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「次は〜、トーキョーランド前〜、トーキョーランド前〜。
お出口は左側です」
ここは、私が覚えている中で、昔家族全員で来た唯一のテーマパークだったと思う。
仕事が忙しくて、家になかなかいなかった両親が、奇跡的に家にいた2日間。
そして、お兄ちゃんがいた・・・。
その1日目を、日本最大級のテーマパークで過ごしたのだ。
周りには、家族や友達、カップルなど、いろんな人達がいる。
それに比べて私は1人だ。
私のお兄ちゃんは、私より10歳も年上で、すごく優しいお兄ちゃんだった。
でも、私が5歳のとき・・・。
『俺の事なんてほっとけよ!』
『母さんも父さんも勝手なことばっかり。
少しは、夏海のことも相手してあげろよ!』
お兄ちゃんはケンカした。
電話ごしに言い合っていた。
その原因は、受験だった。
お兄ちゃんは私の世話に追われていて、充分な勉強ができなかった。
その結果・・・。
第一志望の高校におちた。
そのことで、お母さんがお兄ちゃんを攻めたらしく、ケンカになっていたのだ。
でも、その原因を作ったのは私で、私がしっかりしてなかったからいけなかったんだ。
『夏海、またな。』
そう言って、お兄ちゃんは家を出た。
私が13歳になるまで、お兄ちゃんはずっと家にいてくれた。
入学式にも来てくれた。
参観日にも来てくれた。
でも、運動会には来てくれなかった。
その運動会の日に、お兄ちゃんは出ていった。
私は止めることができなかった。
その日を境に、私はお兄ちゃんの名前を思い出すことができなくなった。
ぼんやりとシルエットだけ浮かんでいて、声だけ分かる。
お兄ちゃんはどこにいるのだろう?
もしかしたらこの旅で出会えるかもしれない。
そんな、都合のいい考えを持って、今、この場所へ来ている。
私は電車を降りて、トーキョーランドへ向かった。
『夏海、楽しみ?』
『うん!楽しみ!お兄ちゃんといっぱーい、乗り物に乗るんだよー!』
幼かった頃の私達が目の前にいる。
お兄ちゃんも笑顔で、お母さんもお父さんも笑顔。
みんなが笑顔だった。
やがて、目の前から過去の私達は消えて、私は1人でその場所に立っていた。