006-左腕
加筆修正をしました。
場所は前話《鋭風》。
内容は、フォレストエッジの特性で、
《前足から大量の魔力を放出している》
です。
アルスの剣が斜めに入り、フォレストエッジの後ろ足を切り裂いた。しかし、相変わらず出血もせず、すぐに修復してしまう。何度斬りつけようとも、結果は同じだ。
(くそっ……)
ゲードのほうもどうやら同じらしく、どれだけ強い一撃を加えようともそのほとんどが弾かれてしまっていた。
(やっぱり、このギミックを理解しないと駄目だ……)
そのためにも、やはりいろいろと試してみる必要がある。今はなにより情報が足りていないのだ。
そう考えると、アルスはターゲットを変える。だがあくまで範囲としてはフォレストエッジ後方だ。前方に行ってこの状況そのものを変えるつもりはない。
(まずはここから!)
アルスは剣を低く構え、真っ直ぐと前進した。彼の狙いはフォレストエッジの前足からユラユラと漂うところだ。丁度風になびくようにして後方に伸びているから攻撃を当てやすそうだ。フォレストエッジ自体今はゲードに注意を向けているようだから、回避されることは少ないだろう。
慎重に狙いを定め、アルスはそれを左方向に逆袈裟に斬りつけた。すると、不思議な感触を覚えた。結果から言ってしまえば、この攻撃はあっけなく弾かれてしまった。フォレストエッジに触れたか否かという一瞬の間に、まるで跳ね返されたかのように。
しかし、そのときアルスはまるで剣で弾き返されたような感覚を得たのだ。それはただ堅いものに弾かれたのとは違うものだ。明らかに、別の何かがある。
(斬るのがダメなら、突きでどうだ……?)
一度フォレストエッジとの距離を開け直すと、体勢を整え、後ろから突進した。
すると至近距離で突き出したアルスの剣の先が見事すぅっと通っていく。……ように思えた。しかし実際は、剣先がわずかに当たった後、またしても弾き返されてしまっていた。
だが、
(何度も何度も同じようにくらってたまるか!)
弾かれた反動を利用し体を捻ると、アルスは一回転し再びフォレストエッジを斬りつけた。しかし、それでもやはり弾かれる。それも、先程とまったく同じ方向に。さすがにアルスもきりがないと思い、再び後退した。
(一体何なんだあの感触は……)
いま存在するたった一つのヒント。だが、これだけでは足りない。まだなにか大事なものがあるはずなのだ。
(次は……)
足に突きをいれてみよう。と、そう思い動こうとしたところで思い止まる。フォレストエッジの注意がアルスに向いたのだ。近くにいた所為か、それはただ方向を変えるだけで、頭を思いきり振りアルスに頭突きをかまそうとしてきた。あまりに近すぎた所為か、どうやら回避が間に合いそうにない――。
刹那、フォレストエッジは突然悲鳴をあげ体勢を崩した。何が起きたのか、アルスは驚いたが、その答えはフォレストエッジのさらに奥に立っていたのだ。
「助かりました! ありがとうございます!」
それは、ゲードが撃ち放った強烈な突きであった。フォレストエッジが悲鳴をあげるほどだ、相当深い傷に違いない。
そう思いながら距離をとったところ、
(…………?)
アルスが疑問に思ったのは、フォレストエッジのゆらゆら揺れている部分。そこのサイズが若干しぼんでいるように見えることだった。
(いや、やっぱりしぼんでる。なんでだ……?)
そう確信したアルスは、理由を考えてみる。
(なにか、変化があったはずだ。……やっぱりダメージか? いや、それなら今までだって与えてきた。それに、角は再生してないし……。だけどそれしか思いつかない……。この仮説が正しければ、もしかしたら勝てるかもしれない……!)
アルスはそう考えると、早速行動を開始する。
一気に距離を積め、体勢を崩している所為で無防備なフォレストエッジに一撃を加える。勿論狙いはしぼんだパーツだ。
(くっ、やっぱだめか……)
攻撃は案の定あの感触と共に弾かれてしまった。だが、それでもわずかな手応えを感じていた。先ほどまでのものとはまるで違う。
(……?)
