極普通の反応(モ)
これは、『モノクロな日々』のこぼれ話です。
ですので、上記の物語の設定を使用しております、ご了承ください。
ストーリーとは一切関係がありません。
また、この話は4月の終盤頃の話です。
春の夜。
窓から見える世界は真っ暗。
光といってもごく小さなもので、あるとしても、街灯か、受験生の勉強部屋だ。
オフィスも、点々と電気がついている。
こんな時間は、人々は夢を旅しているものだ。
だが、漫画家である俺の姉、空乃は、原稿に追われそういうわけにはいかないようだった。
俺が部屋に行ったのは12時くらいだっただろう。
途中、姉の部屋のドアを見たときも、隙間から光が漏れていた。
漫画家ってめんどいんだなぁ……。
そんなことを考えながら寝たのだ。
「……舞! ……て! ……ったら!」
脳内に、聞きなれた誰かの声が響く。
俺はまだ夢を見てはいなかったが、もし見ていたとするならば、その声で夢から引きずり出されていただろう。
「……舞!起きて!優舞!聞いてる!?」
朝かと思いうっすら目を開いたが、朝特有の、鋭く明るい光はない。
「……まだ……朝じゃない……だろ?」
あ、起きたと言いながら姉がこちらを見た。
「そうよ、今は午前2時っくらい」
その淡々とした声に、少しイラついた俺はもう一度目を閉じた。
「あっこらっ! 優舞!」
その途端、姉が俺の枕抜き取り、俺は驚いて目をまた開けてしまった。
すかさず姉は電灯から垂れ下がる紐をとり、部屋の電気をつける。
「……何?」
「爪切り探して欲しいんだけど」
いつものとこに無くて、と続ける。
「……めんどい」
再度目を閉じたが、電灯の光のためか睡魔は来ない。
どうやら微妙に眠気が覚めてしまったらしい。
「ねぇー、爪切り! ペン握る時、爪が手に刺さって痛いの!」
「ああ! もう! 分かったっつーの!」
幸い今日はお母さんがいないため、怒りのままに大声を出せる。
いきなり起き上がった俺に、姉は目を丸くしたが、すぐに、下行くよ! と部屋を出て行った。
「あんじゃねーか!」
姉の様子の割に、爪切りは普通にあった。
というか居間の食事机の上に置いてあったのだ。
「だって、いつものとこに無かったんだもん」
いつものとこ、とは普段爪切りを入れている引き出しの事だ。
「そこに無くたって、普通にあんだろ! それぐらい探せよ!」
俺が近所に迷惑がかからない程度に、結構抑
えて怒鳴ると、姉は大袈裟にため息をつき、やれやれと首を振り言った。
「優舞も反抗期なのねぇ」
「こんな時間に無理やりおこされりゃ、誰だって怒るわ!」
春の夜、この声はどこまで響いたのだろう。