8.宗一の決意
え? 今二人とも嫁って言ったのか? 夜中に扇情的な姿で部屋に来て嫁にしてくれなんて漫画とかの中の話だけかと思ってた。二人がそこまで考えていたなんて全然わからなかった。
「私たちはどうしてもソウイチさんと一緒にいたいんです」
「私は元の世界には身寄りがない。もう天涯孤独は嫌。私にも帰る場所がほしい。優しく受け止めてくれる相手がほしい」
「この格好は何の関係があるんだ?」
「こ、これは……その……」
「ハツミがこれならソウイチが手を出してくるかもしれないと言って作ってくれた。これを着た時に何をされてもいいと覚悟を決めた。だから安心して手を出すと良い」
「あ、あの……私も……大丈夫ですから……」
二人の話を聞いた途端に原因不明の頭痛が襲ってきた。お前たちが大丈夫でもこっちが大丈夫じゃないっての。そもそもこの体格差でどうしろって言うんだよ。いくらなんでも手のひらに乗るサイズの女の子を性のはけ口にはできない。
「あの……私って魅力ないですか?」
「いや、魅力あるよ。でもその魅力と結婚は結び付かないだろ」
「ソウイチが手を出したら責任をとってもらうつもりだった」
「おいおい……」
手を出したら責任って……どこまでやれば手を出したことになるのかわからないが、初美の悪だくみに乗せられたっぽいな。あいつは自分が彼氏ができて幸せを満喫してるせいか、考え方が変な方に向かってるんだろう。一度きっちり話をしないといけないな。
「ともかく、俺はそんなことするつもりはない。二人とももう寝ろ」
「わ、私はソウイチさんから離れたくありません。だから……お願いですから私たちを受け入れてください。まだまだ知らないことの多いこの世界で生きていくには、私たち二人だけではお互いを支えていくことは困難なんです」
「ソウイチ、私たちを助けてほしい。私たちはそんなに強くない。誰かのぬくもりややさしさがどうしようもなく欲しくなる時がある。そんな時だけでいいから、それ以外は遊びでもいいから私たちを受け入れて……」
二人に反論しようとして言葉が出てこなかった。その原因はシェリーとフラムの流す大粒の涙だ。体は小刻みに震え、羞恥で真っ赤だった顔はいつのまにか蒼白になっている。もし俺に受け入れられなかったらどうしようという恐怖心と必死に戦っているのだろう。もしそんな二人に拒絶の言葉をぶつけたら、一体どうなってしまうだろう。間違いなくハッピーエンドで終わるはずがない。
俺は一体何をしている? 大事な家族だと言っておきながら、いざとなれば他人行儀になる。体のサイズを理由に二人の気持ちから逃げようとしている。
二人がほしいのは体のつながりじゃなく、心のつながりだ。信頼しあっているとはいえ、それは目に見えるものじゃない。だから二人は不安になっているんだ。元の世界に戻る方法がなくなり、この世界で生きていかなくてはならないことを受け入れざるを得ない彼女たちがどれほどの不安を内面に抱えているのか、俺は全く理解していなかった。
体の関係が無くてもいいじゃないか。お互いの気持ちをつなぐことが一番大事なことじゃないのか? こんな小さな女の子を不安に打ち震えさせるような奴が二人に信頼を寄せてもらう資格がどこにある?
いいじゃにか、小さな二人が相手だって。そもそも将来を見据えた相手がいる訳でもないし、一人で老後を過ごす覚悟だって決めなきゃいけない。ずっと一人で暮らすことに比べたら俺に信頼を寄せる小さな小さな女の子を受け止めるくらいできるはずだろう? 俺だって二人のことは嫌いじゃないんだから。家族としての好きをパートナーとしての好きに変えていけるように努力していけばいいだけだ。三人で。
「二人の気持ちはわかった。二つ聞かせてくれ、もし元の世界に戻れるとしたら、二人はどうする?」
「私は……まだわかりません。色々と元の世界に置いてきたものもあるので」
「私はたぶんソウイチと一緒にいると思う。戻れるとしても私の帰る場所はここ」
二人とも少し悩んでから答えた。もしこれが即座に返ってくるようなら疑うところだ。二人が迷うのも当然で、今のはとても嫌な質問だと自分でも思う。何せ自分が育ってきた世界を切り捨てられるかという意味なのだから。そして二人は悩んだ。悩んだうえで明確な回答はできなかった。でもそれでいいと思う。俺だっていきなり日本を捨てられるかと聞かれて即座に返事なんてできないのだから。
悩むなら一緒に悩めばいい。そうして最良の答えを導き出すのもまた信頼関係の為せることだから。
「わかった、じゃあもう一つ聞かせてくれ。本当に俺でいいのか?」
「ソウイチさんじゃなきゃ嫌です」
「ソウイチ以外に考えられない」
今度は二人とも即答してくれた。正直なところここで落とされたら二度と立ち直れないところだが、幸いにもこの二人はそんなふざけたことをするようなタイプじゃない。心の底から俺を選んでくれたようだ。
「わかった、でもいきなり結婚はどうかと思う。だからまずは婚約ということにしよう」
「婚約……婚約……婚約……」
「婚約者……素晴らしい響き。後に結婚という幸せが訪れることが確定した」
顔を真っ赤にしているシェリーと得意げなフラム。そして一連の出来事を理解してるのか部屋の隅で尻尾を振ってお座りしている茶々。はっきり言って今の俺は全く自信がない。変な女に引っかかることが多かったせいか、二人の気持ちに応えられるかどうかが心配でならない。俺が二人の純粋な気持ちを受け止められるかどうかわからない。
でも俺だけじゃ難しくても、三人で力を合わせれば何とかなるはずだ。俺だって進歩するし、シェリーとフラムだって進歩する。そのための婚約だ。結婚するにしても、その間にお互いの関係をもっと深いものにしていけばいい。それが絆になっていくのだから。
……しかし親父や母さんがこの状況を見たらなんて思うだろうか。とても小さな(物理的に)女の子二人の婚約者が出来たなんて……
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