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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
覚醒する守護者
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9.確認が必要

 畑から戻って初美達と一緒にシェリーとフラムから説明を受けた時は正直なところ全く理解できていなかったが、実際にその様子を見てみると確かにゲートらしきものがあった。ゲートそのものはシェリーが一度帰った時に見ているので酷似しているものだということはわかる。だが目の当たりにしたのはあの時の一度だけ、その記憶だけでこれが同じものだと判断するほど馬鹿じゃない。


 当然シェリーとフラムもそれを理解しているからこそ、これが本当にあの時のゲートと同じものなのかを確かめることが必要だと言った。もしこのゲートの先が危険極まりない世界で、あのドラゴンのような怪物が出てきたりしたら大変なことになるし、それに何よりシェリーとフラムが通った先がそんな世界だったらと思うと背筋が凍る。


「とりあえずこのゲートには結界を張っておくから、変なものが出てくることはないはず。もしそれでも駄目そうな時にはこのゲートを塞いで、チャチャ」

「……クーン」

「チャチャさんにもまだ自由に使いこなすことはできないみたいですね」

「大丈夫、チャチャ。いずれ自在に使いこなせるようになる。チャチャは賢いからすぐに出来るようになる」

「ワン!」


 茶々がこんなことを出来るようになっていたなんて知って驚いたが、竜核という未知のものを取り込んだのだから、ドラゴンが出来たことが出来るのも当然といえば当然か。


 フラムはゲートからドラゴンのような存在が出てくることを想定しているが、実は俺はそこまで深刻に考えてはいない。何故ならゲートの大きさは茶々よりわずかに大きいくらいで、あのドラゴンは絶対に通れない。そして自分より小さな体躯の者に後れをとるような茶々じゃない。さらに今の茶々はドラゴンの力が上乗せされているんだ。


「ねぇお兄ちゃん、もしこのゲートを通ればアタシもシェリーちゃんたちの世界に行けるのかな?」

「お前が茶々より小さくなれるなら行けると思うぞ?」

「そっか、たぶん茶々は自分の身体を無意識のうちに基準にしちゃったのかもね。それなら仕方ないか」

「ずいぶんあっさり引き下がるな」

「シェリーちゃんたちの世界の住人って皆このサイズだから可愛らしいかなって思ったんだけど、よく考えてみればむさいおっさんとかもいるのよね。だったらここでシェリーちゃんたちを愛でているほうがいいかな、って。あ、可愛らしい子はどんどん来てくれていいけど、それにはまず安全性を確保しないとね」


 相変わらず我が道を爆進する初美の様子にいくぶんか心が軽くなる。そう、まだこれが安全だと決まった訳じゃないんだ。まだ二人との別離が決定した訳じゃないんだ。


 だがもしこのゲートの安全性が立証された時、俺は二人を笑って見送ることが出来るだろうか。二人の未来を考えれば、ここに留まるより帰ったほうがいいのかもしれない。そうすれば二人とも伴侶を見つけて幸せな家庭を築けるかもしれない。ここでひっそりと隠れ住むような生活を強いることもない。


 だが俺の気持ちは……出来ることならここに残ってほしい。二人の純粋さに俺がどれだけ救われているか、かつて受けた大きな心の傷を癒やす糧になっているか、初美もそれを知っているから二人を俺にけしかけるようなことをした。二人にとって俺が必要なように、俺にとっても二人が必要なんだと改めて気付かせてくれた。


 果たして二人はそれについてどう思っているんだろうか、それを聞くのがとても怖い。元の生活に戻るだけと言うのは簡単だが、俺にとって二人のいる生活を忘れることはできないだろう。金につられた連中によって苦しめられた生活に比べれば、今の生活はまさに夢のようだ。だからこそ、夢のように終わって欲しくない。


 しかしそれを表に出せば、二人は俺に遠慮してしまうだろう。助けられた恩もあり、何より口約束ではあるが婚約を交わした間柄だ。自分の気持ちを押し殺して俺につきあうことだって考えられる。そんなことで縛られた二人を見て、俺は素直に幸せを感じることはできないだろう。


 これが金目当てに近づいてくる女だったら遠慮なく切り捨てるが、二人は違う。純粋な二人の気持ちを踏みにじるようなことだけは絶対にしてはいけない。そのためにも、二人の気持ちを絶対に最優先にしないといけない。


「で、安全性の確認ってどうやっるんだ?」

「それもこれから考える。一番簡単なのは誰かが入ってみることだけど、それはとても危険」

「ああ、それだけは俺も許可しない」

「フラムちゃん、俺に考えがあるんだけどいいかな、これならお兄さんも安心できると思うし」

「さすがタケシ、いざという時に頼りになる。毛はないけど」

「これは剃ってるの!」


 フラムと竹松君が安全性の確認の方法についていろいろと話し始めたが、俺はそれをとても複雑な気持ちで聞いていた。俺の中で二人のことを思う気持ちと、自分のことを思う気持ちがせめぎ合い、決して表に出してはいけない感情が生まれ始めていたからだ。


 言えない。こんなこと絶対に口に出して言えない。言ったらすべてが水の泡になる。ここまで築き上げた信頼関係も、夢のような暮らしも。



 安全性がこのまま確認できなければいいと思っているなんて……


 


読んでいただいてありがとうございます。

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