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「な?なんですか?う、売る?」
「そうよ~。この繭、キチンと調べないと詳しいことはわからないケド、ヤバイわよ~。そもそもコレ、リッカのためにこのコが作ったものヨ。キモチが目いっぱいこもってる分、性能がヤバそう~!!」
リタさんは話しているうちに興奮してきたのか、だんだんと身振り手振りで近づいてきた。ちょっと迫力負けしたリッカはすこしづつ後退していった。当然部屋の中は壁があるわけで、ドンッと、壁に背中をぶつけたところで逃げれなくなってしまった。そこにリタさんと御使い様2匹が迫ってくる。思わず悲鳴をあげてしまったリッカは悪くないはずだ。
「とりあえず落ち着きましょう。」
神官様に止められたリタさんはちょっとばつが悪そうな顔してお茶の用意をするために出て行った。
部屋を二人で少し片して手持無沙汰になったリッカは繭をじっと見ていた。
「これはあなたが倒れた後に御使い様が作られた《癒しの繭》ですよ。」
「《癒しの繭》?」
「はい。リッカさんはなぜこの国で御使い様が召喚されるようになったのかご存知ですか?」
「ええと・・・昔戦乱の時代に一人の王が戦で大怪我をした。そのとき銀の女神さまが王の前に姿を現しになって怪我を癒し、御使い様を遣わし王を導いた。その王がこの国の建国王で、感謝の気持ちを信仰にした。」
「そうよ~。だから出発する人に願いを込めて『銀の祝福がありますように』っていうのよね~」
優雅なしぐさでティーセットを運んできたリタさんを手伝いながらお茶の支度をする。
とてもいい香りのハーブティーだ。
「そして銀の女神が遣わした御使い様は『白と黒の対の蜘蛛だった』と伝わっています。」
「だから、リッカちゃんは薬師のワタシのところに来たってわけよ。ワタシの御使いサマは白い蜘蛛ですからネ~。《癒しの繭》は治癒力を増幅させる薬の材料なのよ。ましてやあの黒蜘蛛の《癒しの繭》だもの、この大きさならこのおうちぐらいの価値はあるわ!!」
「≪癒しの繭≫に包まれた者は『状態異常解除』や『治癒』の効果があるのです。もちろん、御使い様が繭を作るのですから相手を選びます。あなたはパートナーとして認められてるようですよ。」
そんな風に言われてみると御使い様に対しての何とも言えないこそばゆい気持ちにうひ~っと、なり、じっと御使い様を見てしまった。
・・・たしかに心配してるような気配が伝わってきたような?それに艶やかに光っているつぶらな瞳も可愛いような?前あし?の2本がもじもじしているように動いているような?
ちょろいな~。わたし。
でも、自分のことを気にかけてくれる存在に好意が出てきてしまうのは当然の成り行きで、あれだけ嫌悪感を覚えていた8本のあしでさえ可愛く見えてきた。まだちょっとビクついてしまうけど、だんだんと慣れていけるのかしら?
「ホントは御使い様のセンパイにいろいろ教えてもらって将来のお仕事を決めていくのだケド、リッカちゃんの場合はもう決まっちゃってるのよね~」
「御使い様が蜘蛛だから薬師になるってことですか?」
「そうです。ただでさえ希少な薬師なのに御使い様が黒蜘蛛ですから、リッカさんの価値は高まっていくはずです。」
「ダイジョウブ。ボク、りっか、守ル」
「オレモイルカラ安心シロ」
いきなり室内にボーイソプラノの声が響いた。黒髪の少年と白髪の少年が突然現れたのだ。
「りっか、ダカラボクノ≪唯一≫ニナッテ?」
ぶほおっ、とお茶を吹き出したリタさんにびっくりしてると、いつの間にか近づいてきた黒髪の少年にぎゅっと抱きしめられてしまった。
包み込んでいる腕を離そうと格闘していると神官様が驚いたように二人の少年を交互に見ていた。
「これが黒と白の御使い様の能力ですか。初めて拝見いたしました。非礼をお許しくださいませ。」
急に片膝をついて臣下の礼をした神官様に白髪の少年が言った。
「イイノダ、神官。りたニモ許シテイル。トガメナイカラ普通ニ接シヨ。」
ありがとうございますといって立ち上がった神官様にリッカは説明を求めた。