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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
恐るべき乱入者
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9.四騎

 私の放った『ウィンドスピア』がドラゴンの翼の被膜に穴を開けた。開けたそばからゆっくりと修復が始まっているけど、これで一時的にでも空への退避を妨害できたはず。自由に飛び回られたら私たちに圧倒的に不利になるから。それに……


「ワンワン!」


 チャチャさんがドラゴンの尾に攻撃してる。チャチャさんの牽制が入れば私たちの攻撃も容易に入る。それを察してか、フラムは強力な魔法の構築を始めているので、私もここで勝負をしかけなくちゃ。長引けば長引くほど戦況はこちらに不利になる。


 私の得意な魔法は風属性、本来ならドラゴンの持つ障壁に阻まれやすい魔法なので、対ドラゴン戦では私はあまり役に立たないと思っていた。でも今は違う、この剣で増幅された魔法は小さいけれど間違いなくドラゴンの強固な障壁を切り裂き、穿った。こんな小さな存在がその身を傷つけうる存在であると知らしめた。


 でもそれは諸刃の剣、絶対的覇者のプライドをも傷つけてしまった。取るに足らない存在が自分の身体に傷をつけ、あまつさえ一時的にとはいえ空を封じられたことがドラゴンの怒りの炎に油を注いでしまった。飛ぶことを諦めたドラゴンは攻撃を直接的なものへと切り替えたので、ブレスを放たせないようにドラゴンの背後から牽制していたチャチャさんにも影響は及んだ。


「キャン!」


 ドラゴンの渾身の尻尾攻撃がチャチャさんを弾き飛ばす。チャチャさんは持ち前の身体能力で何とか踏みとどまると、全く怯むことなくさらに牽制を続ける。だけどドラゴンはチャチャさんが攻めあぐねていることを察知したのか、尻尾攻撃をこちらに向かって繰り出してきた。


 まずい。フラムも私も強力な魔法による勝負の決着を狙っているので、魔法の構築に入ってる。今から防御魔法を使っても大した強度は狙えず、あの質量に圧し潰されてしまう。かといって飛び退いて躱そうとしても、私ならともかくフラムでは間に合わない。


 どうしよう。どうしよう。私だけなら間に合うかもしれない。でもそれではフラムが助からない。二人が助かる方法を必死に模索するけど、いい方法が見つからない。どうしよう。どうしよう。焦る心が冷静な判断力を奪ってゆく。


「え?」


 突然背後に気配を感じた。そして振り返る余裕もないまま、足元から強い力で掬い上げられた。高く跳ね上げられた身体は大きく宙を舞った。


「きゃあっ!」


 思わず悲鳴をあげてしまったけど、何とか体勢を立て直して眼下を見ると、今まで私のいた場所には三つの黒い影がいる。その光景にあの時の光景が甦る。ドラゴンから私のことを命をかけて護ってくれた存在と重なって見える。そしてフラムのほうを見れば、同じように背後から近づいた黒い影によって放り投げられている。


「壱号! 弐号! 参号! ミヤマさん!」


 私たちをその場から遠ざけた四騎の騎獣はドラゴンの尻尾攻撃をまともに喰らい、大きく弾き飛ばされた。壁に激突して足がちぎれてしまっているけど、それでもなおドラゴンに向かって進んでいく。ドラゴンに対抗できる術なんて持っていないのはわかってるはずなのに、それでも立ち向かっていくのは……私たちを護るため。


『風よ!』


 即座に風を集めて着地の衝撃を殺すと、すぐさま同じようにしてフラムを受け止める。フラムの目には大きなハサミが半ばから折れて足も失ったミヤマさんの姿が映っているようで、その方向から視線を外せないでいた。


「やだ……いやだ……ミヤマさん……」

「フラム! 早くこっちに!」

「嫌だ……ミヤマさんが死んじゃう……」

「ミヤマさんは命がけでフラムを護ろうとしてるのよ! ここにいたら何のためにミヤマさんが傷ついているのかわからないでしょ!」


 ぐずるフラムを強引に引きずりながらその場を離れる。私だって辛い。苦しい。悲しい。壱号たちはミヤマさんよりも重傷で、もうまともに戦うことすらできないでいた。にもかかわらずドラゴンの前から離れないのは……あの時のカブトさんのように、私を逃がすために盾となってくれるため。ほんのわずかな時間を、自分たちの命で稼ぎ出すため。生き残れる可能性なんて存在しない、片道切符の戦い。


