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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
炎の守護者
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6.フェンリル?

「やっぱりフェンリルって言ったら狼なのかな? 格好いい魔獣だったら茶々に連れてきてもらおうかな?」

「初美ちゃん、不謹慎だよ」

「シェリーちゃんの無事も確認できたし、後はフェンリルだけでしょ? 今の茶々に勝てるとは思えないし」


 初美が好き勝手なことを言ってるが、それがシェリーが無事だったことの喜びの感情の裏返しだってことは兄である俺が良く知ってる。シェリーのことを心配してたのは初美もだから、その気持ちはよく理解できる。


 シェリーは小さな傷はそれなりにあったが、命の危険のある怪我は無かった。カメラに映るシェリーの姿と泣き声に俺も思わず涙ぐんだからな。だが自分の婚約者が無事だったんだ、そのくらいのことは大目に見てもらいたい。俺に向けてスマホを向けていた初美の真意を知りたいところだが。


 シェリーの無事は確認した。あとは戻るだけ、と言いたいところだが、俺の婚約者をここまで追い詰めた奴にはそれなりの落とし前をつけてもらう。ここで何もしなかったら、俺の腹の虫が治まらない。いや、それは俺だけじゃない、初美も武君も同じだ。そしてそれを一番感じているのは、向こうに行ったフラムと茶々だろう。


「ソウイチ、フェンリルに落とし前をつけさせる」

「ああ、茶々もいいな」

「ワン!」


 今までずっとシェリーを映していた画像が切り替わる。茶々がフェンリルと向き合おうとしてるんだろう。そして画面がゆっくりと流れ、神獣フェンリルの姿がはっきりと映った。純白の毛並みはまさに神獣といえるが……俺はその全容を見て言葉が出なかった。


 それは初美と武君も同じだった。衝撃映像と言っても過言じゃないその姿を見て目を見開き、そして絶句した。一体この衝撃をどういう言葉で表したらいいのかわからない。そのくらいモニターに映るフェンリルの姿は俺たちの予想の遥か上を行っていた。


 初美が体を震わせ、武君が目を背ける。誰もがこの衝撃を受け止められないまま、どれくらい時間が経っただろう。


「お……お兄ちゃん……アタシ……アタシ……」

「堪えろ、今は見守るしかない」

「だけど……だけど……」


 体を震わせて懇願する初美。その気持ちはわかる、俺だって同じ気持ちだ。だがこんな状況で感情のままに動くのはまずい。だからもう少しだけ堪えてくれ。俯いて肩を震わせる初美の手を握って落ち着かせようとする武君。その甲斐あってか落ち着きを取り戻したかに見えたが……ダメだった。


「あはははははは! なにこれ! 超ウケるんだけど!」


 初美が思い切り笑い出した。いや、これを見て笑うなというほうが無理というものだろう。それだけモニターに映るフェンリルの姿は衝撃的だった。


「だってあれ……どう見てもチワワじゃん! あははははは! チワワがフェンリル! あはははは!」


 そう、モニターに映ったのは純白の体毛を持つ獣、見事に張り出たアップルヘッド、細い脚、大きな目、誰がどう見ても……真っ白なチワワだった。


「チワワがすごく偉そう! お願いだからもう許して! あはははは!」


 腹を抱えて笑い転げる初美、それを止めようにも自分の笑いを堪えるので精いっぱいの武君。かくいう俺も笑いそうになるのを必死に堪えていた。シェリーの無事がわかって一瞬気が緩んだところにこの攻撃は全くの想定外だった。恐るべしフェンリル。


 茶々につけているカメラなので細かいブレがあってはっきりとはわからないが、何となくだが大きさは一般的なチワワと同じくらいかやや大きい程度のように見える。もしあのフェンリルが本当にチワワなら茶々にとっては障害にすらならないが、あの姿でドラゴンといい勝負をすることもあるとフラムに聞いていたので、いくら茶々でも油断は禁物だろう。


「茶々、油断するなよ!」

『グルルル……』


 念のために茶々に注意を促すと、スピーカーから低い唸り声が聞こえてきた。茶々が滅多に発しない唸り声、これは相当怒ってる証拠だ。一緒に暮らしてきてわかったことだが、この状態の茶々は決して油断をしない。ましてや自分が我が子のように可愛がってるシェリーを狙われたんだ、油断なんてものが介入できる余地すらないだろう。


 モニターの中のチワワ(フェンリル)は茶々のことをじっと睨みつけている。まるで獣が初めて遭遇する敵に出会ったときに見せる偵察と威嚇を兼ねた行動のようだが、果たしてこのチワワ(フェンリル)がどれほどの強さを持っているのか。だがシェリーを狙うようであれば茶々に戦闘を拒否するという道はない。むしろ喜んで立ち向かうだろう。


「フラム! 茶々のサポートを頼む!」

『わかった、任せて』


 茶々から少し離れた場所にいるのだろうか、若干声が遠いようだがこの場はフラムに任せよう。俺たちにはフェンリルの情報がほとんどないし、初美と武君は未だチワワの衝撃から抜け出せないでいる。最も状況判断に優れていて、なおかつ茶々のことにも詳しいフラムなら最適だ。


「茶々! 行け! シェリーを何としても護れ!」

『ワンッ!』


 いつも以上に気合の入った快活な返事が返ってくる。本当に頼りがいのある家族だが、フェンリルには魔法とブレスという茶々の知らない攻撃がある。ブレスはドラゴンが吐いているところを見ているので対処は出来るだろうが、問題は魔法についてだ。だからそのあたりの指示と茶々が自由に動けるようなバックアップをフラムが担ってくれればいい。


「頼むぞ、皆で無事に戻ってこなきゃいけないんだからな」


 モニターの中でこちらを怒りの感情を露わにした形相で睨みつけるチワワ(フェンリル)を見ながら、思わず零した俺のつぶやきは誰の耳にも入ることはなかった。


 

読んでいただいてありがとうございます。

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