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神聖な雰囲気の中、天井のステンドグラスから一条の光が差し込んでいる。その光が降り注ぐ先は、聖堂の中央に置かれている台座。その表面は純白な最上級であろう美しい布で覆われている。
台座のすぐ横には一人の小柄な黒髪の少女と神官服に身を包んだ老司祭が固唾をのんで台座を見つめていた。純白の布上に祝福の銀の光がしゅるしゅると集まって形作られていった。
そして・・・
「ぎゃああああああああああああああ~~~~~~~~~~」
大絶叫が響き渡った。
私の住む世界には14歳になると聖堂で召喚が行われる。それは、成人の儀という意味と、生涯にわたって共に生きていく供を天上の神が遣わしてくれる、という二つの意味があるのだ。
そうして遣わされる生物は多岐にわたり、動物、植物、一人ひとり違う。たまに種類的に被ってしまうが一応違う生物らしい。らしい、というのは、今のところ神の御使いを調べるような罰当たりな不心得な人間はいないからだ。もちろん生理的にいやなものが遣わされても、チェンジはナシだ。文句もナシ。内心どう思っていようが、ナシ、なのだ。なぜなら神の御使いだからだ。
そんな世界に住む私、リッカは昨日、めでたく14歳を迎えたわけだが・・・
「なんで・・・よりによって、蜘蛛なの・・・」
私は蜘蛛が生理的に苦手、いや嫌いなのだ。ダメなところを挙げていくときりがないのだが、一番ダメなのはあの足!もじょもじょしている癖に滑らかに動くものが8本もあるのだ。なんで!何で8本?細かいことはよくわからないけど、虫は6本でしょ?だいたい・・・
トントン
「いつまで寝てるの?今日から学校でしょう。最初から遅刻なんてはずかしいわよ。」
ノックとともにリッカの部屋に入ってきたのは姉のメリッサだ。肩にはシマリスが乗っている。ヒマワリの種を持っている小さい手とモグモグ動いている口を見て癒されていると時間を忘れそうになる。
「リッカ?どうしたの?ぼーっとして。」
ほほをかわいらしい仕草でつつかれて、我に返ったリッカは現実を思い出した。
「大変!遅刻だけはまずいわ。」
「ふふ。あさごはんはできてるわよ。」
「ありがと。姉さん。」
ぱたぱたと支度をしていると背中からぞぞぞと何かがやってきた。
「!!」
ちょっと涙目で振り返ったリッカの目に入ったものは虫かごの中に入れられた真っ黒い手のひらサイズの蜘蛛だった。
ひっ!!っと息をのんで固まっているリッカを見たメリッサは仕方ないわねぇと、虫かごの持ち手をもって
「先にリビングに行ってるわよ。この子は私が持っていくから早くいらっしゃいね。」
と、扉を閉めて出て行った。
「あああ~無理。やっぱ無理・・・蜘蛛と生涯一緒とか。」
ぶつぶつ言いながら仕度を終えて、朝ごはんを食べたリッカはなるべく左手に持った何かを意識しないようにして家を出た。
「いってきまーす。」
「はい。いってらっしゃい。あなたに銀の祝福がありますように。」
この国には2種類の学校があり、今日から通う学校は召喚のための学校だ。午前中は神の御使いの歴史や存在の意味、召喚した御使いとの意識のつなげ方を勉強し、午後は同じ種類の御使いのところで実習を受ける。これを一週間続ければ終了だ。この後は各自、身の振り方を考えなくてはならない。
午前中の座学をなるべく左側を見ずに乗り切ったリッカは案内の神官様とともに、町はずれの森にむかった。
町はずれの森には魔獣が多く現れるため術が使える神官様と向かったのだが、森奥近くに見えてきた一軒家には度肝を抜かれた。まるでおとぎ話に出てくるようなかわいらしい「おうち」だったのだ。
魔獣除けのための柵が家の周りに張り巡らされて、大きな門につながっている。門を力を込めて二人で開けると大きな影が覆いかぶさってきた。
「や~~~~ん。かわいい~~~~!!!もうだめ~~がまんできないわ~~~~!!」
いきなり目の前が暗くなり、いい匂いのものに力強く包まれた私はびっくりしたのと息苦しさに、生まれて初めて意識を手放した。