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終ヘ旅スル技能写師 -world end:re start-  作者: 片岡 雅
Chapter3:ガーディアンズベル
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030-結晶

 久しぶりの神殿外は、なかなか刺激的なものだった。どこを見てもモンスターだらけというわけではないにしろ、その脅威は計り知れない。こまめに休憩を取り、常時周囲警戒。エストーラからまっすぐとのびた兵団の遠征用ルートを通って妖精族領まで目指す。


「今日は日差しが痛いな……」


 まだ春前だというのに、と一人愚痴をこぼす。

 首に下げたネックレスを透かして空を見上げてみる。球状の翡翠色の結晶は、強すぎる光を通すとより一層輝いて見えた。ふと、脳裏にシエラやハンナさん、アイザック兵士団長らエストーラの人々の顔が脳裏に浮かんだ。俺が街を出るとき無駄に盛大に送り出してくれた彼女らのことが、なんとなく懐かしく思えた。まだたった二日しか立っていないというのにだ。目的地にも明日にはたどり着けるはずだし、そこらで少し休むとしようか。



   +++


 エストーラの正門に立つのはここを訪れたときぶりだが、改めて見るとでかい。街を囲む壁からはだいぶ中が見えたが、扉からは外も一切見えない。だがしかし、この強固な扉を開けるのに人の力は要らない。扉横の小部屋にあるスイッチを押すと自動的に開閉がされる仕掛けになっているのだ。あのギミックはなかなかに興味深い。俺の知的好奇心を奮い立たせるには十分すぎるほどだ。……がしかし、残念ながら俺はこれから遊びに行くわけではないのだ。ギルドマスターからのじきじきの依頼、真面目に取り組まねばなるまい。


「それじゃぁ、行ってきま――――」

「我らが英雄の出発だ! 盛大に見送ろうぞ!」

「エ……」


 わあああぁぁ――――!!!

 ぱちぱちぱち!!!!

 まぁ、別に気分が悪いということはないのだが。

 相も変わらずアイザックの大げさなところは慣れないみたいだ。


「あ、あははは。どうも。じゃあ、行ってきま――――」

「――待って!」


 まったく今度は何だ……。

 少々呆れ気味で振り返る。するとそこで俺を呼び止めていたのは、いつもの巫女衣装に身を包んだシエラであった。今日はどうしても外せない用事があるといって朝早くから顔を見せなかったというのに、いったい何故ここにいるのだろうか。


「シエラ、ど、どうしたんだ? そんなに慌てて」


 みればだいぶ息もあがっている、ずっとここまで走ってきたのだろうか。


「ア、アルスにこれを渡そうと思って……」

「これを?」


 それはネックレスのようだった。小石サイズのまんまるの結晶がついたもので、その色はまるであのフィーを思い出させるような美しい翡翠色だった。


「それ、お守り。商業ギルドの人に作ってもらったの。きっとあんたを助けてくれるはずよ」

「そうか……。ありがとうシエラ」

「礼には及ばないわ。私なりの感謝の印よ。つけてみて?」

「ん? ああ、うん」


 ネックレスか……。


「どうしたの?」

「あ、いや、ネックレスってどうやってつけるのかな? なんて、ははは……」


 言葉の次、シエラの顔が呆れたといわんばかりの顔になったのを俺は見ていた。


「はぁ、仕方ないわね。私がつけてあげるわよそんなの」

「悪いね」


 そういってシエラは黙々と俺の首にネックレスをつけると、そのまま耳元で一言つぶやいたのだ。


「死んだら許さないからね」

「ああ、死なないさ。少なくとも家族が生きてるうちはな」

「……いってらっしゃい」


 ―――――――…………。



   +++


「……あれ?」


 頬が濡れていた。その上耳を澄ませば、洞穴の外からザーザーと音が聞こえる。


「雨、か」


 どうやら眠ってしまっていたようで、もう外は暗く、夜の光となる月ですらも分厚い雲に隠されてしまっていた。


「これは、軽く食べて朝までここで休息だな」


 雨に濡れてしまうのは得策とはいえないし、何よりも暗闇のなか移動をするというのは自殺行為でしかないだろう。普通の世界であったならば問題ないだろうが、今は魔物がいる。奴らが夜をどう過ごすかなどというデータも乏しいことだし、ここは大人しくしているに限るな。

 そうして俺は、再び意識を手放した。





   +++


「ここも誰も、いないなあ……」


 石造りの建築物。その古さゆえかところどころ苔やらツタやらでうっそうとしているが、ここももとは賑わっていた場所だ。

 始まりの日から数日でこの有様へと変貌を遂げたが、それでもまだ生活するには十分な備蓄もある。見張りにも使えるように約四層にもわたって作られているため、上下に行き来すれば頭の悪い魔物ならやりすごすこともできる。

 かけた石壁からさしこむほのかな光は、月明かりではないらしい。何しろ外は今雨が降っているのだ。どこか暖かさを覚えるこの光は、いつの日か尽きたであろう命の灯火。誰かを守ろうとしたのだろうか、それとも助けを求めていたのだろうか、その真相は定かではないにしろ、彼あるいは彼女が一生懸命に生きた一生は無駄になったのだろうか。

 そんな果てしない疑問をひとつ浮かべながら、少女は膝を抱えてつぶやく。


「私のは光るかな…………リク兄……」





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