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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
炎の守護者
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7.解放

『チワワじゃん!』


 ハツミの声がスピーカーから聞こえてくる。チワワという単語に記憶を辿ると、確かにそういう生き物を見たことがある。確かあれはチャチャのことを調べてて……小型の犬のところで見た。うん、確かにチワワだ。もうこうなったらあれはチワワにしか見えない。チワワなんかにシェリーは渡さない。


「チャチャ、シェリーのことは任せて。何があっても護ってみせるから」

「……ワン!」


 よほどシェリーのことが気になるのか、チャチャが時折振り返ってこっちを見てる。いくら見た目がチワワでもあれは神獣フェンリル、チャチャなら心配ないと思うけど今は戦いに集中してほしい。私はチャチャに見えるように立つと、背負った杖を両手で握って構える。タケシ特製の杖にハツミの宝玉をはめこんだ私だけの杖。


 魔力を高めて防御結界を張ると、チャチャは安心したようにフェンリルに向き合う。チャチャは優しいから自分が戦った時の余波とか、攻撃を避けた先に私たちがいた場合を考えていてくれたんだと思う。その気遣いはとてもうれしいけど、私だってチャチャの足手まといにはなりたくない。チャチャが思い切り戦えるようにするのが今の私の役目だ。


『貴様……我に挑むというのか? 面白い』

「グルルル……」

『ほう、何を許さんというのだ? 弱い者を喰らうのは強者の常であろう?』

「ワン!」


 チワワ(フェンリル)はチャチャの言葉がわかるみたいで、余裕の表情でチャチャに話しかけてる。チャチャはそれに同調するそぶりもなく、チワワ(フェンリル)に向かって吠えてる。チワワ(フェンリル)が余裕なのはチャチャがまだ自分の力を解放してないからだ。自分が倒したイタチと同じような獣だと見下してるんだ。


 チャチャが今現在どのくらいの力を持ってるのかは私でもわからない。でも自分の力でゲートを繋げるくらいなんだからイタチより弱いなんてありえない。チワワ(フェンリル)だってゲートを繋げるなんてできないだろうし、その時点でもう力の差は歴然だと思う。


「チャチャ! 気を付けて!そいつは魔法を使う!」

「ワンッ!」


 任せて、と言わんばかりにチャチャが吠える。と同時に、チャチャの体から濃密な魔力が溢れ出てきた。魔力の気配からドラゴンの竜核が元になってるのは間違いないけど、少し変質してるのはチャチャの体に馴染んだせいかもしれない。溢れ出た魔力はチャチャの体毛一本一本にまで行き渡り、あたかも燃え盛る炎のようにゆらめき始めた。


「……綺麗」

「……ええ、とっても」


 背後でシェリーとカルアが呟くのが聞こえた。二人が見入ってしまうくらい、今のチャチャは綺麗だった。ううん、綺麗を通り越して神秘的にすら感じる。まさに炎の化身が顕現したような光景に周囲の連中が息をのむのがわかる。チワワ(フェンリル)の存在が霞んでしまうくらい、チャチャの存在感は圧倒的なものだった。



**********



 茶々の目の前には小さな獣。茶々から見れば子犬程度の大きさしかないが、どうしてその獣がこんなにも傲慢な態度を見せるのか、とても理解に苦しんでいた。


 この獣がシェリーを傷つけ、さらには食べようとした。到底許せるものではないが、余計な戦いで家族に心配かけたくないというのも事実。なので茶々は脅しとも受け取れる唸り声をあげながらその獣と対峙していた。


 しかしその獣は茶々が威嚇をしてもなおも傲慢さを見せつけ、さらには自分がシェリーを食べるのは当然だと言わんばかりの答えを返してきた。それは違うと言い返すが、小さな獣は態度を改めない。それどころか自分に向かって明確な敵意を見せ始めたのだ。


「チャチャ! 気を付けて! そいつは魔法を使う!」


 フラムの声に大丈夫だと一声吠えると、全身に力を漲らせる。誰かが教えてくれたわけでもなく、かといって昔からそれを知っていたわけでもない。ただいつの間にか茶々の記憶にその力の使い方が書き込まれていた。それは茶々が求めてやまなかった、家族を護るための力。ドラゴンという未知の生き物と相対した時に感じた無力感を払拭させるに十分すぎる力。


 まだわからない部分の多い力ではあるが、茶々は決してその振るい方を間違えない。目の前の小さな獣のように傲慢に振るうことは許されないということを理解している。茶々はあくまでも宗一の家族であり、周辺の山々の獣の頂点だ。頂点に立つ者が担うべき責任というものをしっかり学習しているのだ。


 体の奥底から湧いてくる力を全身に循環させると、自分の力が数倍、いや数十倍にも感じられるほど高まっていくのがわかる。イメージするのはあの未知の生き物が見せた強固な体。フラムやシェリーの放った攻撃を全く寄せ付けなかった鉄壁の防御を備えた体。あの生き物が備えていたのは固い体で、自分にはそれが無い。無いなら他のもので補えばいい、そう考えた茶々は自分の体毛に力を流した。


 茶々の体の奥底にある何者かの記憶がその力の使い方を教えてくれる。まだまだ底が見えない力は茶々を強く誘惑する。その力があればお前は自由に振舞える、弱者に構うことなどないと。しかし茶々は迷わない、茶々が力を求めたのは家族のため、それ以上でもそれ以下でもない。家族なくして今の茶々は成立しない。その根本を間違える茶々ではない。


 その力を使うことで改めて目の前の獣がどういう存在なのかを理解する。だが茶々にとってそんなものは何の意味も為さない情報だ。茶々が今ここですることはシェリーを、そしてフラムを護ること。そして二人を傷つけるものに仕置きをすることだ。二度と自分に歯向かわないように、二度とシェリーとフラムに害意を持たないように体に教え込むこと。


 茶々が体中に行きわたらせた力はついに体から溢れ出す。しかしそんなものはどうでもいい、ただ目の前にいる小さな獣に身の程というものを教え込むため、茶々は自らも到達したことのない新たな次元の戦いに身を投じる……

読んでいただいてありがとうございます。

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