2.スマートフォン
「ソウイチ、スマートフォンが欲しい」
いきなりフラムが切り出してきた。確かに二人は電話を持っていないが、そもそも持ち歩くこともできないだろう? それにどこにかけるつもりだ?
「俺のを貸してるだろう?」
「それだとソウイチが電話を使えない。でもスマートフォンなら私でもソウイチたちと連絡がとれる」
フラムの言うことは尤もではある。いざという時に連絡をとれる手段があるのはいいことだし、家の固定電話は彼女たちには使いこなすことができない。身体の大きさ的に。だが俺に言われても、ここ数年機種変更すらしていないし、最新機種のことなど全くわからない。かなり以前に契約したままのプランなので、見直したほうがいいのかもしれないが……
「いいんじゃないの? 最近はフラムちゃんもシェリーちゃんも自分で稼いでいるんだし、名義はアタシでもお兄ちゃんでもいいじゃん。二台目三台目の契約にすれば手間もかからないだろうし」
「それはいいとして、どんなのがいいんだ?」
「それは考えてある。こっちに来て」
フラムに連れられて向かったのは初美の部屋。フラムたちが使いやすいように床に置かれたノートパソコンには某スマートフォンメーカーのサイトの製品一覧が表示されていた。
「できれば私はソウイチと同じのがいい、だけどソウイチのと同じのが見つからない」
「お兄ちゃんのはかなり型落ちしてるから、もう同じのは売ってないと思うわよ?」
初美がパソコンに向かいながら言う。そろそろ電池も交換しなきゃいけない頃だとは思うが、実際に通話に使うのは稀だし、ネット検索は自宅パソコンでどうにでもなるから気にしていなかった。
「ソウイチのと同じのは……ダメ?」
「お兄ちゃんもこの際だから新しいのにしちゃえば? 家族割引とか最近じゃ新しいプランも出てるし、どうせプランもずっと変更してないんでしょ? 放っておくと余計なお金取られちゃうわよ?」
「それもそうだな……」
古い機種だと故障した時に直せなくなる可能性もあるから、この際だから交換してしまおうか。今後色々と連絡を取り合う機会も増えてくるだろうし、その時に電話が通じませんでしたなんていう事態は避けたい。
「よし、新しいのにしよう」
「本当? じゃあ私はこれがいい」
興奮したようにモニターを指さすフラム。そこでふと気づいた、自分の部屋の入口からこちらを見るシェリーの視線に。何やらとても複雑そうな表情ではあるが、一体どうしたというのか?
「シェリーもこっちに来て見てみたらどうだ?」
「私は……いいです」
「どうしたんだよ、機嫌悪いのか?」
「悪くありません、普通です」
どう見ても普通じゃないと思うんだが、できればシェリーの分も一緒に買ってやりたい。フラムだけ優遇するつもりはさらさら無いし、緊急時の連絡手段はあったほうがいい。そもそも彼女たちが単独で外出することはあり得ないし、必要かと強く聞かれれば確かにそこまで必要じゃないのかもしれない。
彼女たちがいる時は常に誰かが在宅の状況だし、連絡を取りたいときには頼んでメールなり電話なりしてもらえばいい。しかしこれは俺の気分的な問題だ。彼女たちが俺たちと同様に人格を持ち、言葉によるコミュニケーションが十分にとれるのであれば、扱いは俺たちと同じじゃなきゃいけないと思う。身体の大きさで使えないとか、そういう理由で拒絶したくない。使えなければ予備用として置いておくのもいいし、自分が使えないものを欲しがるフラムではないはずだ。
「ソウイチ、シェリーはまだ読めない言葉があるから遠慮してる」
「違うわよ!」
「シェリー、これはシェリーにも持っておいてもらいたいから言ってるんだ。使えるかどうかの問題じゃない、最低限の使い方を覚えてもらえば俺が安心できるから言ってるんだ」
「ソウイチさん……」
「ほら、シェリーだって好きなデザインのを選べ。明日にでも契約してくるから」
「じゃあ・・・・・・私はソウイチさんと同じものを……」
「あ、ずるい。なら私もソウイチと同じのがいい。機能なんてどれもほぼ同じなら私もソウイチと同じがいい」
