表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
突然の婚約者
150/400

4.妙案?

遅くなりました。

「え? そ、そんなことできるはずないでしょ?」


 シェリーがどう反応していいかわからないような顔をしているけど、それも仕方ないことだと思う。テレビでよく見る演劇は男女の色恋に関したものが多いけど、よくある題材は一人の相手を複数が取り合うというもの、それはつまりこの国の制度が複数の妻を娶ることができないようになっているということ。


 私たちの世界では有力者が複数の妻を持つことは当たり前のこと。何故なら有力者には後継ぎを残して家を存続させるという義務が出てくる。だから正式な夫人のほかにも妾を多数抱える者もいる。夫人との間に子供ができない場合の保険としてだ。だから賢者という肩書のせいで有力者と関わることの多かった私としては全く違和感を感じないけど、シェリーはあまりこういう話が出てきたこともなく、エルフという種族のせいで婚姻の相手というよりも迫害される者という考え方を持たれることも多かったので浮いた話はほとんど出てこなかった。エルフの中にも多妻制を嫌う氏族もいて、シェリーはそこの出身だから考え方の根底に一夫一婦制が染みついているんだと思う。


「確かにこの国では一夫多妻制は認められていない。でも私たちはこの国の住人じゃない。だから関係ない」

「……でもフラム、ソウイチさんのお嫁さんになったらこの国の住人になる訳でしょ? そうしたらこの国の制度に従わなくちゃいけないんじゃないの?」

「私たちの存在はきっとこの国では受け入れてもらえない。ううん、この世界全体から見てもそれは無いと思う。だからソウイチもハツミも私たちのことを秘匿しようとしてる。だから私たちのことは絶対に公にならない。早い話、ばれなければ全然問題ない」

「そ、それはそうだけど……」


 確かにシェリーの言う通り、ソウイチの嫁になるということはこの国の住人になるということ。でも今まで調べてきたけど私たちのような存在が実在したという明確な記録は見つからなかった。民間伝承や都市伝説の類としてなら僅かに残っているものもあったけど、それも眉唾物と評されているものがほとんど。ごくわずかに実在を主張する人たちもいるけど、周囲からは奇特な目で見られるという。


 そんな中で私たちの存在が公になれば、ソウイチとの幸せな暮らしどころか今現在の平穏な生活すら困難になるのは必至。常に家に閉じこもっていなければいけなくなる。それどころか強引に引き離されて、研究施設で研究される側になる危険性も十分考えられる。そんな輩が手段など選ぶはずもなく、危険はソウイチやハツミにまで及ぶ可能性だってある。すべてを失うことだって考えられるのだから、ソウイチやハツミやタケシがあれほど必死になっていたということも当然だろう。


 だから私たちの存在は絶対に隠さなければいけない。ということは、ソウイチが私たち二人を嫁にしていることだって隠さなければいけない。存在そのものを隠すのであれば、その存在が嫁ではいけないという理由はない。だから何の問題もない。周辺の人の目を避けるのは今までの生活と何ら変わりはないのだから。


「つまるところ今まで通りの暮しと変わらない。なら私たちが嫁であるかそうでないかの違いだけ。シェリーの心配しているようなことはない」

「いや、私の心配はそこだけじゃなくて……」


 そこまで言って顔を赤らめるシェリー。他に何の問題があると言うの? もしかして私の把握していない問題が?


「その……ソウイチさんとは身体の大きさが全然違うし……その……」

「あ……」

「フラムが夜遅くに時々パソコンで見てるのだって……その……私たちと『やり方』は基本的に同じみたいだし……それだと身体の大きさが……」


 夜遅く……あの動画を見ているところが見られてたとは思わなかった。でもあれはこの世界の世俗を調べるためのもので、決して私的な好奇心を満たしたいために視ていたんじゃない。確かに少しは自分の為のところはあったけど……ソウイチが喜んでくれそうなものもあったし……


「大丈夫、それは心配しなくていい」

「え? 本当? 何か方法があるの?」

「愛情があれば問題ない、それと気合があれば何とかなる」

「えぇー……」


 シェリーが心配するようなことは私も危惧していたこと。でもこの世界では敢えて子供を作らない生き方もあると知ったから、私もこの決断が出来た。まだまだ考え方としては主流ではないけれど、少数派ではあるけれど、そういう生き方を選択している人たちもいる。子供が出来なければ蔑まれることのほうが圧倒的に多い私の世界とは異なる考え方は私にも希望を与えてくれた。


 私には身寄りがない。シェリーは親友だけど、いつかは別離する。いつまでも一緒にいることなんてできないのだから。もし私が独りになってしまったら、私はどこに帰ればいい? だから帰る場所が欲しかった。いつでも私を優しく温かく迎えてくれる場所が、辛いこと悲しいことがあれば強く優しく受け止め、時には厳しく叱ってくれる相手が欲しかった。強く繋がる絆を持った誰かが。


 元の世界では賢者としての私を欲する者はいても、フラムという存在を求めている者はいなかった。結局のところ私の力だけが目的だった。それは結局私でなくてもいいと言われているのと同じことで、賢者という着飾った服だけが求められているということ。同じくらいの力を持つ者であれば、誰でもいいということ。


 そんなのは嫌だった。でもあの世界ではそれが当たり前の考え方で、嫌ならば隠遁して引き籠るしかなかった。しかしこの世界に来て私の力なんて大したものじゃないと思い知らされた。私の持つ知識なんてこの世界においては砂粒よりも小さなものだと見せつけられた。本来ならそこで打ちのめされるのが普通だろうけど、私はそこで解き放たれたように感じた。ここでは私なんて矮小な存在であり、私のことなんて誰も知らない。賢者としての私ではなく、フラムとしての私が自由に生きることが出来ると。


 そして出会ったソウイチという巨人は私のことを受け入れてくれた。既にシェリーが来ていたということもあったのだろうけど、それでも等身大の私を受け止めてくれた。命の危機を何度も救ってくれた。誰かに護られるなんて経験がほとんど無かった私にとって、ソウイチの存在は拠り所になっていた。離れたくないと思えてしまうほどに……


「子供を作ることが前提でなくても愛を伝えることはできる。この想いをわかってもらうことはできる。だからシェリーも安心して想いを伝えるといい。自分の気持ちを正直になれば、ソウイチは真剣に向き合ってくれるはず」

「……そうね、ソウイチさんは真面目に向き合ってくれるわよね」

「うん、だからシェリーが好きになったのも理解できる」


 シェリーも私と同じように迫害されることが多かったせいか、自分の本音をさらけ出すことは決して多くなかった。それは普段の服装からも表れていて、冒険者時代は露出の非常に少ない服装だった。肌を多く見せることは自分の心の中を見せているような気がして、極力肌を見せないようにしていた。私も同じだったから、その気持ちはよくわかる。そしてこちらの世界に来てシェリーが肌の露出のある服を着ているのを見た時、シェリーがソウイチに心を許しているのだと理解した。だから私もソウイチを信じることができた。大事な親友が心を許した者なら信じられると。


「だから一緒にソウイチの嫁になろう。そうすれば私たちもずっと一緒にいられる。離れ離れになることもなくなる」

「……うん」

「……話は聞かせてもらったわ、二人の幸せ、このアタシが全力で応援するわ!」


 突如頭上から聞こえた声に振り向けば、頬を涙で濡らしたハツミが満面の笑みで立っていた。 


読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