何かが光った。発光したわけではない。なにか光沢を持ったものが散ったのだ。
アルスはそれを目で追い、そしてそこへ向かった。フォレストエッジは体勢を立て直そうとするところでゲードに邪魔され思うように動けていない。今こそがチャンスだろう。
足元には何もないように見えた。もちろん本当にないわけではない。しかしかなり目を凝らさなければ捉えることは難しいだろう。それは、粉だった。何の粉かはわからないが、とても細かく、そして足場の石材との保護色で見つけづらい。
(なんだろう……)
疑問に思い、アルスはそれに手を伸ばした。すると、
「痛っ!」
何かで刺したような、あるいは切ったような地味な痛みが走る。それはまるで、はじめ回避のときに感じたような痛みだ。――このとき、アルスの仮説が完全なものとなる。仮説ではなく、答えにたどり着いたのだ。
まず、前足や頬から漂うあれが再生能力に関与していること。そして攻撃がまるで打ち返されたように弾かれるのは、主に体前方にこの刃のような微粒子が集中しているから。そしておそらく、その微粒子はあのユラユラと揺れる物体のなかで流動している。げんに、あれがしぼんだとき、つまり微粒子の量が減少したときに攻撃が通ったのだ。そして、その微粒子を集合させているものはおそらく検索した情報にあった魔力。そうなれば、もうやることは一つしかない。
(――俺が魔力源を破壊する……!)
そうすれば、きっと再生も出来ないはずだ。ゲードもいることだし、これで勝てるかもしれない。希望が見えてきた。
「ゲードさんっ!!」
フォレストエッジに意味のない攻撃を繰り返すゲードの名を呼ぶ。
「もうちょっと抑えお願いします! それと……あと、頼みました」
ゲードとアルスの視線が合う。ゲードの瞳は鋭く、どこまで見据えているのか想像もできない。またアルスも、自分でもどこまで見えているのかわからなかった。
ゲードは何も言うことはなく、ただ頷く。アルスもまた、それに感謝するように頷いた。
「行くぞ……」
(……魔力源は前足の膝だったはずだ。だが、きっと剣は硬いからすぐ弾かれる。だから生身で行くしかないだろう。肉なら弾かれずただ刻まれるだけだ。それなら、あるいは壊せるかもしれない。幸い、発生源はやわらかそうだしな)
よし、とアルスは覚悟を決めた。そして、右手で剣をぐっと握り力を込める。走り出した。
考えることはただ一つ、勝利と、そして未来のみ。ゲードに望みを託し、アルスは左腕を伸ばした。
「――ぐッ!! あ゛あ゛ああぁぁぁぁッッ!!」
そこはまるで乱気流、あるいは嵐のように刃の粉が舞っていた。次から次へと肉を抉り、刻み、引きちぎり、切り裂いていく。その痛みは尋常ではない。途中からは本能的に痛みをシャットアウトしてしまい、もはや感じるものはない。――だが、それでもアルスは軟体を掴んだ。そして、持てる力の全てを振り絞って潰そうをした。
腕がきしむ。カルシウムの結合が歪んでいくような感覚がある。
(……耐えてくれよ、俺の左腕……。ここで終わるわけには行かないんだ…………)
ここで潰せば、アルスたちの勝ちとなる。
(くそっ、痛い。――だが、あいつのためなら、こんな痛み、なんでもねぇ!)
「ああああああぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
アルスの雄たけびが響き渡る。意識は朦朧とし、いまにも飛びそうだった。
最後の激痛とともに、左腕の感覚が完全になくなった。
刹那、フォレストエッジの流動していた魔力がはじけるように霧散して行った。アルスは左腕と引き換えに、見事再生能力を消すことに成功したのだ。
このあとはゲードが引き継ぐ。アルスは力を失ったかのように地面にばったりと倒れた。意識を集中すれば、もうHPは残り14だ。
(……その覚悟、しっかりと見届けた。あとは、私に任せろ……!!)
ゲードは一歩踏み込むと、手に持った剣を思い切り引き、そしてその自慢の突きをフォレストエッジの胴目掛けて撃ち放つ。その一撃はフォレストエッジの肉を抉り、そしていままで一ミリも出なかった鮮血を弾けさせた。フォレストエッジは完全に転倒し、足をじたばたさせるがそれも無意味。野性の力か、動きに瞬時に対応し、ゲードはその足の一本一本を断ち切り霧散させた。そして、完全に無防備となったその体に、とどめの一撃を与える。魔物に慈悲は必要ない。フォレストエッジは五メートルはあろうその巨体を完全に静止させ、そしてゆっくりと形を崩していった。この光景を、アルスは見ていない。彼の意識はすでにこの場にはないのだ。
彼の意識は、今――――。
時間の問題で中途半端になっちゃって申し訳ないです。
本当は今回で終わらせようと思ってたんですがね;




