表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
炎の守護者
220/400

13.ただいま

「シェリー、巻き込んでしまって申し訳ありません。貴女も大変な状況でしたのに……」

「いいのよカルア、私だってイタチをそのままにしておくのは危険だと思ったから」


 神妙な顔で頭を下げるカルアを宥める私。あの時の私には危険を報せることくらいしかできなかったけど、できることをしないで誰かが犠牲になるなんてことは絶対にしたくなかった。その後は・・・・・・まぁ色々あったけど、こうして無事でいられるんだから良しとしよう。


「フラムもありがとうございます。貴女が来てくれなかったらどうなっていたことか……」

「私はシェリーを助けに来た、それ以外のことはついでだから気にしなくていい」


 深々と頭を下げるカルアに対して、ちょっとぶっきらぼうに返事をするフラム。でも知ってるよ、それがフラムの照れ隠しだっていうことは。フラムだって仲間のカルアとバドが危険な状況になるのは望んでいないだろうし、私のことを護ろうとしてくれた二人を見殺しにするつもりはなかったはずだし。


「そして……チャチャ様、お力添えありがとうございます。これでしばらくはミルーカが魔獣の類に襲われることはないでしょう」

「ワンッ!」


 チャチャさんの前で跪いて頭を下げるカルア。これは獣人族が臣下として恭順と尊敬の意を表す時にする礼らしいけど、フロックスの国王じゃなくてチャチャさんに向けてそんなことしていいのかと思ったけど、彼女は特に気にしてないみたい。


「獣王陛下には忠誠を誓っていますが、チャチャ様は別格ですわ。チャチャ様は神獣様ですから、獣王陛下よりも上ということになりますから」

「ワンワン!」

「いえ、気にするなと仰られても、私たちがチャチャ様に救われたのは事実ですし、何より獣王陛下でもチャチャ様のお力には敵わないでしょうから」


 カルアにはチャチャさんの言葉がわかるみたいなのがちょっと羨ましい。私やフラムは何となくこう言ってるんだろうな、くらいしかわからないから。チャチャさんは目の前で畏まるカルアにちょっと戸惑ってるみたいだけど、これはきっとフラムが悪いんだわ。フラムの後始末がちょっと、というかかなり強烈だったから。


 フェンリルが逃げ去ったことで問題が解決するかと思ったら、実はそうじゃなかった。ミルキアの街ではチャチャさんを神獣として崇めてたけど、それはあくまでミルキアの街の一角でのこと。チャチャさんを知る人たちはミルーカでもほんの一部の人たちだ。じゃあどうするかとなった時、フラムがこう切り出してきた。


「領主のところにチャチャを見せに行こう」


 領主といえばカルアのお父さん、その人にチャチャさんの存在を見てもらえばいいという考えはわかるんだけど、そのやり方がちょっと乱暴だった。だっていきなりお屋敷の中庭にチャチャさんが降り立てば、誰もが動転するに決まってる。おかげで一触即発の状況になりかけたけど、カルアが乗ってたおかげで収めてもらえた。そして後は……例のくだりをもう一回やって、何とか納得してもらえた。そして最後にはフラムの悪戯でチャチャさんが威圧の咆哮を上げたから全員失神しちゃったんだけど。


 カルアのお父さんやお兄さんたちはチャチャさんの姿を見てかなり怖がってたけど、チャチャさんの加護を、というあたりからとても嬉しそうだった。好き勝手に行動して真意のわからないフェンリルよりも、さらに大きな強さを持ったチャチャさんがはっきりと加護と口にすることで安心できたみたい。色々と歓待してくれるっていうのを断るのに苦労したけどね。


 それからミルキアの街を囲む壁伝いにチャチャさんが移動して、縄張りを主張するマーキングをして回った。私やフラムにはチャチャさんが……その・・・・・・オシッコしてるようにしか見えなかったけど、その匂いを嗅いだ獣人族の人たちが皆寝転がってお腹を見せて恭順の姿勢を見せてたから、とても効果があるんだと思う。


 そしてようやく私たちの後始末が終わって、ミルキアの街の門のところでカルアを先頭に獣人族の人たちに見送られてる。本当はもっと静かに帰りたかったんだけど、はっきりとチャチャさんの存在を認識させないといけないからダメだってフラムに言われちゃった。フラムと同じようにチャチャさんのハーネスに身体を固定していると、カルアが代表で前に出てきた。


「チャチャ様、あなた様の御名を穢すことのないように精進いたします」

「ワンッ!」

「「「「「 おおー! 」」」」」


 住人たちがチャチャさんの声に感激の声を上げてる。最初は変わり身の早さに驚いたけど、力を持たない街の住人たちにとっては自分たちを護ってくれる力が何者かだろうと関係ないんだって理解した。ただチャチャさんの場合は生贄なんて要求しないから、その点での安心感がそうさせているのかもしれないけど。


「じゃあ行くよ、カルア。元気でね」

「カルア、バドとしっかりね」

「そ、それは今は言わないでください! でも……二人とも本当にありがとうございます。この恩はミルーカを発展させることでお返しいたします」


 私たちとカルアとはここでお別れだ、バドともお別れを言いたかったけど、まだ眠ったままで目覚めてないから仕方ない。フラムの話だともう少しすれば目覚めるらしいけど、そこまで待ってるわけにはいかないからね。バドがカルアを護ろうとしたことは皆が見てるし、カルアのお父さんも二人の仲を認めてくれたみたいだから、二人でミルーカを発展させていくはず。


「チャチャ、行こう」

「ワン!」


 チャチャさんは一声吠えると、空へと駆け上がった。精霊たちが喜んで見送ってくれる中、チャチャさんは大空を疾駆する。風を切って進む中、チャチャさんの温もりに包まれながら色々と思い返してた。


 昔の記憶が甦って、怖くて何も考えられなかった時、ソウイチさんの声が私を救ってくれた。私の大好きな人の声が、私の心を包み込んでくれた。もしあの時ソウイチさんの声を聴かなかったら、私はどうなっていたかわからない。


 まだ完全に怖さがなくなったわけじゃないけど、ようやく戻れるという安堵と、フラムとチャチャさんが一緒という心強さがあるから大丈夫。そしてもうすぐ・・・・・・ソウイチさんに会える。


 チャチャさんは大空をまっすぐあのダンジョンに向かって走り、そしてあの部屋へと着いた。目の前には相変わらず漆黒のゲートが大きな口を開けてるけど、そこに飛び込む恐怖はもうない。だって大事な親友と、心優しい守護獣と一緒だから。そしてこの先には大好きな人が待っててくれてるんだから、怖くなんかないよ。


 ソウイチさんはどんな顔をして迎えてくれるかな? いつもみたいに照れながら笑ってくれるかな? それとも再会の喜びに涙を流してくれるかな? 私はどんな顔で会えばいいのかな? あまり泣いてばかりだと泣き虫だって思われちゃうかもしれないけど……


「シェリー、悩むことはない。私たちは自分の家に帰るだけ、ただそれだけ。だからいつも通りにしていればいい」

「フラム……うん、そうよね」


 フラムが私の心を見透かしたように声をかけてくれる。そうだ、もうあの館は私たちの家だ、家に帰るのは当然のことだ。だからいつもソウイチさんが帰ってくる時のようにすればいいんだ。だからソウイチさんと会ったら、今度こそ言うんだ。

 ソウイチさん、ただいまって。



この章はこれで終わりです。

次回は閑話の予定。

読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