七話目 スノースマイル2
あれから、もう一度この季節が巡ってきた。
雪が、ちらほら舞っている。
ああ・・・、ホラ、雪降ったぞ・・・?
伝えたいのに、その相手は今居ない。
だから、僕は並木道を一人で歩く。
「君と出会えて、本当に良かった・・・」
誰に言うでもなく、空を見上げて呟いた。
あの時の乾いた空とは違う、綺麗な青空が広がっていた。
もうすぐ、季節は変わる。
もうひょっこりと、春が顔を出していた。
それなのに、あの子はもう居ない。
もうすぐ止むだろうけど、雪も降った。
あの時乾いていた空も、今では蒼く澄み渡っている。
それでも、喜びを一緒に分かち合いたい彼女は、居ない。
ポケットに手を突っ込みながら歩いて、ポケットの中に彼女の温もりを感じる。
否、感じるわけは無い。あれから時間は過ぎた。
今着ている服も、あの頃とは違う。
それでも、僕はポケットに彼女の温もりを感じていた。
僕の手だけが入っているポケットの中で、ギュッ、と拳を握る。
目頭が熱くなるのを感じて、僕は目を強く瞑った。
これから何度も、季節は巡る。
僕はその度に、きっと思い出すから。
あの日、君としたキャッチボールを。
あの日、君と並んで歩いたこの道のことを。
あの日、君の手をポケットの中で握ったことを。
あの日、君が居る景色を必死で覚えようとしたことを。
あの日、君を後ろに乗せていたことを。
あの日、確かに温もりを背中に感じていたことを。
そして今日、今、確かに僕は君の事を覚えていることを。
僕には夢があった。
些細な夢だった。本当に。普通だったら、簡単に適うはずの夢だ。
だけど、それはもう叶わない。
“君とずっと一緒に”。
もう、叶わない。
それでも、忘れない。
あの日、君が僕の隣に居た事を――――
あの日、君が僕と一緒に生きていた事を――――
きっと、きっと僕は、忘れないから――――
最終話です。
三日で完結、とか言ってたのに、三倍以上の日数を掛けてしまいました。
何は無くとも、楽しんで頂ければ幸いです。