが良すぎて比較できない。
「似合ってるじゃないか、二人とも。それが防寒着なのか?」
「……内緒です」
「……女には秘密がいっぱいある」
はにかんだ笑顔を見せる二人にちょっと困ったような顔をするお兄ちゃん。確かにお兄ちゃんの疑問も当然で、あの服は防寒着じゃなく普通の素材で作った服だ。といってもある程度の防寒性は持たせてあるけど。二人がはぐらかす理由は……実は防寒着は彼女たちの下着だからだ。
タケちゃんが手配してくれた素材は、ウィンタースポーツのアスリートの為に開発中だっていう、特殊な吸湿発熱素材だった。薄くてしなやかで、それでいて一般的な発熱繊維と同等の発熱量。ただ問題はそれが女性用のショーツを作るために開発されたものだってこと。激しい身体の動きにも影響されない伸縮性と強度を持った下着用の素材なんて、と思ったけど、それならいっそのこと下着を作っちゃえ、ということで下着にした。
下は一般的なショーツの形、上はチューブトップのような下着と長袖の肌襦袢のような下着。もちろん専用のブラも作ったよ? そして二人に着け心地を何度も確認して、ようやく完成に至った。二人の感想は「とても暖かい」という太鼓判。これなら外に出ても凍えるようなことはないと思う。流石に極寒の雪山とかに行くわけじゃないけど、いずれもっと暖かいアウターも作るつもり。
最近ちょっと塞ぎ気味だったシェリーちゃんもやっぱり女の子、色々な服を着ては嬉しそうにお兄ちゃんに見せてる。フラムちゃんもそれに張り合って服を見せてる姿がとても微笑ましい。アタシは二人の家族だけど、実質的な心の支えはやっぱりお兄ちゃんなんだよね。アタシにできるのはこうした手助けだけ。
やっぱりほら、女の子なら好きな相手に自分の服を似合ってるとか可愛いとか言われたいじゃない。やっぱりお洒落したいじゃない。いつも同じような服ばかり着させてアタシもとても心苦しかったんだ。二人は冒険者だから、戦うときにはローブとか鎧みたいな武骨な恰好だけど、ここじゃ戦いなんてほぼ無縁(G退治は別ね)だから、そうじゃない時は思い切りお洒落を楽しんでほしい。
え? アタシは何をしてるかって? それはもちろん、こんな素晴らしい被写体を放っておくなんてできるはずがないじゃないの! いくら写真に収めても、それでもなお私の欲求をかきたてる可愛らしい姿を残さないわけにはいかないわ! もうメモリーカード五枚目だけど、まだまだ撮るからね!
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