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嫉妬

作者: とむやん

はじまり、はじまり。

 ある所に、とても幸せな男がいた。頭脳明晰、容姿美麗、運動神経抜群。その万能さを惜しみ無く使い、一代で財を成した。高級車に囲まれ、ビリヤードの腕前はプロ級、奥さんは元世界のトップアイドル。けれど決して奢ったりせず、いつも誠実さを忘れない。メディアは男を完成者と呼び、世界中の人間が男を羨望の目で見ていた。


 その中に、なんと神さまも混じっていた。神さまは男に嫉妬していた。どうして自分よりも幸せな人間が生まれてしまったんだ、と。アダムとイヴは失敗から生まれたと言われているが、本当は嫉妬深い神さまが、自分よりも幸せになることがないよう、あらかじめ欠点を作っておいたのだった。なのに、男には欠点が見当たらない。神さまは悔しくてならなかった。


 ある時、ついに我慢ならなくなった神さまは、男に呪いをかけると、一通の手紙を男の家に送った。


 「おまえにノロイをかけた。おまえが"まばたき"をするたびに、セカイのどこかでだれかがシんでしまう。それはチキュウのうらかわにすむジサツシガンシャかもしれないが、もしかしたらすぐとなりにいるおまえのツマかもしれない。とにかくおまえはまいにちまいにち、どこかのだれかをころしつづけるのだ。…なお、もしおまえがじさつしたばあい、せかいじゅうのニンゲンがシぬこととする」


 完璧だ、神さまはそう思った。まばたきを我慢することなんて、出来るはずがない。あいつは一生、自分の身を呪いながら生きていくのだ。きっと誰からも相手にされなくなる。それは、人間にとって最大の不幸だ。


 しかし、男は優秀だった。すぐさま人工冬眠装置を用意すると、あらかじめ呼んでおいたマスコミを通じ、全世界にこのことを発表した。

 史上最大の英雄。神に勝った男。男は今や、世界中からの拍手喝采を受けていた。


 どうしてこうなるんだろう。神さまはテレビの前で地団太を踏んだ。今すぐにでも地球全体を海で沈めてしまいたかった。


 冬眠ベッドを前にして、男は自分が今からたった一度、目を瞑ることで死んでしまうだろう、何処かの誰かに向かい深く陳謝した。そして、ゆっくりとまぶたを閉じていった…。


 もう嫌だ、こんな世界は創り直すべきだ。テレビを蹴り壊した神さまは、早々に南極大陸の氷を溶かす準備を始めた。

 その時。


 ドキン。


 数十億年もの間動き続けた心臓が、急に、止まった。



(おしまい)


初出:高校文芸部誌に投稿。

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