フラムがシェリーの言葉に反応してきた。なぜ二回言うのかがわからないが、流石に色まで同じだと誰のものかわからなくなりそうだ。とりあえず機種は同じでいいとして、色だけは別にしてほしいが……
三人で楽しく選んでいる時間がとても嬉しく感じるのは、彼女たちが危険な状況に陥ってしまったことの反動も大きいと思う。お互いの存在が決して小さくないものになっている証明でもあるだろう。これからもっとそれを大きくしていかなければならない、そのためには俺たちと区別や差別をしてはいけないと思ってる。配慮はもちろん必要だが、差別や区別は同格として見ていないということだからな……
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『もしもし、シェリーか?』
『はい、ソウイチさん』
さっきから一時間に一回くらいの頻度でシェリーから電話がかかってくる。よほど自分の電話が持てて嬉しいんだろう。ちなみにシェリーもフラムも自分の部屋の隣に床に直置きしたままで常時充電している。本当は充電しっぱなしは電池寿命が短くなるから推奨できないが、彼女たちは自分でアダプターを抜き差しできないので仕方ない。とりあえず電話のかけ方だけは覚えたシェリーはとても嬉しそうに電話しているとフラムが教えてくれた。
『何かあったのか?』
『いえ・・・・・・いつでも声が聞こえるって素敵ですね』
少々頻繁ではあるが、戻ってきてから若干ふさぎこんでいることが多かったが、スマートフォンを持ってからは以前のような明るさを取り戻したように感じる。フラムは通話よりもネット閲覧がメインのようではあるが、本人が喜んでいるからいいか。
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デンワというものを貰ってどうなるかと思ったけど、使い方はそんなに難しくなかった。フラムはもっと難しい使い方をしてるけど、私にはこれで十分。だって遠く離れた場所でもソウイチさんとお話できるんだよ? いつでも大好きな人の声を聴けるなんて夢みたい。
貰ったデンワはソウイチさんとお揃いの形でソウイチさんが黒、私が白、そしてフラムが青だ。こんな素晴らしい道具を貰えるなんて、私が家族として本当に認められたって考えてもいいよね? 婚約者だから家族なのは間違いないんだけど、こんな高価そうなものを与えてもらえるんだから、自信をもって家族って胸を張れる。
でも……ソウイチさんは私の出自を知っても今のままでいてくれるのかな? そんな考えが頭をよぎることが多くなったのは、ミルキアでの街の人たちの姿がずっと昔に経験した状況と似てたから……
きっと大丈夫、そう信じたい。種族どころか身体の大きさも違う私たちを優しく受け入れてくれた人たちだから、絶対にそんなことはないって信じたい。でも完全に信じ切れていない自分がいるのが悲しい。
だから……そんな自分を慰めるようにソウイチさんの声を聴く。大好きな人の声を間近で感じて、少しでも悲しい過去を思い出さないように……
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ついに私はスマホを入手した。こんな小さな板のような道具だけど、知識の海に接続できる素晴らしい道具。ハツミのパソコンは少し、というかかなり使いにくかったけど、これなら問題ない。これで私の知識はさらに奥深いものになる。
それに・・・・・・これならハツミにも相談できないことを調べられる。例えば……どうすればソウイチに喜んでもらえるかのアレコレを調べることができる。
まずは私の知りたいことを……あれ? 何だろう、変な文字が出てきて……なにこれ、どうすればいいんだろう。ハツミ、これどういうこと? もしかして壊しちゃった?
「フラムちゃん、また海外のアダルトサイト見たでしょ? やっぱり閲覧制限かけとかないとダメかなぁ?」
「そ、そんなぁ……」
私の知識欲の一部が満たされるのはもっともっと先になりそうだ・・・・・・
読んでいただいてありがとうございます。




