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巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者  作者: 黒六
真紅の侵略者
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6.披露

「きゃっ! 冷たい!」

「この程度の攻撃で屈してもらっては困る。まだまだ序の口」

「やったわね! こっちもいくわよ!」


 小さな沢ではしゃぐ人形のような小さな女の子。木漏れ日が生み出す光の帯に飾られた森の中の幻想的な光景と相まって、ここだけ現実から切り離されたような感覚すら覚える。絵本の一ページを切り抜いたかのような光景に思わず言葉を失う。


「お兄ちゃん、これって夢じゃないよね? アタシ実はもう死んじゃってて、天国に来ちゃったんじゃないよね? あ、でも今ここが天国なのは事実か……」

「落ち着け、初美」


 隣で混乱して狼狽える初美を宥めながら、俺もまた目の前の光景に見惚れていた……




**********



「じゃーん! すごいでしょう!」


 初美が覆っていた大きめのタオルを外すと、そこには水着に着替えたフラムとシェリーがいた。フラムは紺のスクール水着、胸にはご丁寧に名前の書かれたゼッケン付きだ。腰には小さなフロートまでつけているという徹底ぶりだ。きっと初美の入れ知恵だろうと初美を見れば、小さく首を振って呆れたような顔をした。


「そりゃこういうの狙ってなかったって言えば嘘になるけど、これだけしか用意してなかったわけじゃないよ? 他にも色々なデザインを用意した中で、フラムちゃんがこれを選んだんだから」

「そう、この水着は機能性に富んでいて、なおかつ露出を控えている。それでいて私の身体にフィットする素晴らしいものだ。私の迸る魅力を阻害しない点も素晴らしい」

「本当は水中帽も用意したかったんだけど、ちょうどいい素材が無くてさ」

「心配は無用、これ以上私が魅力的になったら世界が変わってしまうから」


 何故か自信満々に平坦な胸を張るフラム。どこに迸る魅力があるのかを聞いてみたい気もするが、かえって墓穴を掘りそうなので止めておく。これから遊ぶというのに気分を害するようなことはしたくない。それにフラムの背後に隠れるようにしているシェリーのほうに目が行ってしまう。


「あ、あの……変じゃない……ですか?」


 おずおずと姿を見せたシェリーは純白のワンピース、色白のシェリーの肌の色が水着の純白によってより際立っている。そして何より目が釘付けになってしまうのは、身体にフィットしたワンピースにより押し上げられて、くっきりと深い谷間を作っている胸元だ。腰から下にはパレオを巻いているために、その胸元がより強調されている。


「い、いや、変じゃない。すごく似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」


 年甲斐もなく緊張してしまい、そんなありきたりの言葉しか出てこなかった。以前は冒険者装備で身を固めていたし、最近はやや露出の高い服を着るようになったが、こんなに身体の線を意識させるような格好はしていなかった。普段とは違う大胆な格好、そして森の中の幻想的な風景が妙に異性であることを意識させる。こんな小さい(物理的に)女の子に異性を感じるなんて、今日の俺はどうかしてるのか?


「むぅ……やはり谷間を持つ者には敵わないのか」

「な、何を言ってるのよ……」

「ほらほら、そんなところで油売ってないで遊んできなさい。この辺りは浅いし流れも緩いから溺れることはないだろうし、茶々も一緒に行かせるから」

「わかった、シェリー、行こう」

「う、うん」


 初美に促されて茶々と一緒に水辺に向かう二人。茶々が周囲を警戒する中、ゆっくりと水に足を入れてゆく。夏場とはいえ沢の水はまだまだ冷たいので最初こそ恐る恐るといった様子だったが、そこは百戦錬磨の冒険者らしく、すぐに水温にも慣れてはしゃぎ始めた。ちなみにシェリーはパレオを取って遊んでいるので、綺麗な足が露わになっているんだがそこに気付くことなくはしゃいでいる。


「楽しんでもらえそうだな」

「そうだね。家から出てみれば少しは気分転換になるかと思ったんだけど、うまくいったみたい」

「畑に行った時は元気そうだったしな。今後は出来ることなら外に連れ出そうか」

「うん、でも見つからないようにしないとね」

「人のいる場所には連れていかないさ」


 彼女たちの小さな身体から見れば、我が家は広く感じるだろうが、それでも閉塞感は否めないと思う。カブトムシやクワガタという仲間がいるとしても、元の世界ではもっと広い世界を冒険していたと考えれば狭いところに閉じこもっていると知らない間にストレスが溜まっていたとしても不思議じゃない。


 人間だってストレスが過剰に溜まれば身体に異常が起こる。となれば俺たちよりもはるかに身体が小さい彼女たちの心の許容量はどのくらいだろうか。身体の耐久力はどれほどのものだろうか。少なくとも俺たちよりも強いなどと決めつけてはいけないはずだ。


「ソウイチさーん、とても冷たくて気持ちいいです!」


 水の冷たさに辟易することなく、腰のあたりまで水に浸かってこちらに手を振るシェリー。長い金髪は邪魔にならないように団子状に纏め上げられており、白いうなじが露わになって健康的な色気を醸し出す。


 あんな小さな、人形のような女の子に色気を感じるなんて、もしかしたら俺も初美の思考に染まりつつあるのかもしれない。ちょっと待て、俺はまっとうな性的嗜好の持ち主のはずだ。確かにここ数年は恋人がいたことはないし、東京でサラリーマンしていた頃の恋愛についてだってまともな恋愛だったと言い切れる自信はない。


 ただ……あんな天真爛漫な女の子、今のご時世に存在を確認することはツチノコを探すよりも難しいと思うし、その純粋さに惹かれつつあるのであれば、それは自然なことなのかもしれない。

読んでいただいてありがとうございます。

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