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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
恐るべき乱入者
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3.光る鳥

「鳥? そうね、空から来る敵もいるってこと忘れてたわ。トビとかハヤブサだってシェリーちゃん達にとっては危険な生き物だしね」

「ハヤブサはパソコンで見たことがある。最も速く飛ぶ飛行型の獣」

「空から……とても危険ですね、これからは空も警戒しないと」

「まさか引き籠るわけにはいかないしね」

「いや、そういうことじゃなくてだな……」


 渡邉さんのところで聞いた鳥の話をしたら、話の流れが変な方向に向かいかけた。都会ならば猛禽の類を見ることは稀有なことかもしれないが、こんな田舎となればごく普通に見かける。家の屋根に止まっていることだってよくあることで、庭に現れた野ネズミを捕まえたりもする。そういう観点で考えれば確かに危険で要注意だが、俺が言いたかったのはそういうことじゃない。


 戻ってくるまでの間ずっと考えていたが、渡邉さんの婆さんがいくら痴呆が入ったからといって、トビやハヤブサを見てそんなに大騒ぎするだろうか。最近ならともかく、渡邉さんの婆さんが生きていた頃といえば俺たちが生まれる前のこと。ちょっと外に出れば野生動物なんて探さなくても向こうから出てきてくれた頃だ。都会では環境破壊やら何やらで自然が消えていった時代だが、こんな田舎ではそんなことは関係ない。


「ソウイチが言いたいのは、その鳥が不自然じゃないかということ?」

「ああ、トビやハヤブサどころか、鷹や鷲だって普通に見ることができた頃だぞ? そんなもので大騒ぎすると思うか?」

「……きっとソウイチが考えていることは私と同じだと思う」


 フラムが神妙な面持ちで俺の話を聞き、やや躊躇った後に口を開いた。神妙な面持ちではあるが、そのウサギの着ぐるみパジャマはどうにかならないのか。緊張感が一気に失せるだろう。


「ソウイチさんと同じ考え?」

「ソウイチはその鳥がドラゴンじゃないかと考えている。ドラゴンという存在を知らなければ鳥と間違えても納得がいく」

「……そういえばお兄ちゃん、アタシ渡邉さんの奥さんからその話聞いたことあるよ。『お義母さんがボケちゃって、でっかい光る鳥が飛んでたなんてデタラメ言うのよ』って。てっきり冗談だとばかり思ってたんだけど……」

「それはきっとドラゴン。ドラゴンは飛行の際に使う魔力の影響で光って見えることがあるという。やはりあいつはこの世界に来ていた、それもかなり以前から」


 やはりフラムも俺と同じことを考えていたらしい。というよりも、シェリーの時もフラムの時もドラゴンが現れ、その時に穴が繋がった。それはドラゴンがこっちに来ようとして、それをシェリーたちが先に使ってしまったと考えるほうが妥当だ。フラムもそんなことを言っていたしな。


「ドラゴンが来てた……何のために?」

「詳しいことはわからないが、もしかするとこの世界で回復に努めていたと考えられる。神獣フェンリルと定期的に戦っていたという記録があったから、そこで負った傷を癒していたと考えられる」

「傷を癒す?」

「そう、この世界の食べ物は活力に満ちている。それは魔力ではない、その食べ物が持つ本来の力。その味を覚えたドラゴンが頻繁にこちらに来ていたと仮定すれば、ドラゴンが無暗に追ってこなかったことも説明がつく」

「いや、まだドラゴンと決まったわけじゃないからな」


 フラムはドラゴンが来ていたと確信しているが、俺にはまだそこまで信じることはできない。日本人特有の平和ボケのせいなのか、それとも未だドラゴンというものを理解できていないのか、はたまたその両方がはわからないが、ゲームやアニメ、神話の世界の存在が実在すると言われたらこういう反応になるほうが普通だと思う。


「でもさ、お兄ちゃん。やっぱりドラゴンはいるんだよ。こっちに来るための方法を見つけて、時々来てたんだよ。あ……でも待って、そうなるとここのところその穴を使われちゃってるわけで……」

「……きっとドラゴンはこちらに来る機会を伺ってるということですね」

「そう、何がその要因なのかわからないけど、ドラゴンは世界があの穴で繋がることを知った。そしてその方法も会得した。でも連続で私たちに出し抜かれて激怒している。とても危険」


 初美はドラゴンがこちらに来ている前提で話を進めている。もしそれが本当のことだとして、俺が最も危惧していることをシェリーが代弁してくれた。ドラゴンの強さがこちらの生き物でいうとどのくらいの強さなのかはわからないが、決して弱いということはないだろう。そんな生き物がここにやってくる可能性があるということは、それだけ皆が危険な目に遭う可能性に比例するはずだ。


 フラムの立てた仮説によれば、ドラゴンは迂闊にその穴を攻撃して二度とこちらに来ることが出来なくなるのを恐れているらしい。結果として何度もシェリー達に出し抜かれた形になったが、今度は邪魔する者もいないので堂々と来るだろう。まさしく覇者の風格を伴って。そんな奴を相手に俺たちはどうすればいいのか。


「大丈夫、皆で力を合わせれば撃退できる。ドラゴンとて過去に討伐された記録も残ってる」

「そうですよ、ソウイチさんにはリョウジュウがあるじゃないですか。あれならきっと……」

「それに関しては少し調べる必要がある。だから少しだけ準備を待ってほしい。恐らくだけど、物理法則だけでは奴には勝てない。シェリーも奴の理不尽さはよく知ってるはず」

「そうね、魔法も弾くし物理攻撃もあまり意味がない。特有の障壁を何とかしないと……」


 果たして本当にドラゴンが現れるのか、それはドラゴンにしかわからない。だがもし現れたらと仮定して話を進めておくのは間違いではないはずだ。準備して現れなければ笑い話のネタにでもすればいいし、最悪なのはそこまで知っていながら準備をしていないことだ。


 俺と茶々だけの頃ならばそれでよかったのかもしれない。その場だけやり過ごして、後は見ないふりをして誤魔化していたかもしれない。だが今は初美もいてシェリーとフラムもいる。大事な家族を害そうとする存在とはきちんと決着をつけておかなければならないのだから。

 

 


読んでいただいてありがとうございます。

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