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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
恐るべき乱入者
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1.潜在能力

新章開始です。

「ふぅ……ごちそうさま」

「「ゴチソウサマでした」」

「どういたしまして」


 夕食を終えてお兄ちゃんが食器を片付けていく中、食後の麦茶を飲んでくつろいでいると、ふとアタシを見つめる視線に気づいた。敵意のようなものじゃないけど、じっと観察するような視線にちょっとばかり戸惑った。どうしてこんな視線を向けてくるのかがわからない。


「アタシの顔に何かついてるの、フラムちゃん?」

「どうしていつもソウイチが食事を作ってる? 何故ハツミが作らない?」

「そういえばそうですね、ハツミさんが作ってるところを見たことがないですね」


 フラムちゃんが放った一言に、アタシの食後の至福の時間は凍り付いた。それを聞いたシェリーちゃんも話題に乗ってくるけど、はっきり言って全く触れてほしくないところだった。


 自慢じゃないけどアタシはほとんど料理をしない。やって出来なくはないはずだけど、なかなかその機会に恵まれないから仕方ないといえば仕方ない。東京じゃ残業休日出勤の連続で家事なんてやってる暇無かったし、休日は溜まった洗濯物を処理するので手一杯。自炊なんて生ゴミを増やすようなことなんてしてる余裕もなかったから、いつも外食かコンビニ弁当、デリバリーばかりだった。


 付き合ってた頃は一度だけ手料理をご馳走したことがあったけど、その時は泣いて喜んでもらえたんだよね。あまりに感動されて、それ以降は外でご馳走してもらってばかりだったけど。きっとアタシの真心のこもった料理に心が打たれて、それに見合うものが外食にしかなかったということだよね。


「やって出来ないことはないよ? ただアタシも仕事で忙しいし、お兄ちゃんがこういうことは好きだから任せてるのよ」

「やはりハツミは出来る女。私の目に狂いは無かった」

「そうですよね、お洋服作りはとても素晴らしい腕ですし、料理なんて朝飯前ですよね」

「そうよ、アタシのあんかけ焼きそばはなかなかの逸品なのよ? 作れば皆泣いて喜ぶくらいなんだから」


 以前、残業続きの後輩たちに作って差し入れした時は、皆泣いて感謝したほどだったんだから。でもそれからは差し入れしようとすると誰かが代わりに料理するようになって、当番制の料理番ルールが出来たんだっけ。何故かアタシの名前は当番表になかったけど、きっと仕事に没頭するアタシのことを気遣ってくれたんだね。


 これでも色々と勉強してるんだよ? 料理レシピサイトは毎日見てるし、アタシはやればできる子なんだから。お父さんなんて誕生日に作ってあげた手料理を感激して泣きながら食べてたくらいなんだから、潜在能力は三ツ星シェフにも匹敵するくらいのものがあるんじゃないかとさえ思う。アタシの秘めたる力、我ながら怖い。


「じゃあ今度ハツミの料理を食べてみたい」

「いいですね、ハツミさんの手料理楽しみです」

「じゃあ今度仕事が落ち着いたら作ってあげるね」

「ワンワン! ワンワン!」


 何故か茶々が猛烈に吠えてるんだけど、何があったんだろう。しきりにシェリーちゃんたちの前を行き来しながら吠えてるけど、もしかして仲間外れにされてると思ったのかな。大丈夫、茶々だけ除け者になんてしないよ。


「茶々の分も作るから安心していいよ?」

「ワンワン! ワンッ!」


 茶々が吠えながら走り回ってるけど、そこまで喜んでくれるのは本当に嬉しい。茶々だって家族なんだし、仲間外れにされたくないよね。茶々が食べることを考えると、ネギ類を抜いて香辛料はごく控えめにしなきゃ駄目かも。まぁその辺だけ気を付けて、あとはフィーリングで何とかなるでしょ。これでもクリエイターだし、そのあたりの臨機応変な対応は任せておいて。


「ワンッ! ワンワン!」

「チャチャさんも嬉しそうですね」

「ワンッ! ワンッ!」


 茶々はシェリーちゃんの周りを駆け回ってるけど、そこまで喜ぶことないんじゃないかな。まるでシェリーちゃんに喜びを伝えきれないみたいな勢いだし、そこまでされると逆にこっちが照れ臭くなっちゃうよ。


「よし、じゃあみんなのために特別でスペシャルなあんかけ焼きそば作っちゃうから! そのためには色々と考えないとね!」

「うん、ハツミの手料理楽しみ」

「期待してます!」


 期待に満ちた目でアタシを見る二人と、そのそばで走り回る茶々。こうなったらもうアタシの実力見せちゃうしかないでしょ。アタシにかかれば料理なんて楽勝だし、もう二人はアタシの料理じゃなきゃ満足できなくなっちゃうかも。きっと「ハツミの料理が食べたい」とか「ハツミさんの料理じゃなきゃ満足できません」とか、もしかしたら「私のことをどうしてもいいから料理を作って」なんてことになるかもしれない。


 もし本当にそうなったらどうしよう。水着だって着てもらったし、お風呂だって一緒に入ってる。これ以上のことは自分でもどうかとは思うけど、本人から許可が出ればいいんだよね? 犯罪じゃないよね? そもそも二人に日本の法律なんて適用できないだろうし、セーフだよね?


 よし、決めた。今やってる仕事を速攻で片付けて、料理の準備に入ろう。厳選された素材に最高の調味料、そして最良の調理法でみんなの度肝を抜いてあげよう。たぶん二人はいつもお兄ちゃんが料理してるところしか見てないから、本当のところはアタシが料理が苦手だと思ってるはず。その考えが根本的に間違ってるっていうことをその身を、その舌をもって味わってもらおう。




 

初美の料理はお世辞にも上手ではありません。

読んでいただいてありがとうございます。

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