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六話目 銀河鉄道 〜乗客の話〜

今まで住んでいた街に別れを告げる。なんて、ドラマみたな節を頭に浮かべつつ、実際はそんなことしない。

別れを告げるほど、この街に良い思い出は無かった。

ただ自分の席に座って、流れる景色をボーっと眺めていた。


おかしな話だ。


そう思う。

俺は止まったままなのに、実際は時速200kmで爆走しているのだ。

どっちだよ、と、冷めた声が漏れた。

こんな面白いこと、黙って自分だけで楽しむのはどうだろう?

皆に教えてやろう、と考えて、

あぁ、そうか・・・。

俺の周りに、知り合いは一人も居なかった。


今日は引越しの日だった。

見送る奴は居なかった。

ただ一人で街をでて、こうして一人で電車に乗っている。

別に、見送って欲しかったわけでもなかった。

強がりとかじゃなくて、本当に。


ふと、通路をリボンを付けた可愛らしいクマが転がってきた。

いや、唯のぬいぐるみだけども。

俺は迷ったけど、一応それを拾った。座ってるの通路側だし。

そうすると間も無く、幼い女の子が駆けてきた。

このクマはその子のなのだろう。俺がぬいぐるみを持っているのを見て、

「何でアンタが持ってんだ!?」

みたいな顔をした。

拾ってやったんだろ。とか考えながら、別に何も言わずにぬいぐるみを差し出す。と、少女も何も言わずに、ひったくる様にしてぬいぐるみを持っていった。

・・・いや、まぁいいんだけどな。


・・・・・・・。

まぁ、いいや。もう寝ようかな・・・。

夕べは荷造りやら何やらで寝るのが遅かった。

俺はシートを倒して寝ることに――――


「チッ!」


――――するかどうか迷った。

何故ならシートを倒したと同時に、後ろから漠然とした嫌味の象徴が聞こえてきたからだ。

いや、ただの舌打だけども。

何だよ。このレバーはシートを倒すためにあるのと違うのか?

そんな事を考えだが、

まぁ、いいや。そんなものは聞こえない振りに限る。

俺は目を閉じた。

「・・・・・・・・」

「チッ」二回目。

「・・・・・・・・」

「チィッ」三回目。

「・・・・(寝れるか)」

俺は何も言わずに、黙ってシートを起した。

いいさ、別にシートを倒さなくても寝れる。

それに、別に寝なきゃいけないというわけでもない。


窓の外を見た。

さっき停まった駅から追いかけてきたのかどうかは知らないが、自転車が見えた。

坂道を下りながら、猛スピードで電車に並ぼうとしている。

いや、無理だろう。

自転車だろう?これ電車。

無理だろ。競輪選手でも無理だよ。ギネスだよ、追いついたらさ。

そればかりか、自転車に乗ってる男は電車に向かって大きく手を振って何かを叫んでいる。

何を言ってるか気になったが、さすがにそれを聞くほど俺も性根腐っちゃいない。

それでもなぁ、と思う。

止めてやれよ。恥ずかしいだろ。この電車に乗ってる相手が。

どんだけ見送りたいか知らないけどさ。

絶対、後々から後悔するんだ。

なんであんな事したんだろう・・・?って。

そんな冷めた事を考えながら、視線を外した。

外して、


ああ、羨ましいのかもな。


と、心の中でそんな事を思う。

いや、そうなんだ。きっと。

羨ましいんだ。

俺は止まったままだから・・・。


何もやらないままで、何かしてる奴を笑う。

何様だ、俺は。

役にも立たないし、邪魔はするし・・・。

そんな事を考えていたら、何だか辛くなって俺は目を閉じた。

が、目を閉じたらまた何か考えちゃいそうで、仕方無しに、目を開けた。


え・・・?


真っ赤なキャンディーがあった。

目の前に。差し出されていた。

驚いたけど、何が何だか解らない内に、俺はそれを受け取っていた。

差し出していたのは、さっきぬいぐるみを拾ってやった女の子だ。

女の子は笑って、「ありがとう」と言って自分の席に戻っていった。

満足そうに。


あ・・・?

んだよ・・・?

涙が、頬を伝っていた。


何でだろう?

解らなかった。

何で泣いているんだろう・・・?


解らない。


ああ、それでもいいか・・・。

俯きながら目を覆って、そう思う。

それでいい。それでもいい。

今は泣いておこう。

そう思う。


電車は進む。俺を乗せて。

出迎える人すら居ないであろう、まだ見ぬ街に向かって。

動いていない、と、

何もしていない、と、

役に立たない、と、

そう思っていた俺も、

動いていた。

ちゃんと。ちゃんと。

動いていなかった俺でも、


「ああ・・・、ちゃんと、進んでんだ・・・」




駅で降りた。

俺は何故か笑顔だった。

目は多分赤かった。

それでもやっぱり笑顔だった。

思ったとおり、駅に出迎えは居なかった。

それでもよかった。

ここから、またスタートだ。

俺は荷物を担ぎなおして、そんな事を考えた。

「あの・・・」

「え?」

声を掛けられた。後ろから。

俺に声を掛けたのは女の人だった。

大きな鞄を持って、俺と同じように赤く目を腫らしていた。

「あの・・・、○○病院って、どこだかご存知ですか?」

「ああ、それなら」

俺は予め調べておいたこの街の図面を思い出しながら、その場所を説明した。

確か、駅から歩いて三分も掛からない場所にあったはずだった。

「ありがとうございました」

その人はふわり、という感じに笑った。

本当、そんな感じで。

ああ、この人かな、と思った。

あの自転車の男の見送りたかった人は、と。

全然根拠も何も無かったけど、そうだろう、と思った。

そうだったらいいな、と思った。

その人は俺に頭を一回下げて、病院に向かっていった。

俺は早速この街で人の役に立てた。

今度はこの街を、好きになれそうだ。そう思った。

ラスト一話です。次で終わりです。

ともかく楽しんで頂ければ幸いです。

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