1.茶々の異変?
新章スタートです
「チャチャさん、いつのまに空を飛べるようになったんですか?」
「さすがチャチャ、そのくらいのことは出来るようになると思っていた」
「ワンワン! ワンワン!」
「いや、ポメラニアンは空飛ばないから。魔法を悪戯に使うのは感心しないぞ?」
「え? 私は何もしていませんけど」
「空を飛ぶ魔法は未だ完全に成功した者はいない。私の魔法研究の目的の一つでもあるけど、まだ理論構築が成功していない。だから私じゃない」
シェリーとフラムが素直に褒めるので、嬉しそうに空中を跳ね回る茶々。俺の記憶が間違っていなければ、ポメラニアンが成長すると空を飛べるようになるなんて事実は無かったはず。てっきりシェリーかフラムが茶々と遊ぶために魔法を使ったのかとも思ったが、そんな様子もないらしい。
ならばこの異変は何が原因なのだろうか。初美のいたずらかとも考えたが、あいつにそこまでする理由はないはずだ。それに茶々の嫌がることをすれば確実に反撃される。茶々は初美を自分よりも格下だと思ってる節があるからな。
「茶々、お座り!」
「ワンッ!」
とりあえず大人しくさせないことには詳しいことも調べられない。嬉しそうに跳ね回る茶々に向かって指示を出す。正直なところこういう指示を出したいとは思わない。こういう指示の出し方はペットや狩猟犬などの、従属させている犬に向かってするものだ。しかし茶々は違う。
茶々は俺の家族だ。家族にお座りなんて指示を出す奴はいない。だから俺は茶々に指示を出すときには普通に話しかけるようにしている。しかし今の茶々は嬉しさが爆発してこちらの声が届いていない。だから仕方なくこんな指示を出した。
すると茶々はいつもと違う指示を聞いて我に返ったのか、大きく返事をして俺の前に降りてきてお座りをした。座っている姿はいつもの茶々と何ら変わらない。体格の非常に大きなオレンジコートのポメラニアンだ。しかしその尻尾は先ほどから一向に収まる気配を見せず、今にも千切れ飛びそうな勢いで振られている。
「茶々、お前一体何がどうなったんだ?」
「ワフ?」
「何でそんなに普通な顔してるんだよ」
自分がどれほど衝撃的なことをしたのか理解していないのか、小さく首を傾げてこちらを見上げる茶々。仕草だけを見ればとても可愛らしいが、今しがた見た光景は可愛らしいというよりもシュールさの方が上回っている。昔見たアニメで犬が空を駆けて天に昇るというものがあったが、あれはアニメだから納得できただけであって、まさか実物で、それもうちの家族が再現したとなると受け入れがたいものがある。
「チャチャさん、空を飛べるなんてまるでフェンリルみたいです!」
「フェンリルよりチャチャのほうが大きいからフェンリルなんて雑魚同然。チャチャこそ神獣に相応しい」
「ワンッ!」
シェリーとフラムが茶々に駆け寄って興奮した様子で褒めると、それが嬉しいのか一際大きな声で吠えた。だが気になる単語が出てきたな……神獣? フェンリル?
「フェンリルって確か……狼の魔獣じゃなかったっけ? アタシも詳しくは知らないけど」
「初美ちゃん、フェンリルは北欧神話に出てくる狼の怪物だよ。ラグナロクでオーディンと戦ったっていう伝説がある」
「こちらの世界の伝承のフェンリルとは少し違うけど、狼の魔獣なのは当たってる。白い毛並みを持つ巨狼だけど、大きさではチャチャには敵わない。でもドラゴンと互角に戦える戦闘能力を持っている」
「あまりいい噂を聞かない神獣です。自分の欲のままに行動するので、苦しめられている人もいるみたいです。獣国フロックスでは神と同格と崇められているようですけど」
「ワンワン!」
「大丈夫、チャチャはそんな自制心のない獣とは違う。とても優しくて頼りになる」
「ワンッ!」
聞けばシェリーたちの世界のフェンリルとやらはかなり好き勝手に生きている獣らしい。まあ獣なんだから自由に生きるのは当然だが、よくよく聞けばかなりの知性を兼ね備えて独自の魔法すら使うそうだ。強大な力を持つ存在を神格化することはよくあることだし、とても厄介な神獣のようだ。
思わず話が脱線してしまったが、一番大きな問題はまだ残ったままだ。茶々がどうして空を駆けまわれるようになったのか、その原因を突き止めるほうが大事だ。
「……どうしたの、フラム? チャチャさんに何かあるの?」
「……チャチャ、少し大人しくしてて」
「ワフ?」
茶々の傍でフラムが怪訝そうな顔をして身体のあちこちを確かめている。外見はいつもの茶々と同じだが、もしかしてノミでも拾ってきたか? まさかマダニじゃないだろうな? マダニだとすると感染症の危険があるから獣医にマダニ駆除の薬を処方してもらわなければいけないが……
「……どうしてチャチャからドラゴンの魔力を感じるの?」
「え? フラム、それはいったい……」
「そうか……そういうことだったのか。どうしてあの時ドラゴンの竜核を見つけられなかったのかがわかった。私はソウイチのライフルが直撃して砕け散ってしまったものだとばかり考えていた。でも今思い返せばそれはとても不自然、小さな破片すら残っていないなんてことはあり得ない」
フラムは茶々の前を行ったり来たりしながら、自分の思考に没頭している。何やらフラムは茶々の身体から何かを感じ取っているらしいが、俺や初美達には何も感じられない。ドラゴンの魔力? そんなものがどうして茶々から?
「となれば最も可能性が高いのは……チャチャ、ドラゴンの竜核食べた?」
「ワンッ!」
フラムの問いかけに正解だと言わんばかりに一声吠える茶々。そんな姿を見ながら、俺たちは言葉を見つけることも出来ずにただ立ち尽くしていた。
読んでいただいてありがとうございます。




