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ふわっとした心地のものに囲まれているのが分かった。ぽかぽかしてて、優しさに包まれているみたいでとても気持ちがいい。なんとなく指先に感覚が戻ってきた感じがした時、くぐもった声が聞こえてきた。
「やりすぎなのですよ。体は男性なのですから」
「だって~あまりにも可愛らしいコだったから力加減忘れてて・・・。」
「・・・。あなたを信用してリッカを預けるのですから、くれぐれも間違えの無いようににお願いしますよ。」
「わぁかってるわよ~~。」
「すねても可愛くありませんよ。」
「んんん~~~。相変わらず冷たいんだから~~」
・・・神官様と、だれ?
その時、ぱきぱきと薄氷を剥がすような音が聞こえたと思ったら、急に眩しくなった。
「あ、目が覚めたようよ~。」
「大丈夫ですか?」
どこかわからなくって見回した目に入ってきたのは、暖色でまとめられた応接室だった。可愛らしい、上品な調度品で統一された応接室はとても心地よい。
・・・ああ、こんな部屋に住みたいなぁ。
猫足の艶やかな紅茶色のテーブルに、鮮やかなのに周りと調和がとれているふかふかしていそうなソファー。そして優しいピンク色した繭のようなもの・・・。
・・・まゆ?
自分の目に入ったものが信じられなくて固まっているリッカの鼻先に白と黒の蜘蛛が2匹並んでいた。
ざっと一気に血が下がってまた倒れそうになるリッカをがしっと支えてくれる腕があった。
「おっと、危ない。大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます。」
横から腕をつかんで引っ張ったので、後ろからすっぽりと抱えられているような体勢になる。
条件反射のように振り向くとそこには優しい笑顔を浮かべた神官様がいた。ふっと匂ってきたミント系の匂いにドキドキしていると、ふてくされたような声が聞こえてきた。
「なによ~~。イチャイチャしないでよ。ここはアタシのうちよ。もう。」
「イ、イ、イ、~イチャイチャとかしてませんから!!」
「そうですよ。そんなことよりリッカさんの体調のほうが先ですよ。気分はどうですか?」
少しかがんで目線を合わせてきた神官様ににっこりと笑い返した。
「大丈夫です。ちょっとめまいがしたけど、御使い様にびっくりしただけですから。」
「・・・まだ御使い様は苦手ですか?」
困ったように問うてくる神官様にとても悪い気がしてうつむいていると、頭を撫でられた。
「安心してください。主は一人一人必要な御使い様を遣わします。起こる全ての事には意味があるのです。ちゃんと見届けますから前に進みましょう。」
神官様の言葉の意味を噛みしめた。咀嚼して理解すると視界が急に明るく開けてきた。よし、いける。
「はい!頑張ります!」
「はいはい、ちょっといいかしら~」
リッカと神官様の間に繭の欠片を押し込んできたのは家主さんだった。
「わたしの名前は~リタよ~。よろしくお願いするわ~」
「リッカさん、こちらはリンデンさんです。あなたと同じ蜘蛛型の御使い様を召喚された方ですよ。今日からお世話になる方ですので挨拶をしましょうか。」
「はい。はじめまして、リッカと申します。よろしくお願いします。リタさん。」
リタさんがびっくりした後にバラが咲いたように微笑んだ。
「ありがとう、リッカ。これからよろしくね。とりあえず、この繭をどうにかしちゃいたいんだけど。」
「うう・・・。やっぱり繭でしたか。」
「そうね~。とりあえずこの繭、私に売ってくれない?」
「・・・は?」