 いや、戦いなんて呼べるものじゃないかもしれない。一方的に蹂躙されるだけの展開は誰もが予想できること。それでもなお進む皆の姿に視界が滲む。大事な仲間たちの最期を見せつけられるなんて、どんな拷問よりも辛いと思う。でも、私は見なきゃいけない。目を逸らすことは許されない。私たちのために命を捨ててくれる仲間のために、心に刻み付けなきゃいけない。


 ドラゴンは動きの鈍った四騎を見て、明らかに目を細めた。まるで都合よく美味しいものが現れたとでもいうように、一番重傷だった参号を掴むと鋭い牙の並ぶ顎に放り込み、美味そうに噛み砕く。そしてドラゴンの腕は残る弐号、壱号へと伸びる。かつて見たカブトさんの姿と重なる中、それでも彼らは私たちからドラゴンの注意を逸らすべく、その場から離れなかった。


 硬い甲殻が易々と砕かれる嫌な音が響く。でもこのまま隠れれば私たちが助かる可能性はある。ドラゴンが外に新たな獲物を求めて出て行ってくれれば、このままやり過ごせばいい、その私の考えは実現しなかった。


「うわあああぁぁぁ! ミヤマさん! ミヤマさぁぁん!」

「フラム! 静かに! このままやり過ごすの!」

「嫌ああぁぁ! ミヤマさんが! ミヤマさんがアイツに!」


 フラムが取り乱すのも無理はない。壱号たちを腹の中に収めたドラゴンが次に狙ったのはいつものような動きが取れなくなっていたミヤマさん。半ばから折れたハサミで自分に向かって伸びてくるドラゴンの手を挟むけど、ドラゴンは全く意に介さない。そのまま掴んで口の中へと放り込む。そんな光景を見せつけられているんだから……


 最初こそフラムは怖がっていたけど、自分に懐いてくれていると知ってからはとても仲良しだった。昼間は眠っていることが多くなったフラムとミヤマさんの生活スタイルが似てきたこともあり、部屋の外に出る時はもちろん部屋の中でも一緒にいることが多かった。馬とも違う、とても強そうな騎獣を得たフラムはとても誇らしげだった。自分で食事の世話をして、身体が汚れれば布で綺麗にして、ミヤマさんもそんな彼女を自分に乗せることを楽しんでいた。


 私だってカブトさんを失った衝撃は大きかった。壱号たちを失ったことが小さい訳じゃない。ただ、カブトさんの決意を知ったからこそ、ここで彼らの覚悟を無駄にすることは彼らへの侮辱でしかないって考えることが出来たんだ。でもフラムはまだそこまで考えが思い至らなかった。


「許さない……絶対に……殺してやる……殺してやるぞ……」

「フラム! しっかりして!」


 フラムの目に明らかな怒りの光が宿る。杖を握りしめて魔力を高め始めるフラムだけど、そんな彼女を見てもドラゴンは何の変化もない。こんな小さな存在が放つ魔法程度で自分をどうすることもできないと考えているんだろう。ドラゴンのブレスのように威力を弱めても私たちを殺すだけの威力を持つ魔法はない。ドラゴンに大きな傷を負わせるには、強力な魔法を放つ必要がある。そし強力な魔法を構築するには時間がかかる。その間は無防備になるので、強引に力で押し込めばいい。そんなドラゴンの思惑が透けて見えて歯噛みすると同時に、その思惑に乗ってしまっている親友の姿がとても悲しかった。


 こんなに取り乱していては魔法の構築も繊細さを欠き、威力は半端なものになっちゃう。それをコイツは知ってる。恐らく数多くの冒険者や戦士たちを相手にして、その腹の中に収めてきたと思う。その中には私たちのように魔法に特化した戦い方をする者がいたと思う。そういう相手に対してどんな行動が有効なのかを知っているんだ。


「そんな状態の魔法で倒せると思ってるの? ミヤマさんの死を無駄にしないで!」

「シェリー……でも……」


 ようやくフラムが僅かながらも冷静さを取り戻したけど、全部を納得してはいないみたい。でも今はそれでいい、まずはこのドラゴンから生き延びることを最優先に考えないといけない。

 でもどうやって? 圧倒的に戦力差があるのに……


「ワンワン! ワンワン!」

『グルァ?』


 突然チャチャさんが何かを呼ぶように激しく吠えたてた。それに気づいたドラゴンがある一点を見て動きを止める。今までこちらがどんな攻撃をしても完全に動きを止めるなんてことはなかったのに、どうして今になって?


 でもその行動の意味はすぐにわかった。居間からソウイチさんの部屋へと続く入口のところに立つ巨大な人影。ソウイチさんがリョウジュウを手にして立っていたからだった。


 

読んでいただいてありがとうございます。

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