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救出作戦

12月24日に内容を差し替えました。

 誰もが動けずにいた。まさか家の中にイタチが入り込んでいたなど、茶々がいる佐倉家ではあり得ないことだった。しかし最近の茶々は竜核を食べた影響か、眠っていることが多かった。その隙をついて入り込まれていたとすれば、その時からずっとあのイタチは息を潜ませてこの瞬間を待っていたということか。


「ソウイチ! シェリーが!」

「お兄ちゃん! どうしよう!」

「ワンワン!」


 皆が一斉にパニックに陥っている。まさかこんな事態になるなんて誰も想定していないのだから当然だろう。かくいう俺もどうしていのかわからない。今すぐ助けに行きたいところだが、茶々の繋げたゲートは俺たちじゃ入れない。ならどうすればいい? 

茶々が今すぐにでも行けるとばかりに俺を見て催促してくる。


「茶々、行けるのか?」

「ワンッ!」

「ちょっと待ってください、お兄さん。そのままじゃ危険です、すぐ準備しますから」


 茶々をゲートに向かって解き放とうとしていた俺を武君が止める。確かに危険かもしれないが、シェリーの命がかかってるんだ、一刻の猶予もないことくらい武君もわかってるはずなんだが、彼は茶々のハーネスに細工をし始めた。


「これと……これと……よし、今のところ無線カメラは大丈夫だから……あとは双方向のマイクをつけて……と」

「タケシ、私が掴まれるようにして。私がチャチャに指示を出す」

「それなら……この布を使って……よし、これでフラムちゃんが座れる場所ができた。茶々、機材の重さは問題あるかい?」

「ワンワン!」

「それだけ跳ねられるなら問題なさそうだね。お兄さん、茶々のハーネスにカメラとマイクを仕込みました。どこまで無線が届くかはわかりませんけど、何もしないよりマシですから。フラムちゃん、もしカメラが使えなくなった時にはこの紐を引いて、そうすれば送信機とバッテリーが外れるから」

「ありがとう武君、頼りになるよ」

「いえ、俺だってシェリーちゃんを失いたくないですから」


 武君はドローンのカメラと送信機、バッテリーを分解して茶々のハーネスに取り付けてくれた。一緒に行ければ一案いいんだが、俺たちが通れない以上茶々とフラムに任せるしかない。だがカメラの映像で状況を把握して、マイクでこちらから指示を出せば完全に孤立することもないだろう。問題は無線がどこまで届くかということだけだが、こればかりは信じるしかない。せめて無線くらいは通じてほしいが……


「茶々、ちょっとだけ動くなよ? いつもは嫌がるハーネスだけど、今回だけは我慢してくれ」

「ワン!」

「チャチャ、シェリーを助けに行こう。イタチなんてやっつけよう」

「ワンワン!」


 フラムが茶々のハーネスの首の部分に括りつけられた布で体を固定しながら言えば、茶々も任せてと言わんばかりに応える。フラムなら茶々の行き先をきちんと指示出してくれるだろうし、こちらでも万全のサポートをする。なんといっても今のシェリーは完全に丸腰で、いつもの部屋着姿だったから武装なんてしていない。一刻も早くイタチから引き剥がさなければ。


 フラムを乗せた茶々が興奮冷めやらぬ様子でゲートの前に立つ。少々気負いすぎのようにも見えたが、フラムが体を固定するまでの間大人しくしていたので、判断力は失っていないようだ。とにかく今は二人に賭けるしかない。


「モニターとマイク、準備できました。お兄さん、いつでもどうそ」

「フラムちゃん、茶々、シェリーちゃんを無事に連れて帰ってきてね」

「ワンワン!」

「黒こげのイタチを土産に帰ってくる。あのイタチは絶対に許さない」

「頼んだぞ、二人とも!」


 俺の声が合図となり、茶々が漆黒のゲートに身を躍らせる。その身のこなしには僅かな恐怖も見受けられなかった。そして姿が掻き消えると同時に、黒一色のモニターにノイズが走る。若干映像が乱れているが、画像は送信できているらしい。


『ソウイチ、安心して待ってて。帰ってきたらいっぱい甘えさせてもらうから』

「そんなことでよければいくらでも相手してやるよ」


 不安に押しつぶされそうになる俺の心を見透かしたのか、フラムのいつもの調子の声がスピーカー越しに聞こえる。いや、フラムの声がいつもより若干上ずってるから、彼女もまた怒っているんだろう。弱者が餌食になるのは山の掟だが、ここは俺の家であり茶々の縄張りの中だ。そんな勝手を押し通される訳にはいかない。そして何より、大事な婚約者を失うなんてことはあってはならないのだから。


「お兄ちゃん、心配なのはわかるけど、ここはフラムちゃんと茶々を信じようよ。さっきは不意をつかれたけど、茶々ならあんなイタチ瞬殺なんだから」

「ああ、わかってる」


 初美が俺の心情を察して声をかけてくれるが、そういう自分も若干声が震えてる。相手は言葉など通じない獣、いつどんな時にシェリーにその牙を突き立てるかわからない。幸いにもイタチの習性として、ある程度の量の獲物を確保するまで巣に持ち帰るというものがあるので、今すぐに食べようとすることはないと思う。


 だがそれはあくまでも習性の話で、どう転ぶかなんてイタチに聞かなければわからない。それを初美も理解しているからこそ、何とか自分を保とうとしているんだろう。全く、俺は兄貴なのに、妹に配慮されてどうするんだ。


「イタチはどこか落ち着くことのできる場所まで逃げるはずだ。茶々、匂いは追えてるな?」

『ワンワン!』

『大丈夫、チャチャはきちんと追えてる。この調子ならすぐに追いつくはず』

「そうか……」


 威勢のいい茶々の声と冷静なフラムの声に若干気持ちが静まってくる。そうだ、茶々がイタチ程度に負けるはずがない。茶々の全力疾走ならイタチすら軽く追い抜ける。フラムの言う通り、すぐに追いつくことができるだろう。イタチにとってシェリーたちの世界は初めての場所で戸惑いもあるはずで、こっちにはフラムというナビゲーターがいるのだから。


 どうしようもなくもどかしい思いを胸に抱いたまま、俺は未だノイズ交じりの闇しか映し出さないモニターをずっと眺めていた。

ストーリーがつながらないので内容を差し替えました。

次回から新章です。


読んでいただいてありがとうございます。

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